《本記事のポイント》

  • ゼレンスキーの勝利計画
  • 背筋が凍るリークされたロシア軍の核攻撃リスト
  • 核戦争の瀬戸際に追い詰められないために

河田 成治

河田 成治
プロフィール
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。

Part 1では、プーチン大統領の核ドクトリンに対する変化に重大な変化が見られることをお伝えしました。引き続きロシアの"核事情"についてお話ししていきます。

現在のロシアの核ドクトリン(核兵器をどのような場合にどのように使用するかという方針書)は2020年6月に改訂されたものですが、その核使用の基準は、ロシアへの核攻撃またはロシアへの侵略など、国家の存立が脅かされる場合とされています。

この核ドクトリンが改定されることが判明しました。

その背景には、これまでのロシアの核ドクトリンでは、欧米のウクライナ支援とその拡大・エスカレーションを止められなかった、という認識があったようです。

ラブロフ外相は8月27日、「核ドクトリンを修正中である」(*1)と述べていたのですが、リャブコフ外務次官は「ロシアは、西側のウクライナ戦争に対する行動の分析に基づき、核ドクトリンを変更する」(*2)と語り、改正は、欧米による支援拡大の阻止と、またウクライナがロシア領内へ西側兵器を使って攻撃する場合は核反撃の可能性があることを示すものになるのではないか、という予測が立っていました。

10月6日現在、まだ正式発表はありませんが、改定後の核ドクトリンの概要が判明してきました。

その内容はプーチン大統領が9月25日に述べたところによると、「ロシアの主権に対する『緊急の脅威』とみなされる、ミサイルや航空機やドローン(無人機)などによるロシア国境内への大規模攻撃の情報を察知した場合、ロシアは核兵器の使用を考慮する」というものです。

併せて、「核兵器保有国の参加や支援を受けている、非核保有国によるロシアへの侵攻を、ロシアに対する合同の攻撃とみなす」という内容も検討されているということです。

これまでは、ロシアの「存立の危機」の事態に核兵器を使うというものでしたが、今後は「緊急の脅威」、つまり、「ロシアに対して、長距離ミサイルやドローンなどで大規模攻撃をかける場合にも、核反撃の可能性がある」ということで、さらに「特に欧米の兵器が使われるなら世界大戦に発展する可能性がある」というものでした。

やはり新しい核ドクトリンは、核使用のハードルを大きく下げ、また、さらなる戦争拡大も辞さないというものになりそうです。

これはロシアが欧米に対して、超えてはならない「レッドライン」を示し、ウクライナへの欧米の関与を制限しようという意図に基づくものですが、問題はウクライナおよび欧米側が、ロシアの核恫喝の本気度をどう捉えるかです。

今回の核ドクトリンの改定は、ロシアにとっても大きな賭けとなるかもしれません。

もしウクライナがロシアを見くびって警告を無視した場合に、ロシアが核反撃に躊躇するなら、ロシアは欧米側に侮られることになります。そのためロシアは本当に核を使う状況に追い込まれかねません。

果たしてウクライナはロシアの核を恐れてトーンダウンするでしょうか、それともロシアの改定核ドクトリンをこけおどしと軽く見て、ロシア領への長距離ミサイル攻撃をあきらめないのでしょうか。

(*1)Ведомости(2024.8.27)
(*2)TACC(2024.9.1)

ゼレンスキーの勝利計画

ゼレンスキー大統領は8月6日、ウクライナ軍のロシア領クルスク州への侵攻を主導し、国際社会を驚かせました。

10月初旬の今、クルスク侵攻は挫折しています。下の地図はクルスク州の現在の地図ですが、戦況はウクライナ軍が占領地を拡大するどころか、むしろロシア軍に押し返され、占領地は大幅に縮小しました。

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地図は戦争研究所の資料を筆者が加工したもの(*3)

さらに10月2日付けのワシントン・ポスト紙が報じたところによると、ウクライナ軍によるクルスク奇襲攻撃は、ロシア軍を東部戦線のドネツクから引き離すためのものだったが、この目論見は失敗し、逆に防衛が手薄になったドネツクでロシア軍が攻勢を強め、過去最高のペースで占領を拡大したと伝えています(*4)。

(*3)ISW(2024.8.20)ISW(2024.10.5)
(*4)THE WASHINGTON POST(2024.10.2)

HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回の世界情勢などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ)。