2月6日、「広州市の平均月給は1万1710元(約22万7000円)」という記事が微博(ミニブログ)のホットサーチリストの上位にランクされた(*1)。ただ、中国ネットユーザーの中には「その中央値を見てみたい」という意見があった。

スマートリンク・リクルートメントが発表した2022年第4四半期の中国企業採用給与報告書によれば、全国平均採用給与は1万558元(約20万5000円)だという。

採用時の月給は(1)北京市が1万3930元(約27万円)、(2)上海市が1万3832元(約26万8000円)、(3)深セン市が1万3086元(約25万4000円)、(4)浙江省杭州市が1万1963元(約23万2000円)で第4位、(5)広州市1万1710元(約22万7000円)の順となっている。

給与統計に懐疑的な中国ネットユーザーたち

中国の一部ネットユーザーは「一体、これはどこから得たデータなのか。統計学の知識がない人を騙しているだけだ」と批判した。そして、次のような例を挙げている。

例えば、10世帯のうち、あるお金持ちの家は100万元の収入、他の9つの家は極貧で、収入はゼロに近いとしよう。だが、平均化すれば10世帯で10万元となる。

また、ジャック・マー(馬雲)が村にいると仮定する。そうすると、各世帯の平均資産は1億元(約19.4億円)以上となるに違いない。つまり、一部の高所得層給与と大部分の低所得層給与を合計して平均値を算出しても、あまり意味はないという事ではないだろうか。

一般的に、平均給与という1つの指標だけでは現地の人々の所得水準を反映することは難しい。現地の物価や消費動向も考慮しなければ、生活の質のレベルを割り出すことはできない。

今年1月、中国国家統計局は最新のデータを発表した。昨年、全国31省の1人当たり年間可処分所得(手取り)は3万6883元(約71万6000円)だという。名目は前年比5.0%増、物価要因を除いた実質は2.9%増で、上海、北京などは8万元(約155万2000円)に近い。

しかし、ネットユーザーから「至る所でレイオフや給与カットが行われているのに、どうして収入がプラスになるのか」という鋭い指摘が出ている。

例えば、エンタープライズサーチのデータによると、2022年1月から12月1日までに、中国では49万6000社の飲食店関連企業が倒産した。また、190万社の小売関連企業が倒産し、2万社の児童関連企業が倒産している。

不動産壊滅でも"GDPプラス成長"の怪

ところで、昨年、中国不動産売上総額は1兆3338億元(約25兆8800億円)で前年比26.7%減、そのうち住宅は28.3%減となった(*2)。実は、不動産販売は中国経済の20~25%を占めている。そのため、昨年の不動産売上総額が26.7%下落すると、中国のGDPに及ぼす影響が約6%(*3)になるという。

この不動産販売がGDPの中で約6%減少する中で、習近平政権は、それをどのように埋めて、昨2022年のプラス3%成長(*4)にしたのだろうか。以上を踏まえれば、去年、中国のGDP3%という数字には大きな疑問符が付く。

GDPの主力である投資は57兆2138億元(約1109兆9500億円)で、前年より5.1%増加(*5)した。

ただし、問題は、民間固定資産投資が31兆145億元(約601兆6800億円)で、前年より0.9%増加したに過ぎない。片や、国有固定資産投資は10.1%増だった。つまり、国が投資しなければ、投資がほとんど伸びなかったという事を示す。

一方、消費は43兆9733億元(約853兆800億円)で前年比0.2%減(*6)である。

なぜ怪しいGDP値が垂れ流されるのか

では、なぜ、中国共産党は、このGDP3%増という信憑性に欠ける数字を公表し、それが独り歩きするのだろうか。以下はその仮説である。

第1に、共産主義体制の"宿痾(しゅくあ)"で、マスメディアが官製のため、誰も数字を検証しない。

第2に、北京は、中国民族特有の「面子」を重視するため、恥ずかしい数字は一切表に出さない。

第3に、同様に、中国お得意の「孫子の兵法」で、敵国に対し(自国の)偽情報を流し、敵国(世界)を騙そうとする。あるいは、「孫子の兵法」で、敵国マスメディアや(国際的機関を含め)中国経済を研究する機関に賄賂を贈るなどして、中国当局の数字が正しいと宣伝させる。

第4に、我が国のマスメディアなども、北京に"忖度"してか、「この中国の数字はおかしい」と指摘せず、無批判に垂れ流している。

(*1)2023年2月6日付「中国瞭望」〔注〕
(*2)2023年1月17日付「国家統計局」発表
(*3)2023年1月28日付「北京楽居網」
(*4)2023年1月18日付「国家統計局」発表
(*5)2023年1月17日付「国家統計局」発表
(*6)2023年1月18日付「国家統計局」発表

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アジア太平洋交流学会会長・目白大学大学院講師

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

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