《本記事のポイント》

  • ICBMでアメリカ本土をいつでも攻撃できるとアピール
  • 空中起爆で被害は拡大させられる
  • 戦術核弾頭の小型化は巨大な脅威

元航空自衛官

河田 成治

河田 成治
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。

北朝鮮は今年に入ってからもミサイル発射を繰り返しており、4月8日時点で、すでに少なくとも22発を発射しています。これは数年前の1年分にあたる数をわずか3カ月で発射している計算になります。

しかもミサイルの種類と発射方法が格段に多様化しており、性能についても侮れません。今回は、北朝鮮のミサイルについて解説しつつ、北朝鮮の脅威に関する現在位置をご紹介したいと思います。

ICBMでアメリカ本土をいつでも攻撃できるとアピール

北朝鮮は2月18日、ICBM「火星15」を発射しました。これはアメリカ本土を攻撃出来るミサイルですが、北朝鮮側は、「事前計画無しの抜き打ち指示による即応発射訓練」だったと発表しています。

つまり北朝鮮はすでに実戦配備を完了しており、いつでもアメリカ本土を攻撃出来ることをアピールしたものと思われます。発射はロフテッド軌道(通常の飛翔経路ではなく、山なりに高く打ち上げて、近くに落下させる軌道)によるもので、日本海に落下しています。

また3月16日にICBM「火星17」も発射しました。こちらは「火星15」よりさらに高性能のミサイルです。この発射もロフテッド軌道でした。

なぜロフテッド軌道で打ち上げるのか?

では、なぜロフテッド軌道で打ち上げるのでしょうか?

2つの目的があります。アメリカ本土に届く射程があるということは、通常の発射をすると飛翔経路の諸国上空や周辺を飛行することになる。これを避けるためだというのが1つの理由でしょう。

もう1つは、まだ開発途中の実験発射だということです。開発目的の発射実験の場合、ミサイルが正常に機能しているかどうかを確かめるため、ミサイル本体から飛翔データ(テレメトリー信号)を発信させ、この受信が必要になります。

北朝鮮はこれを朝鮮半島もしくは飛翔経路近くの艦船で収集しているものと思われます。遠距離に飛ばしてしまうと、信号をキャッチすることが出来ず、実験が成功したかどうかが分からなくなってしまうためです。信号の届く範囲内にとどめるためにロフテッド弾道で打ち上げているのでしょう。

ですからロフテッド軌道で今後も打ち上げる必要があるなら、まだ開発は終了していない、と言えます。

しかしアメリカ本土に届かせるなら、もっと低い通常軌道(ミニマム・エナジー軌道)で飛ばす必要があります。その際はもっと大気の濃い空間を飛翔する時間が長くなるので、高温への耐久性など、実戦での正常作動を確認する必要があり、最終的には通常軌道での実験が必要になるのではないかと思います。

北朝鮮は「火星15」については、すでに実戦配備していると匂わせていますが、一度も通常軌道で発射したことがなく、本当にアメリカ本土を攻撃出来るのかどうか、実証されていません。

空中起爆で被害は拡大させられる

2月23日未明、戦略巡航ミサイル「ファサル2」4発を発射し、北朝鮮側は、約2000kmの距離を楕円および8の字で約170分間、低空飛行して標的を命中打撃したと説明しました。3月22日にも「ファサル1」2発、「ファサル2」2発の合計4発を日本海に向けて発射し、前回と同様な機動を行ったと発表しました。そのうち2発については、目標の上空600mで空中起爆させたと発表しました。

空中起爆とは、核攻撃を模擬した爆発方法です。核爆弾は地上で爆発させるよりも、上空で爆発させた方が、被害の範囲がはるかに大きくなるためで、本当に核弾頭が搭載できるなら、大きな脅威になるでしょう。

なぜなら低空を飛ぶ巡航ミサイルは探知し難く、アメリカや韓国側は、この巡航ミサイルの発射を探知できていないようだからです。この巡航ミサイルに核弾頭が搭載されると厄介です(ただし上空を早期警戒機が常時飛行していれば、発見が容易になります)。

さらに3月12日未明には、前述の「ファサル」巡航ミサイルの水中発射型だと推定される潜水艦発射型の巡航ミサイルを2発、発射しました。日本海を8の字に約1500km、2時間6分も飛翔したということです。

ロシアのイスカンデル(9K720)の北朝鮮版の性能とは?

また3月14および19日、KN-23短距離弾道ミサイル(北朝鮮版イスカンデル)を2発、発射。3月19日の発射後、北朝鮮は「核ミサイルの空中起爆を模した訓練」で、「約800km先の日本海上の目標上空800mで正確に空中爆発した」と発表しました。

KN-23はロシアのイスカンデル(9K720)の北朝鮮版と呼ばれており、たいへんよく似ています。なおニュースなどでは、イスカンデルを「極超音速ミサイル」と報道することが多いのですが、実際には極超音速ミサイルではありません。

極超音速ミサイルは低空をクネクネと機動することで、迎撃ミサイルを回避する。このため現在では防ぐことがほぼ不可能です。

しかしイスカンデルおよびKN-23はクネクネと機動することはできず、飛翔の最終段階で、わずかに飛翔経路を曲げたり高度を取ったりするなどの、迎撃ミサイルに対する限定的な回避行動ができるにとどまります。そのため日本の防衛省は、KN-23を「機動式弾道ミサイル」と分類しています。

アメリカのシンクタンクCSISは、2020年の紛争で、アルメニア軍が発射したロシア製イスカンデルを、アゼルバイジャン軍が撃墜したことから、「イスカンデルがミサイル防衛システムに無敵だという主張はやや誇張された可能性がある」と報告しています。

戦術核弾頭の小型化は巨大な脅威

最後に3月28日、衝撃的な報道がありました。

北朝鮮の朝鮮中央通信は、金正恩氏の核兵器研究所視察とともに戦術核弾頭(火山31)の写真を公開しました(トップ画像参照)。金氏は「核兵器生産に拍車を加えるべき」と指示したとの報道があったのです。

朝鮮中央TVの映像には、金正恩氏が視察する核弾頭と、壁にはその核弾頭を搭載すると思われるミサイルのイメージ図がかかっており、様々な分析がなされています。

1つ目の衝撃は、この戦術核弾頭が想定以上に小型化されていることです。2つめの衝撃は、ここまで小型の核弾頭なら、壁に掛かったイラストのように、前述したKN-23(北朝鮮版イスカンデル)や、巡航ミサイル「ファサル1」「ファサル2」に搭載可能だと見られることです。もしこの小型戦術核が本物で、潜水艦に搭載されたら、発射の発見が遅れるため、日本にとって大きな脅威となります。北朝鮮による核使用の脅威は今までないレベルに到達しているのです。

(後編に続く)


HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回の北朝鮮情勢などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ )。

【関連書籍】

小説 十字架の女(2)<復活編>

『小説 十字架の女(2)<復活編>』

幸福の科学出版にて購入

Amazonにて購入

ウクライナ問題を語る世界の7人のリーダー

『ウクライナ問題を語る世界の7人のリーダー』

幸福の科学出版にて購入

Amazonにて購入

ウクライナ発・世界核戦争の危機

『ウクライナ発・世界核戦争の危機』

幸福の科学出版にて購入

Amazonにて購入

いずれも 大川隆法著 幸福の科学出版

【関連記事】

2023年3月19日付本欄 北朝鮮の終末を警告するアメリカ 中東における中国の覇権拡張は日本に国難をもたらす(後編)【HSU河田成治氏寄稿】

https://the-liberty.com/article/20423/

2023年3月12日付本欄 北朝鮮の核による電磁パルス攻撃で日本は崩壊寸前に? 正義の樹立なくして国防は成立しない(前編)【HSU河田成治氏寄稿】

https://the-liberty.com/article/20413/

2023年2月19日付本欄 北朝鮮の核の脅威から目を離してはならない(後編)【HSU河田成治氏寄稿】

https://the-liberty.com/article/20366/

2023年2月12日付本欄 ウクライナと連動する!? 北朝鮮の核の脅威から目を離してはならない(前編)【HSU河田成治氏寄稿】

https://the-liberty.com/article/20334/

2023年1月22日付本欄 アメリカはもはや核でロシアを脅せない!? ウクライナ戦争はどこまでエスカレートするのか【HSU河田成治氏寄稿】

https://the-liberty.com/article/20282/

2023年1月15日付本欄 最新ウクライナ戦況 予測される米欧・ウクライナ側からロシアへの反撃とは?【HSU河田成治氏寄稿】

https://the-liberty.com/article/20238/

2022年12月11日付本欄 なぜロシアは核戦争のリスクを警告するのか? 紛争をエスカレートさせ破滅的危機を招いてはならない【HSU河田成治氏寄稿】

https://the-liberty.com/article/20132/

2022年5月16日付本欄 北朝鮮が韓国に侵攻する可能性は低くない! ウクライナ情勢に目を奪われ北朝鮮の動向を疎かにしてはならない【HSU河田成治氏寄稿】

https://the-liberty.com/article/19517/