3月20日、中国共産党の官報『新京報』は、今の若者が喜んで寺院へ行くのを厳しく批判する記事を掲載(*1)した。以下はその主な内容である。
メディアの報道によれば、最近の若者は寺院巡りが好きで「授業も出ず、進級もせず、ただお香を焚いている」。人里離れた場所で瞑想し、精神的な安らぎを求め、超自然的な力に人生のチャンスを託している。社会現象としては懸念されるだろう。
オンライン・チケット・プラットフォームのデータでは、今年、寺院関連観光地チケットの注文数が前年比310%増加し、2月、チケットを予約した人のうち、90年代以降生まれと2000代以降生まれが半数近くを占めているという。
また、関連するモニタリングデータでは、2019年、SNSで寺院はまだあまり知られていなかったが、4年経った現在、検索数は368倍に増えている。データを見ると、もともと中高年の好む寺院が、若者の間でも人気があるようだ。SNS上では、主要な寺院の紹介文があちこちで見られ、若者達はお香を焚くのを好む。
ただ、その理由はよくわかる。今の若者は、(大卒の学歴では足りないので)大学院に入らなければならない、良い仕事に就かなければならない、(結婚して)独身状態から抜け出さなければならない、などといったプレッシャーにさらされている。
そのプレッシャーの中で、若者はストレスを発散し、気分転換するチャンネルを探し、濃密な香りと荘厳な宝物のある寺院行きを選ぶ。しかし、神仏に人生の希望を託す若者がいるが、明らかに道を踏み外している。
かつて蘇軾は、田畑を植える者は雨を乞い、収穫する者は晴天を乞い、遠くへ行く者は順風を願い、帰ってくる者はその逆の風を願うと詠んだ。
これは、神仏を崇拝することの虚しさをも示している。今や願い事を行ったり、祈ったりする事が至る所で行われ、寺院だけでなく、SNS上で「サイバー・ウィッシュ」といって、無数の人々が動画や生放送で願い事をすることもある。
神仏が手に負えないほどの無数の願いがあるのは言うまでもない。だが、これらの願い自体、矛盾する場合が多い。例えば、ある受験生が合格を祈願し合格すれば、別の祈願者は不合格となる。この矛盾をどのようにバランスさせることができるのか? これこそが、祈願行為の不条理さを浮き彫りにしている。
そう考えると、神仏に"おねだり"しても、結局、信用できないことがわかる。もちろん、リラクゼーションや前向きな心理的慰めとして寺院を訪れるのは構わない。けれども、"ドラマの世界"に入り込みすぎて、超能力を答えとし、現実世界での自分の努力や苦労を放棄してしまう人がいるとしたら、それは「小さな利益のために大きな損害を招く」し、運命を変えるべく"本当の鍵"である自分自身をないがしろにするのではないかと心配になる。
この記事に対して、早速、ネットユーザーから反論が起きた(*2)。
もし、学校に行って出世するのが役に立つのなら、なぜお香を焚くのか? そもそも、官僚たちが、他人の信仰と行動についてあれこれ言う資格があるのか、と疑問を呈したのだ。また、若者の「寝そべり」の理由を考えず、上から目線で批判していると非難した。
90年代以降生まれ、2000年代以降生まれの若者達は、自分たちを取り巻く現実への不満から社会の期待に従わず「寝そべり」を決めている。
「寝そべり」は、社会の「内巻き化」(激烈な競争、下降沈下、自己検閲、苦しみの中で楽しむ等、ネガティブな意味)に対抗する方法と見なされている。具体的には、(1)家や車を買わない、(2)恋愛せず結婚しない、子供を作らない、(3)低レベルで消費し、最低限の生活水準を保つ等である。それは、中国資本家の金儲けマシーンとなって搾取される、すなわち"奴隷的搾取"を拒む姿勢である。
実は、新型コロナ蔓延当初、「ゼロコロナ政策」のため景気が悪いので、コロナの流行が終われば投資が再開すると思われていた(*3)。しかし、閉鎖・管理措置が解除された後も、景気は上向かなかった。そして、投資意欲のあったビジネスマンが急に「寝そべり族」になり、中小企業オーナーも「寝そべり族」になってしまっている。
そのためか、現在、北京では多くの大卒はおろか、修士や博士までが失業するほど深刻な事態だという。
(*1) 3月20日付「新京報」
(*2) 3月21日付「中国瞭望」
(*3) 3月21日付「RFA」
アジア太平洋交流学会会長・目白大学大学院講師
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
【関連動画】
澁谷司の中国カフェ(YouTube)
【関連記事】
2023年3月13日付本欄 習近平「ゼロコロナ」の暴走に、忠臣・李強でさえ待ったをかけた!? 【澁谷司──中国包囲網の現在地】
https://the-liberty.com/article/20414/
2023年2月27日付本欄 あまりにかけ離れている中国経済統計とその実態【澁谷司──中国包囲網の現在地】
https://the-liberty.com/article/20383/
2023年2月13日付本欄 米上空へ飛来した中国偵察気球4つの謎【澁谷司──中国包囲網の現在地】