《本記事のポイント》

  • ウクライナ紛争の3つの見通し
    シナリオ(1)─エネルギー危機による早期停戦─
    シナリオ(2)─ウクライナが占領地を取り戻す?─
    シナリオ(3)─長い消耗戦が続く─
  • 紛争の長期化で危惧される2つの事態

元航空自衛官

河田 成治

河田 成治
プロフィール
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。

2月24日に始まったウクライナ紛争から、早くも半年以上が経過しました。

ロシアは当初、2週間程度でキエフのウクライナ政府を掌握して、作戦を完了する見積もりであったと西側諸国から推測されており、その意味合いからもロシアは「特別軍事作戦」と呼称しました。

しかしウクライナは、2014年のクリミア併合以降、米英の軍事顧問がウクライナ軍を指導してきており、また兵器などの支援も当時から行ってきたため、実質的にNATO(北大西洋条約機構)の準加盟国へと変貌を遂げていました。

つまりロシアが戦っている相手は、英米によって想像以上に強化されたウクライナ軍であり、またアメリカなどの多量の武器弾薬に加え、人工衛星や情報提供、サイバー戦など、多岐にわたる軍事支援を通じた、実質的なアメリカの「代理戦争」であることが、現在の紛争の長期化を招いています。

ウクライナ紛争の3つの見通し

今後の見通しについては、予断を許しませんが、大きく分けると以下の3つのシナリオの可能性が高いのではないかと推測できます。

シナリオ(1)─エネルギー危機による早期停戦─

EU(欧州連合)諸国では10%を超えるインフレになっていますが、その主因はエネルギー価格の高騰です。

特に天然ガスについては、ロシアから大きくは3つのルートを通じて欧州へ供給されてきたパイプラインのほとんどが停止に近い状態になっています。

これは深刻な危機を引き起こしており、例えば、イギリスの一般家庭の光熱費は、1年前の3倍に跳ね上がり、さらに小規模事業者はもっと厳しく、2年前の4~5倍です。天然ガス価格は今年2月と比べても2倍以上、2年前の15倍近くにも達しています。さらに10月からの光熱費は、9月までと比べて8割上昇する見込みで、年間に換算すると光熱費だけで70万円に相当します。

それでも最も痛手を被っているのはドイツやイタリアなどです。エネルギー需要が多い冬期においてドイツでは、公共施設の暖房を19度に制限したり、ショーウィンドウの照明を消したりするなど、徹底した省エネを行わない限り、冬を乗り切ることができない見通しです。

このような苦境にあってドイツやイギリス、チェコの各地でインフレやロシア制裁に反対する反政府デモが起きています。

ウクライナに対する「支援疲れ」に直面する欧州に厭戦ムードが広がり、早期に停戦に持ちこむことが、ロシア側のシナリオの一つだと見られます。この場合、ロシアが占領した地域のロシア編入(または独立)とウクライナの中立化が条件となるでしょう。

シナリオ(2)─ウクライナが占領地を取り戻す?─

ゼレンスキー大統領は、ウクライナが東部と南部を回復し、ロシアに併合されたクリミアを取り返すまで戦争を止めないと宣言しています。

しかし現実的にはほぼ不可能でしょう。今現在の戦況は、ロシアが支配地域を拡大することがあっても、防戦を強いられるウクライナが奪還できる領土は限定的なものとなるはずです。

ウクライナによる奪還が現実的になる場合があったとしても、ロシアには戦術核という切り札があります。この場合は核威嚇を含めて核戦争の可能性が高まるので、あまり現実的なシナリオだと見なすことはできません。

シナリオ(3)─長い消耗戦が続く─

最も可能性が高いのが、今後も数年間に渡る長い戦いが続くシナリオです。

ウクライナ支援の7割を占めるのはアメリカで、バイデン米大統領はウクライナが勝利するまで支援を止めないと表明しています。またイギリスの新首相のトラス氏も、これまでのジョンソン氏の路線の継続を掲げており、ウクライナ支援を続ける意向です。

ウクライナは欧米の支援なしに戦争という炎を燃やし続けることは不可能ですが、そこに燃料が注がれ続ける限り、ウクライナ人の血は流され続けることになるでしょう。

ロシア側が圧倒的多数の航空戦力や戦車などを有しているにもかかわらず、戦況が膠着して消耗戦が続くと見られる理由の一つには、ロシア側の兵力の不足があります。

最大でも約15~20万人と推測されるロシア地上兵力では、圧倒的な攻勢をかけることは困難です。一方、ゼレンスキー氏は5月に、ウクライナ軍の総兵力は70万人に達していると述べています。通常、攻撃側は防御側の3~5倍の兵力が必要とされますので、ウクライナの70万人に対してロシアは210万人というおよそ不可能な兵力が求められることになります。

しかし米CBSが「Arming Ukraine」という番組で報道したように、外国から送られた軍事援助の多くが途中で横流しされ、前線に届くのは30%程度との情報もあります。欧州警察(Europol)は、これらの武器の一部はEUの組織犯罪集団に渡ったと警告しています。

ウクライナ国防省シャラポフ次官(装備担当)は、「火砲がとにかく必要だが、受け取った兵器は所要量の10-15%でしかない」とも述べています。このように腐敗したウクライナでは、いくら兵士の数が多くてもロシアに対して攻勢をかけるのは簡単ではないでしょう。

したがって、今後は両国ともかなりの消耗戦を強いられて、国力をすり減らしながら、長い戦いが続いていくというシナリオが最も現実的ではないかと考えています。

紛争の長期化で危惧される2つの事態

(1)インフレとエネルギー危機

日本も加わった欧米によるロシア制裁、それに対するロシア側のエネルギーや資源輸出での対抗措置が激しく行われており、まさしく「世界経済大戦」の様相です。

大川隆法・幸福の科学総裁が7月に収録した霊言において、プーチン大統領の守護霊は、「インフレが襲ってるから、10%から20%に上げてやろうと、私のほうは考えているので。ハッハッ(笑)、エネルギーと食料と全部止められたら、それは民主主義的には、困るだろうねえ」と述べて、欧米に対する報復の方法を明かしています(「プーチン大統領守護霊の霊言」)。

特に資源のない欧州はエネルギー事情が危機的であることは前述しましたが、干ばつも深刻化しており、農作物にも大きな被害が出そうです。またアメリカも、バイデン政権のバラマキ政策により記録的なインフレに直面しており、特に食料品の値上がりに国民の不満が高まっています。

欧州はエネルギー輸入をロシア以外に切り替えることで難局を乗り切ろうとしています。石油は代替の可能性がありますが、石油の大部分を握るOPECプラス(実質的にサウジアラビアとロシアがコントロール)が、あまりアメリカに従いませんので、石油価格は今後も高止まりする可能性が高く、コスト高が続くでしょう。

天然ガスをロシア以外の国へと代替するには数年かかると見られています。そのため欧州は、ロシアからのガス兵糧攻めには省エネによって乗り切るしかありません。しかもそれはガス価格の高騰による経済活動の縮小という痛みを伴います。

天然ガスの輸出を減らすロシアの政策は、ロシア側にも痛みが伴います。ロシアが止めた欧州向け天然ガスは、容易にアジア向けに振り替えることはできません。なぜなら欧州に伸びる天然ガスのパイプラインは、アジア方面にはつながっていないからです。

中国向けなどのパイプラインは、ロシアの東部で産出されるガスで、欧州向け産出ガスの生産地とは異なっています。欧州に供給していたガスを中国やインドなどにパイプラインで送るにはあと数年かかるので、その間、ロシアも経済的には大きな打撃となります。

8月末に公表された、ロシアのエネルギー戦略文書「2030年までの新たな情勢下での事業活動の戦略的方向性について」によると、EUがロシア産ガスの輸入を止めると、ロシアのガス輸出が年間1000億立方メートル減って、2030年まで年間4000億ルーブル(約9千億円)減収し、その結果30年までのロシアのガス関連投資は410億ドル(約5兆7千億円)目減りすると見積もっています。

さらに西側の最新の掘削技術が入ってこなくなるので、石油製品の輸出は約55%減少し、精製も25~30%低下して、国内向けのガソリンも不足するリスクがあると懸念を示しています。

また経済制裁などにより、ロシア経済省は、今年のロシアのGDP(国内総生産)成長率は、マイナス4.2%、来年もマイナス2.7%と予測しています。ただロシアには、経済的な好材料もあります。この点については、後編でお話しましょう。(後編に続く)


HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回のウクライナ情勢などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ)。

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