【名画座リバティ (6)】理想郷シャングリラの物語──『失はれた地平線』

みなさん、こんにちは。5月に劇場公開された幸福の科学の長編アニメーション映画『ドラゴン・ハート-霊界探訪記-』では、伝説的な霊的修行の地「シャンバラ」が描かれていました。今回はそのシャンバラと関係のあるクラシックなアメリカ映画をご紹介します。「ザ・リバティ」5月号の特集記事「中国の魔の手からシャンバラを護れ!」でも取り上げられていた『失はれた地平線』(1937年)です。

原作は1931年にジェイムズ・ヒルトンが発表したベストセラー小説で、シャンバラにヒントを得たとされる「シャングリラ」という架空の理想郷が舞台です。当時の欧米では19世紀末葉にブラヴァッキー夫人らが創始した神智学が一定の普及を見ており、そこにシャンバラが言及されていたことから、ヒルトンもシャンバラを知っていたと思われます。大川隆法・幸福の科学総裁は最新刊『シャンバラの秘密について』(*)のなかで次のように述べています。

「『シャングリラ』という桃源郷みたいなのは中国に伝説は多いのですけれども、このシャングリラからシャンバラへの、何か、ちょっと続きがあるような感じはちょっとしております」

また『映画「ドラゴン・ハート─霊界探訪記─」原作集』でも芥川龍之介の霊が対話のなかで、

「質問者A ちなみに、桃源郷というのは本当に霊界にあるのですか。

芥川龍之介いや、シャングリラ(桃源郷)っていうのは、地上にもあったことになってるんだけどね」

と語っており、単なる空想の産物ではないことを思わせます。

(*)書店では扱っていません。お問い合わせは幸福の科学まで。

(あらすじ)

1935年、イギリス人外交官コンウェイらを乗せた小型飛行機はヒマラヤの奥地に墜落。彼らは不思議な一行に救出され、外部から隔絶した理想郷シャングリラに連れていかれる。そこでは僧院を中心として人々が平和で瞑想的な生活を営み、住民は非常にゆっくりとしか年を取らない。やがてコンウェイは200歳を超えたラマ僧から、自分がそこに連れてこられた真の目的を告げられる──。

本作の監督は『素晴らしき哉、人生!』などのヒューマンな作品で知られる名匠フランク・キャプラです。現代に比べれば映像の技術面やスケールでは見劣りしますが、1937年の白黒作品としては嘆賞に値するレベルで、ヒマラヤ奥地の秘境を雰囲気豊かに描いています。

IMDb(International Movie Database)という英語の映画サイトがあります。そこに投稿されているユーザーレビューを読むと、「なるほど、この映画の雰囲気や感動を英語で言うとこうなるのか」と楽しみながら英語の勉強ができるので、私はよく見ているのですが、本作のレビューにこんな文章があり、思わず膝を打ちました。

「コンピュータによって生み出されるVFX(視覚効果)や大規模なマーケティングが始まる以前のクラシックな映画は、一種のオーラをまとっている。あの時代の映画は、心に残るストーリー、卓越した演技、そして優れた演出で勝負していた。『失はれた地平線』は、まさにそんな作品である」

本作は主演コールマンらの重厚かつ人間的な演技や、コンウェイとラマ僧の哲学的会話が醸(かも)し出す、その種のオーラを感じることのできる、今となっては希少価値のある一本です。では、その「オーラ」の本質は何なのか。映画の結末部分、文明社会で、コンウェイを知るイギリス人たちが語り合う場面で、一人が質問されてこう答えます。

「君はシャングリラの存在を信じるかね」

「ああ、信じる。なぜ信じるかといえば、信じたいからさ」

(Yes. Yes, I believe it. I believe it because I want to believe it.)

物質文明の発達したこの地球上のどこかに、物質的原理を超えたユートピアがあるという。そこに行ける者は少なく、そこから帰って来たという話も聞かない。それでも確かに、そういう場所が存在しているはずである。いや、存在していてほしい──。

そんなノスタルジックな思いが人々の心の底にあるからこそ、本作の原作小説は大ベストセラーになったのでしょう。当時のアメリカ社会には、神智学とも関連する東洋的叡智への憧れが広まっていたと同時に、キャプラの諸作品に代表されるような、人間性を信じる古き良き時代のヒューマニズムが息づいていました。本作がまとっているオーラの本質は、創り手と観客、双方が共有していたそうした憧れであり、信じる心なのかもしれません。

(田中司)