第二次大戦直後、デンマークを覆い尽した"不都合な真実"を直視する映画 「ぼくの家族と祖国の戦争」【高間智生氏寄稿】
2024.08.25
全国で公開中
《本記事のポイント》
- ドイツ難民への非道な仕打ちという"不都合な真実"に目を向ける
- 真実の生き方を貫く父親の姿に感化されていく息子
- 極限下で試される人間性と神の審判
第二次大戦の終戦直前、ナチスの占領下にあったデンマークに大量に押し寄せたドイツ難民。今まで語られることのなかった"不都合な真実"に目を向け、極限下における人間の選択と正義の在り方を問うたのが本作品である。
デンマークで大きな反響を呼び、同国のアカデミー賞と呼ばれる2024年のロバート賞で5部門(美術賞、衣装デザイン賞、メイクアップ賞、視覚効果賞、観客賞)にノミネートされた。
ドイツ難民への非道な仕打ちと言う"不都合な真実"に目を向ける
1945年4月、デンマーク・フュン島のリュスリンゲ市民大学の学長ヤコブが、現地のドイツ軍司令官から思いがけない命令を下される。「ドイツ本国から押し寄せてくる大勢の難民を大学に受け入れろ」というのだ。
想定をはるかに超えた500人以上の難民を体育館に収容したヤコブは、すぐさま重大な問題に直面する。それは多くの子供を含む難民が飢えに苦しみ、感染症の蔓延によって次々と命を落としていくという過酷な現実だった。
難民の苦境を見かねたヤコブと妻のリスは救いの手を差しのべるが、終戦後、それがもとで同胞たちから"裏切り者"の烙印を押され、ヤコブはナチ協力者としてレジスタンスに逮捕されてしまう。
当時、実際に20万人を超えるドイツ難民がデンマークに押し寄せ、食糧や医療を拒否され、子供を含む多くの人たちが命を落としたという。
そうした史実をベースに製作された本映画が問い掛けるのは、終戦後、権力を握ったレジスタンス運動が、ナチスに対して"協力的"であったかどうかだけを問い、その動機や内面性について、全く目を向けなかった、その"正義"の在り方についてである。
日本に当てはめれば、戦後に吹き荒れた公職追放や、極東軍事裁判などといった、勝者による敗者への一方的な制裁が、"真実の正義"に基づくものであったかどうかを問い掛けることにも等しいだろう。
幸福の科学の大川隆法総裁は、2013年の終戦記念日に発表した「大川談話」(『「河野談話」「村山談話」を斬る!』所収)のなかで「先の大東亜戦争は、欧米列強から、アジアの植民地を解放し、白人優位の人種差別政策を打ち砕くとともに、わが国の正当な自衛権の行使としてなされたものである」とし、「アジアの同胞を解放するための聖戦」だったとしている。その意味では、この映画が日本に突きつけるテーマは極めて今日的なものだと言えるだろう。
真実の生き方を貫く父親の姿に感化されていく息子
ドイツ人を憎むべき敵と信じて疑わない12歳の息子のセアンは、難民に寄り添う両親に反発し、危険なレジスタンス活動に関わっていく。しかし、終戦後に権力を握ったレジスタンスのメンバーが、困窮するドイツ難民に加えるあまりにも無情な振る舞いに、次第に自分の信念を揺さぶられていく。
そして、釈放された父とともに、レジスタンスの目をかいくぐりながら、死にかけた難民の子供たちの救援へと突き進んでいくところが映画のクライマックスになっている。
厳しさを増す現実の中で、人間として、自由の精神を標榜する大学の学長として、なすべきこと、手探りながらも真摯に実行に移してくことで、息子セアンを次第に感化していく父ハンスの姿は、「真実の教育者とは何か」を問い掛けているようにも見える。
そして、また、難民の子供を救うために、無鉄砲とも思える行動に出る息子セアンから、ハンスが世間的な打算や、利害得失に囚われていた自分の過ちに気づくシーンには、子育てや教育とは、育てつつ育てられることなのだという真実を垣間見ることができるだろう。
極限下で試される人間性と神の審判
映画は、ナチ協力者の烙印を押されながらも、誇りを持って街を出て行くハンス一家の姿で終わるが、そこには真実を貫くことの崇高さと爽快さを感じ取ることができる。
脚本も手がけた監督のアンダース・ウォルター氏は、この映画の意図について、「本作は、勇気、誠実さ、思いやりの物語です。心を捉え、示唆に富み、会話のきっかけとなる映画です」と語っているが、その根底にあるのは、やはり、神の存在と、すべての人間が最後に直面することにある"審判"ではないだろうか。
映画の冒頭では、息子を寝かしつけながら、神への祈りを捧げる父ハンスの姿が丁寧に描かれていた。難民の受け入れに苦渋の決断を下していくハンスの心の奥にあったのは、神の存在だ。周囲の人々から非難の目を向けられ、針の筵(むしろ)に座らされるような仕打ちを受けながらも、信念を貫き通すということは、揺るぎない信仰なくしてはできないことだろう。
現在EU諸国は、アフリカやシリア、アフガニスタンからの大量の難民流入に苦しみながら、対応を模索し続けている。本作は、そんな状況を踏まえながら、改めて、すべての人間をわけへだてなく愛する主なる神への信仰と、真の正義とは何かを問い掛けているようにも思える。それは、緊迫した国際情勢のなかで、戦後民主主義という"正義"の見直しを迫られている日本にも、貴重な視点を提供しているのではないだろうか。
『ぼくの家族と祖国の戦争』
- 【公開日】
- 全国公開中
- 【スタッフ】
- 監督:アンダース・ウォルター
- 【キャスト】
- 出演:ピルー・アスベックほか
- 【配給等】
- 配給:スターキャット
- 【その他】
- 2023年製作 | 101分 | デンマーク
【関連書籍】
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