5月4日、中国の石油掘削に抗議するベトナム船(左)に対し、放水する中国海警の船(右)。
2014年8月号記事
南シナ海危機
日本はアジアの警察官たれ
東南アジアは「盟主」を求めている
中国が領土拡大の野心をむき出しにしている。南シナ海では、ベトナムやフィリピンと衝突し、にらみ合いが続く。南シナ海を手中に収めようとする中国の狙いは何か。アメリカはこの海域を守るのか。東南アジア諸国からこの海域への介入が期待されている、日本が果たすべき役割を明らかにする。
(編集部 大塚紘子、山本慧、居島有希、小川佳世子 / HS政経塾 森國英和)
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習近平・国家主席が共産党総書記に就任した一昨年の秋以降、中国の強硬姿勢は激しさを増している。東シナ海では船や航空機が日本の領海・領空を侵犯し、自衛隊の護衛艦に射撃用レーダーを照射するなど、やりたい放題。今年5月、その強硬姿勢は南シナ海でより鮮明になった。
中国は、ベトナムが領有権を主張するパラセル諸島(中国名・西沙諸島)周辺で石油の掘削作業を始め、これに抗議するベトナムと衝突。中国船がベトナム船に放水したり、体当たりして沈没させたが、ベトナムがこれらの映像を公開すると、中国は「ベトナム側がぶつかってきた」と主張。緊張状態が続く。
南シナ海は日本の生命線
南シナ海での衝突は、日本にとって対岸の火事ではない。日本に入ってくる物資の多くが、この海域を通るからだ。
日本は「産業の血液」と呼ばれる石油の99・6%を輸入しており、このうち8割以上が南シナ海を通って運ばれている。もし中国がこの海域を支配すれば、政治的、経済的な要求を通すために、各国の船の自由な通航は妨げられ、エネルギーや食糧を輸入に頼る日本は危機に瀕する。
例えば、石油や天然ガス(LNG)は一気に高騰し、これらを燃料にする火力発電の電気代も高騰。プラスチックや衣類、ゴムや洗剤などさまざまな生活用品が店頭から消え、ガソリン不足で車も使えず、モノの輸送も滞り、食糧の確保さえ困難になる。あらゆる工場の生産は鈍くなり、多くの会社が倒産。街には失業者があふれるだろう。
70年代の「石油ショック」を想起させるが、決定的に違うのは、この混乱が意図的につくり出されるという点。つまり、日本の生殺与奪の権が、中国に握られる。南シナ海のシーレーンは、まさに日本の生命線なのだ。