《本記事のポイント》
- ウクライナは降りかかる火の粉を払うだけでは戦争に勝てない
- ロシアのレッドラインを試してきた欧米諸国
- 核使用には抑制的だが、核による報復の可能性を匂わせたプーチン氏
河田 成治
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。
戦争の当初、ウクライナを支援する欧米諸国は、西側が供与した兵器でクリミア半島を含むロシアが占領した土地を除いて、ロシア領内への攻撃を禁じてきました。
それはロシアが核兵器を保有しているためで、ロシア領を攻撃すればロシアの過剰な反応を引き起こしかねず、戦争がエスカレートして世界大戦や核戦争に拡大する危機だけは避けたいとの思惑からでした。
ウクライナは降りかかる火の粉を払うだけでは戦争に勝てない
これに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は、北大西洋条約機構(NATO)を戦争に引きずり込むことを、さまざまな機会に模索してきました。たとえば戦争初期には、ウクライナ上空に飛行禁止区域を設け、ロシア軍機が進入できないようにすることをNATOに再三求めていました。
しかしこの措置は、もしロシア軍機が禁止空域に進入したら、NATO軍が実力を持って排除することがセットになりますから、NATOが直接参戦国になることを意味しており、ヨーロッパ全体を戦争に巻き込む危険な要求として、否定されました。
その後、ゼレンスキー氏は欧米に対して、長距離ミサイルの供与を要求するようになりました。
欧米が供与する兵器は、戦闘の最前線でロシア軍に対峙するものに限定されていたことへの不満からです。
それでは、はるか後方にあるロシア軍の戦力拠点、たとえばロシア軍のミサイル発射基地や爆撃機などの空軍基地、さらにはロシアに戦争継続を許している弾薬庫や軍需工場などを直接たたけない。それでは戦争に勝てないということです。
これはある意味、日本が掲げる専守防衛と似た問題ではあります。降りかかる火の粉を払うだけでは戦争に勝つことは叶わず、脅威の根本を断つことが必要だとの軍事的合理性からくるものでしょう。
しかし前述のごとく、それを西側が許してしまうと核戦争の恐怖がチラつくため、簡単には許可できないという方針が背景にあったのです。
ロシアのレッドラインを試してきた欧米諸国
しかしその西側の方針は、ロシア軍の反応を確かめながら徐々に変化してきました。
2023年5月、ロシア領内に使わないことを条件に、250km以上の長射程をもつストームシャドゥ・ミサイルの供与を英仏が開始します。このミサイルを使ってウクライナはクリミアにあるロシア軍の重要施設などを破壊しました。
それでもウクライナは戦局を挽回することができず、徐々に不利に傾いていきました。このウクライナの状況を見た欧米側は、方針を変化させていきます。
2024年5月2日には、英外相は「ウクライナにはロシアに対して反撃する絶対的な権利がある」と述べ、ストルテンベルグNATO事務総長も「ロシア領への攻撃禁止を撤廃すべき」と発言を変えました。
これらの背景には、現状でロシアが核を使用する可能性がそれほど高くない、または少しずつ攻撃のレベルを上げてロシアの許容範囲を確認するという思惑もあったかもしれません。
というのも、これまでプーチン大統領は西側の介入に対して、たびたび核攻撃を匂わせるレッドラインに言及してきましたが、実際に行動に移したことはありません。
例えば、ロシア外務省は2024年5月6日、欧米はロシアとNATOの軍事衝突に向けて事態を悪化させていると非難。
ウクライナに供与されるF16戦闘機は全て核兵器を搭載していると見なすと警告しました。この供与に対抗してロシアも戦術核を搭載可能な中・短距離ミサイル開発を加速して生産に入ると述べ、欧米を強くけん制しました。
しかし欧米側はこの警告を無視してF16を供与しています。このように供与する兵器レベルなどの介入をエスカレートさせてきましたが、その過程で核が使われることはありませんでした。
同じころ、アメリカのバイデン大統領も、米国製兵器でのロシア国内の攻撃を限定的に承認しました。これまではウクライナの国内に限られていたので方針の大転換ではありましたが、ただ攻撃は北部ハルキウ州の防衛目的に限定されており、ロシア領内への容認といっても射程は最大80km程度であって、ロシア側を極力刺激しないことへの配慮がありました。
ちなみに報道では、2022年10月ごろ、ロシアによる核使用に現実味があったと伝えています。
HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回の世界情勢などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ)。