昨年11月、中国全土で「ゼロコロナ政策」に対する抗議活動がエスカレートする中、中国共産党ナンバー2の李強が習近平主席肝煎りの同政策に抵抗した(*1)。

その直前、中国高官や医療専門家らは「習主席の『ゼロコロナ政策』を廃止し、2022年末までに中国を徐々に開放する。そして、2023年3月に"正常化"する、という目標の計画に秘かに取り組んでいた」という。

「ゼロコロナ政策」解除を早めるきっかけは、昨年11月下旬の頃だった(*2)。以下、時系列で追ってみよう。

昇格直後の李強、習近平と「ゼロコロナ」巡り衝突か

昨年10月の第20回党大会で、新政治局常務委員に昇格した李強(上海市トップ)は、政治局常務委員に報告する「新型コロナ指導グループ」の責任者に就任した。翌11月11日、コロナ予防と管理を最適化する20の措置を発表し、規制を緩めている。

11月中旬、習主席は東南アジア外遊を行った。主席は同月14日から19日にかけて、インドネシア・バリ島で開催された第17回主要20ヶ国首脳会議(G20サミット)に出席し、またタイ・バンコクで開催された第29回アジア太平洋経済協力(APEC)非公式首脳会議に出席するとともに、タイを訪問した(*3)。

同月19日、習主席は帰国直後、今後の「ゼロコロナ政策」方針について、李強と衝突したという。

翌20日、カタールで、サッカーのワールドカップが始まった。スタジアムは満員だったが、マスク着用者はほとんどおらず、「ゼロコロナ政策」下の中国とは対照的だった。

同月24日、新疆ウイグル自治区での高層マンション火災が発生したが、「ゼロコロナ政策」のため、救出が遅れて10名死亡している。

その大火災を受け、2日後の26日、南京伝媒学院でA4の白い紙を掲げる「白紙革命」(紙には何も書かれていないが、党大会直前の10月13日、「北京四通橋横断幕事件」<彭立発が政府に「ゼロコロナ政策」等を抗議>での内容を表す)が勃発し、「ゼロコロナ政策」の廃止を求める抗議行動が各地で起こった。習政権発足以来、最大の抗議活動となっている。

習主席は、この抗議行動を、新人事(主席の党ルール無視の「3期目」突入、及び李克強首相・汪洋政治協商会議主席・胡春華副首相等の「共青団」排除)に不満を抱く若者たちのせいだと非難した。

中国では「ゼロコロナ政策」を緩めた後、一時、コロナが再流行した。その際、習主席は元に戻すよう主張したが、李強は頑として同政策の解除を曲げなかったという。李強が当初の計画より早く再開放計画を始めたので、結果的に「ゼロコロナ政策」による経済的損失と「反ゼロコロナ政策」デモの影響を抑える事ができたと言えよう。

10万人以上の住民が住む北京市のある小地区の地元指導者は、昨年末、すでにPCR検査会社と(コロナ陽性者を取り締まる)警備会社に支払う資金が尽きてしまったという。この関係者は、「自分の見方では、地方レベルで『ゼロコロナ政策』の緩和を望んだわけではなく、単にそれを実施する余裕がなくなったのだ」と述べた。

実際、北京市は昨年、コロナ対策とその予防に300億元(約5880億円)近くを費やしたという。

一方、政治局常務委員の王滬寧は2020年初頭から「党中央新型コロナ・タスクフォース」の副チーム長だったが、昨年10月下旬、広報機関を含めた高級医学専門家と高官らと非公開会議を開いた(*4)。

そして、王は出席者たちに、「ゼロコロナ政策」を放棄すれば、最悪の場合、どのくらいの人々が死亡するかを尋ねている。他方、王は、彼らに様々なロードマップをまとめるよう促したという。

上海ゼロコロナの戦犯だった李強も「政権持たない」と焦ったか

ところで、習主席は李強の昇進のための"実績作り"として、上海市で「ゼロコロナ政策」を徹底した。その結果、上海市では、コロナ陽性の疑いのある約30万人が隔離(*5)され、まるで新疆ウイグル自治区の"強制収容所"のようだと言われた。そのため、李強は上海市で最も嫌われた人物だったのである。

したがって、李強は習主席の忠実な部下かと思われた。だが、その李強が「ゼロコロナ政策」を収束させたのである。国務院(内閣)総理に内定していた李強は、同政策を継続したら、習政権はもたないと考えたに違いない。

(*1)2023年3月3日付「中国瞭望」
(*2)2023年3月5日付「中国瞭望」
(*3)2022年11月21日付「人民網日本語版」
(*4)2023年3月3日付「rfi」
(*5)2022年4月17日付「ウォール・ストリート・ジャーナル」

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アジア太平洋交流学会会長・目白大学大学院講師

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

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