《本記事のポイント》

  • ロシアはウクライナ紛争を「核保有国同士の衝突」だと捉えている
  • ウクライナ戦争をエスカレートさせる西側の愚
  • なぜロシアはウクライナのインフラを攻撃するのか?

元航空自衛官

河田 成治

河田 成治
プロフィール
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。

日本および世界は、ロシアや北朝鮮による核の脅威や中国の核戦力増大の危険にさらされています。これまでも本誌・本欄では、この問題について論じてきましたが、今一度、核の脅威についてお話する重要性が高くなってきたと考えています。

人類は、米ソ冷戦の最中の1962年に起きた「キューバ危機」で、核戦争の最大の危機に直面しました。このとき軍は準戦時体制を発動。国内の核ミサイルを発射態勢に置いて、海外の米軍基地も臨戦態勢に入るなど、ソ連との全面戦争に備えた極限の危機にまで発展しました。

当時、アメリカのマクナマラ国防長官は、「あの日見たポトマック川沿いの夕日は美しく、その時この夕日を生きてもう一度眺めることができるのだろうかと思った」と、回想しています。まさに世界がこの世の終わりを覚悟した瞬間となりました。

人類はまたしても、このような破滅的危機を迎えるのでしょうか。

現時点で危惧される核危機には、ウクライナ紛争がエスカレーションすることで起きる核危機のケース、北朝鮮による核ミサイル危機、中国の台湾侵攻時の核恫喝、イランの核武装に関連するものなどが考えられます。

このうち現時点で最も核が使用されるリスクが高いのが、ロシアと北朝鮮の核危機です。

ロシアはウクライナ紛争を「核保有国同士の衝突」だと捉えている

以前にもお話ししましたが(関連記事参照)、プーチン大統領は4月に「我々には(対応のための)あらゆる手段がある」「必要に応じて使用し、すでにあらゆる決断を下している」と発言しています。

加えて、プーチン氏は9月下旬、「核戦争の脅威には、持てるすべての力と資源を使ってロシアの領土と国民を守る」と宣言していますし、この12月7日にもプーチン氏は会議で、「核戦争の脅威は確かに高まっている」と述べています。

またラブロフ露外相も12月1日の記者会見で、核戦争に陥る「巨大な」リスクを警告しました。この発言の背景には、アメリカなど西側諸国がウクライナ紛争にほぼ直接参加しており、ロシアに対して戦争行為を仕掛けているという認識があります。

つまりラブロフ外相は、ウクライナでの衝突が事実上の「核保有国同士の衝突」であると述べているのです。同氏は、「核保有国同士の衝突は、通常兵器で始まったとしても、全面的な核戦争にエスカレートする可能性が高く、何としても避けるべきだ」と続けています。

ロシアは高性能兵器を使用して対応する可能性も

ショイグ露国防相は11月30日に、「ロシア軍は新型の高性能兵器を使用すべき」という考えを示しました。同氏はそれがいかなる兵器なのかは明かしませんでしたが、私は、この秋以降に配備が開始される極超音速ミサイル「ツィルコン」もその一つなるのではないか、と推測しています。

「ツィルコン」は、音速の9倍で飛翔し、射程は1000キロに達すると見られる極超音速ミサイルです。

日本が導入を検討するアメリカ製のトマホークミサイルの約11倍の速さ、約2倍の重さであることから、おそらくトマホークの200倍以上の破壊力を持つと考えられます。現在、ウクライナの電力インフラを狙ったロシアのミサイルの多数が着弾前に迎撃されていますが、このミサイルは迎撃が不可能で、トマホークとは比較にならないほどの威力を発揮するものと推測されます。

ウクライナ戦争をエスカレートさせる西側の愚

当初、アメリカはロシアのウクライナ侵攻に対し、経済制裁のみを行うと述べていました。それにもかかわらず、次第に高度な兵器の供給へとのめり込み、その結果、ロシアの強力な反応を引き出すという悪循環が続いています。ここでロシアが新型高性能兵器を使用すれば、さらにアメリカ側からの報復を招くでしょう。今後、紛争がエスカレートし、最終的には核による対峙にまで突き進むこともあり得ます。

それはロシアが掲げる核ドクトリン(核使用の指針)からも想定されます。

ラブロフ外相は7日、ロシアの核ドクトリンは、「敵の核攻撃やロシアを危険にさらす通常攻撃に対する報復措置としてのみ許される」と述べました。それは裏を返せば、ロシアは敵の核攻撃に対する報復のみならず、「通常兵器による他国からの攻撃であっても、それがロシアにとって大きな脅威になる場合には、核兵器で対抗する」というものです。

このようにウクライナという局地的な紛争のエスカレーションが、核戦争という巨大な危機を予感させるものとなってきました。

報復が報復を呼び、最終的に人類の破滅を呼び込むような悲劇は絶対に避けなければいけません。

なぜロシアはウクライナのインフラを攻撃するのか?

しかし12月6日に行われた国連安保理会合でロシア代表は、「西側はウクライナの外交的解決に関心がなく、その代わりに武器供与を拡大している」と非難しました。他方アメリカの国連次席大使は、「ロシアによるウクライナのインフラ攻撃の激化は、ロシア側が交渉や外交に全く関心がないことを示している」と応酬しており、停戦への道筋が見えていません。

ロシア側がウクライナの電力インフラを断続的にミサイル攻撃していることには、クリミア大橋爆破への報復である他、軍事的合理性がないわけではありません。以下がその具体的な理由として、考えられるものです。

(1)西側の兵器弾薬等の鉄道輸送を停滞させること。軍事通信の妨害をすること。

(2)迎撃用のミサイルは攻撃側の2倍以上が必要になるため、ウクライナの対空ミサイル消耗を加速させ、ロシアの航空機の飛行を安全にすること。

(3)ウクライナの経済活動を停滞させ、継戦能力を奪うこと。

(4)冬期の生活が困難になるウクライナ人のヨーロッパへの難民・移民を増大させ、受け入れ側のヨーロッパの厭戦気分を高めること。

さらに昨今の北朝鮮のおびただしい数のミサイル実験により、北朝鮮は短・中距離の精密攻撃能力を持ったミサイルを完成させたと見られます。ウクライナ紛争でミサイルが不足するロシアに、北朝鮮がミサイルを提供している可能性も否定できません。次回は、北朝鮮の核危機についてお話ししたいと思います。(後編に続く)

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【関連記事】

2022年10月16日付本欄 バイデン大統領は本音ではロシアに核を使わせたい!?【HSU河田成治氏寄稿】

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2022年5月9日付本欄 ウクライナ紛争でロシアはなぜ核使用をほのめかすのか 紛争をエスカレートさせ世界大戦への序曲にしてはならない【HSU河田成治氏寄稿】

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2022年9月11日付本欄 ウクライナ紛争が加速させる世界の分断【HSU河田成治氏寄稿】(前編)

https://the-liberty.com/article/19867/

2022年9月19日付本欄 ウクライナ紛争が加速させる世界の分断【HSU河田成治氏寄稿】(後編)

https://the-liberty.com/article/19883/