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《本記事のポイント》

  • 主人公を芸術へと引きつけた"祈りの力"
  • 終わりなき自己発見の旅としての努力
  • 自己探求の奥にある神の創造の世界

成績は優秀だが、周りの空気を読みながら器用に生きていた高校生・八虎(やとら)が、「祈り」をテーマとした天使の絵と出会うことで、絵画という未知なる世界に挑戦していく物語。空っぽだった自分が、「情熱」と「努力」を武器とすることで、これまで知らなかった自己に出会っていくプロセスが、丹念に描かれている。

原作は、アニメ化やアーティストYOASOBIとのコラボレーションでも話題を集めた、山口つばさ氏による漫画。主人公・八虎の複雑に揺れ動く内面を俳優・眞栄田郷敦が繊細に演じ、新境地を拓いている。

主人公と美術を引きつけた「祈りの力」

この作品でとても興味深いのは、主人公が絵画の道へと踏み入れるきっかけとして、「祈り」が据えられているということだ。そして、この「祈り」が作品全体を貫くテーマの一つにもなっている。

八虎は、たまたま美術室で見た、先輩の森まる(桜田ひより)が描いた「祈り」をテーマにした油絵に衝撃を受ける。大きなキャンパスに2人の天使が祈る姿が大きく描かれており、静かな微笑みをたたえた透明感ある微笑はレオナルド・ダ・ヴィンチのモナリザを彷彿とさせる。そして、森が語る美術の奥深さに心動かされて、八虎は芸術という未知なる世界への挑戦を始めていく。

この「祈り」とは何なのだろう。作品中では、祈りをテーマとして絵画を描き続けてきた森が、「この絵を見た人が幸せになるようにと願って描いている」と言っていたが、宗教的には「祈り」とは、この地上の生活を超えた、仏神がおられる世界への架け橋であると言えるだろう。そして、芸術もまた、日常生活を超えた何かへと人間の精神を飛翔させるきっかけとして営まれている、という意味では同じものなのだと、この作品からは感じられる。

大川隆法・幸福の科学総裁は「本物の宗教は、心の挑戦を説きます。あなたの心の可能性を説きます。そしてそれが、仏陀の精神であり、宗教の真髄であることを説きます」(『心の挑戦』まえがき)と語る。すべての人間的な挑戦の奥底には、宗教的真実として「神の子・人間に与えられた無限の可能性」が前提としてあると言えるだろう。

すなわち、この地上世界を超えた霊的な世界がまず存在し、我々がその世界から送りこまれてきた霊的な存在であり、目に見えない霊的世界に厳然として存在する永遠の理想や崇高さを、この地上に具体化していくために、「祈り」を始めとした人間的営みがあるということだ。

若い人のなかには、主人公・八虎のように、心のどこかで空虚さや自分の薄っぺらさを感じながら生きている人は、少なからずいるだろう。そうしたなかで、これまでの日常の延長にはない未知なる自己の探究へと誘い、理想的な人間本来のあり方を示すという角度から芸術や宗教を捉えている点で、この作品は本格的な芸術論・人生論でもあるとも言える。

終わりなき自己発見の旅としての努力

また作中では、八虎がいったん美術部に入部したものの、趣味として絵画を描いていくのか、それとも美大に進学し、本格的に芸術の世界を極めていくのかで、揺れに揺れるプロセスが丹念に描かれている。

脚本を担当した吉田玲子氏は、「大切にしたのは、八虎の変化です。夢中になれるものが何もなかった八虎が絵と出合い、『自分の絵を見つける』という創作の苦悩を経て、『努力することは自分の才能だ』という思いに辿り着く。その道のりには、何かができるようになったと思ったら、また新しい課題が見つかり、それを一つひとつクリアしていく……というある種スポ根のような感覚があります」(パンフレットより)と語っている。

なぜ努力しなければいけないのか、努力に努力を重ねると言う生き方にはどのような、意味があるのか……。利便性に満ち溢れた今の世の中で、このことを若者たちに納得させるのはとても難しい。しかし、努力の向こう側に"新しい自分"が見出され、そしてその"自分"も、自らの次なる挑戦によって打ち破られてしまい、さらに新しい"自分"が垣間見えてくる。そのような、終わりなき自己発見の旅の醍醐味を人生にもたらしてくれるのが努力なのだ──ということを描いているこの映画は、「真剣に生きてみたい」と考えている人にとって、とても参考になるはずだ。

自己探求の奥にある「神の創造の世界」の探求

同作は、芸術的営為を通して、「自分とは何か」を探っていく自己探求映画だとも言える。その意味で、特に印象的なのは、美大進学に反対していた母親を八虎が説得するシーンだ。世間並みの生き方をしてほしいと切に願う母親を説得するため、八虎は母親の肖像画を描く。そこで初めて母の手に多くの皺があり、毎日の買い物によって肩には意外に筋肉がついており、そして同じ服を何年も着ているため、色はくすみ、ほつれが目立つことに思いが至る。そして、自分を犠牲にして子供を育ててくれた母親の期待に沿った生き方が出来ないことに対して、素直に詫びる。とても感動的な場面だ。

よりよく描くということは、より繊細に世界を観ることであり、今まで気づかなかった世界の真実の姿を知ることでもある。そして、自分や世界を支えてくれている、多くの人々の思いに気づくということなのだろうし、それは自己成長のプロセスそのものだろう。その奥にあるものは、この世界を作った仏神の限りない慈しみの心の一端に触れる、ということでもあるだろう。

仏の心と一つとなれ。さすれば、おまえたちの心のなかにも栄光の瞬間がよみがえってくることだろう。おまえたちにも、この太陽系を創った時の悦びが、この地球を創った時の悦びが、伝わってゆくに違いない」(『永遠の仏陀』より)。

「自分は何者か」という問いへの答えは、結局、未知なるものへの挑戦を通じてしか得ることはできないのだろう。そのために必要な「情熱」と「努力」の大切さを打ち出した本作品は、"新しい挑戦"へと自分を奮い立たせて、より成熟した自分と出会っていくためのヒントになるに違いない。

 

『ブルーピリオド』

【公開日】
全国公開中
【スタッフ】
監督:萩原健太郎 原作:山口つばさ
【キャスト】
出演:眞栄田郷敦ほか
【配給等】
配給:ワーナー・ブラザース映画
【その他】
2024年製作 | 115分 | 日本

公式サイト https://wwws.warnerbros.co.jp/blueperiod-moviejp/

【関連書籍】

心の挑戦

『心の挑戦』

大川隆法著 幸福の科学出版

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永遠の仏陀

『永遠の仏陀』

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【高間智生氏寄稿】映画レビュー

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