中国の台湾侵攻が可能になる時期はいつか? 日本の主体性が台湾防衛の鍵【河田成治氏寄稿】(後編)
2024.07.14
《本記事のポイント》
- 米中経済安全保障調査委員会(USCC)の公聴会での報告
- 台湾防衛を日本政府の主要課題とすべき
- 沖縄・九州方面の防衛と国民保護計画を早急に前進させるべき
河田 成治
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。
前編では、中国の威圧行動の意味合いと、米誌フォーリン・ポリシーが論じる中国による台湾侵攻に備えるべきだと主張する要因の1つ目に、台湾の平和的統一は不可能な段階になっているという点を紹介しました。
後編でも引き続き、その要因を紹介しつつ、台湾侵攻がいつ可能になるのか、日本はそれにどう備えるべきかについて、論じていきたいと思います。
要因(2)軍拡競争で中国有利に傾くパワーバランス
同誌は第2に、戦争は一方が「勝算あり」と考えたときに起きやすいと訴えます。
現実にアジアの軍事バランスは、中国有利に変化しています。実際の戦争では予想外の事象が数多く起き、勝敗の行方は不透明であるにもかかわらず、戦争に至る多くのケースにおいては、敵の力を過小評価して勝てると判断する場合に起きるものである、と指摘します。
そのため、軍事バランスが有利になったと考える材料、たとえば新技術の導入や大規模な軍備増強などは戦争のリスクを高めると述べています。
さらに習近平氏が「アメリカは核大国を相手にできない」と決めつける可能性も考慮すべきだとします。そう中国が考える理由は、バイデン大統領がウクライナ支援において、なぜアメリカはロシアを恐れて直接対決しないのかを説明する際に、「核戦争のリスクを語ったからだ」と論じています。
要因(3)自国の将来への悲観的な見通し─現在のチャンスへの賭け─
第3に、中国が短期間で強大な軍事力を身につける一方、長期的な戦略的・経済的見通しが暗くなっていることを挙げています。
実際のところ中国は、経済の停滞、天文学的な累積債務、若者の高い失業率、急速な高齢化と人口減少などによって、長期的な衰退の危機が現れていると言えるでしょう。
例えば人口動態を見てみると、中国は2010年代をピークに労働人口割合が減少し始め、一方、高齢者が急増しています。今後の10年で、中国は6000万人の生産年齢人口を失う一方、1億人以上も高齢者が増えると予想されます。
したがって軍事行動を起こすなら今がチャンスで、時間が経つほど不利になると言えるでしょう。
国連経済社会局の人口予測データを基に筆者作成(*1)
(*1) UN, World Population Prospects 2022
要因(4)権力が集中する独裁
第4に、「個人主義的な独裁国家は戦争を起こしやすい」と述べ、そのような体制においては「民主主義国やその他の独裁国家に比べ、戦争を起こす可能性が2倍以上高い」と指摘しています。
その理由は、独裁者は周辺をおべっか使いに囲まれているからだとし、さらに偏狭なナショナリズムが国内での圧政を正当化するのに役立つため、海外に現実の敵や想像上の敵をつくるからだと説明しています。
習氏は、中国共産党の独裁政権の歴史のなかにおいても、特に個人に強力な権力が集中する個人主義的な独裁国家に変えてしまいました。習氏の周辺はイエスマンで固められ、側近は自己保身から、誰も彼の決定に異を唱えることはできないでしょう。習氏が決断したら、いつでも戦争が始められる政治環境だと言えます。
中国はいつ台湾侵攻が可能になるのか
(1)米中経済安全保障調査委員会(USCC)の公聴会での報告
6月13日、アメリカ連邦議会の諮問委員会である米中経済安全保障調査委員会(USCC)の第6回公聴会において、米情報機関の統括組織(ODNI)の元メンバーであり、トランプ大統領の大統領補佐官を務めたクリフ・シムズ委員長は、「中国指導部が軍事・経済・技術的に世界を支配しようとしていることは、私や多くの同僚にとって明らか」で、「米軍や諜報機関の高官の間では、中国共産党がいつ戦争の『準備』を整えるかについての予想が分かれているが、早ければ来年にも開戦準備が完了する」という予測があることを紹介し、危険な局面を迎えていると強い警告を発しています(*2)。
(*2) Cliff Sims, “Opening Statement of Commissioner Cliff Sims," Hearing on “China's Stockpiling and Mobilization Measures for Conflict and Competition", June 13, 2024
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