《ニュース》
トランプ米大統領が国防費を十分に負担していないと批判し、NATO(北大西洋条約機構)加盟国から同氏への非難がたびたび起きてきた中、NATOは2035年までに、「国防費などの割合をGDP(国内総生産)比で5%に引き上げる」ことで一致し、トランプ氏は驚くべき成果を上げました。
《詳細》
オランダ・ハーグで開催され、このほど閉幕したNATO首脳会議は、2019年以来で初めてサミットに参加したトランプ氏のまさに「独壇場」となりました。
会議に先立ち、NATOのルッテ事務総長はトランプ氏に対して、「ドナルド、あなたはアメリカとヨーロッパ、そして世界にとって本当に、本当に重要な瞬間へと私たちを動かしてくれた」「何十年もの間、どの米大統領も成し遂げられなかったこと(国防費の増額)を貴殿は達成するでしょう。ヨーロッパは当然のこととして多額の(BIG)支出を実施し、それは貴殿の勝利となるでしょう」と称賛するメッセージを私的に送り、トランプ氏に批判的なメディアが呆気にとられました。
その私的なメッセージの中でルッテ氏は、トランプ氏が決断したイランの核施設に対する空爆をめぐり、「実に素晴らしい行動で、誰も踏み切れなかったことだ。我々全員がより安全になった」と評価しました。すでにルッテ氏は空爆について、「(米軍の攻撃は)国際法違反ではない」「NATOはイランの核兵器開発を認めないという点で一致している」などと述べ、アメリカとの協調姿勢を示していました。
そして迎えた首脳会議の最大の目玉となったのが、先述した「国防費の増額」です。アメリカを除いた加盟国は今回、「35年までにGDP比5%分の予算を国防関連に投資する」ことで一致しました。
合意した5%のうち、「3.5%が軍事力向上への直接的な支出」であり、「残りの1.5%は安全保障のインフラやサイバーセキュリティーなどの関連投資に充てる」というものです。トランプ氏は自身が求める水準が満たされ、「歴史的な節目だ」「これは誰も本当に可能だとは思わなかったことだ」などと高く評価しました。
ただし、加盟国で唯一、スペインが難色を示しました。表向きの理由は、他の加盟国も懸念していた「財政問題」でしたが、同国はそもそも「最も国防費が少ない国」であり、他国から不満をぶつけられていました。
「同盟国の義務を果たしていない」と判断されたスペインは、首脳会議の場で露骨な冷遇を受けます。同国のサンチェス首相は、恒例の集合写真で端っこに追いやられ、晩餐会ではトランプ氏から最も離れた席に案内されました。そして、サンチェス首相は「偶然」だと後から言い訳しましたが、トランプ氏とは挨拶や会話もろくにできませんでした。
ダメ押しとなったのが、トランプ氏が会議後の記者会見で、国防費を負担せず、タダ乗りするスペインに対しては、関税を通じて「2倍支払わせる」「こちら(関税)で(国防費分の)帳尻を合わせる」と警告したことです。スペインメディアは今や、大騒ぎとなっています。
採択された共同声明にも、注目が集まりました。前回よりも分量が圧倒的に短く(約5340単語→約340単語)、争点を意図的に減らすことで、アメリカとの合意を優先した意向が伺えます。特に今回は、1年前のサミットで盛り込まれた「ロシアのウクライナ侵攻に対する非難は削除」され、ウクライナの加盟について「不可逆的な道」とした文言も立ち消えとなりました。
さらにウクライナのゼレンスキー大統領がハーグに乗り込み、NATOに支援強化を直談判したものの、「完全に蚊帳の外」に置かました。ゼレンスキー氏は開戦以来の"ルール"を破り、ずっと着ていた戦闘服姿をやめて、「格式ある黒のジャケット姿」に様変わりし、トランプ氏にあからさまに配慮しました(以前にトランプ氏からスーツを着用しない点を揶揄された)。しかしその効果は不発に終わり、逆に、ウクライナ戦争の停戦に舵を切ったトランプ氏の立場を際立たせる"引き立て役"となりました。
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