《本記事のポイント》
- 動き出した軍需産業による景気回復
- 歴史的会談の立役者・元駐ソ大使が語る和平への道のりとは?
- このままでは「全員が敗者となる」!?
「バイデン大統領は第三次世界大戦を招こうとしている!」
2024年の大統領選に候補者として名乗りを上げたトランプ前大統領は、昨年11月の出馬表明演説でこう述べて危惧を露わにした。
残念ながら、このトランプ氏の危惧を裏付けるかのように、現実が後追いしつつある。
その要因の一つが、アメリカが送ったゼレンスキー大統領へのクリスマス・プレゼントだ。
昨年12月23日、アメリカで総額1.7兆ドル(約225兆円)となる2023会計年度(22年10月~23年9月)予算を盛り込んだ歳出関連法が成立した。この支出には、ウクライナ支援のために450億ドル(約6.4兆円)が充当されている。しかも米政府は6日、30億7500万ドル(約4000億円)の追加軍事支援とブラッドレー歩兵戦闘車50台の供与を決定した。
動き出した軍需産業による景気回復
特筆すべきであるのは、昨年末のクリスマス・プレゼントの450億ドルの中には、12億ドル(約1.5兆円)もの兵器開発支援のための予算が含まれていることだ。理由は、昨年2月の戦争開始以降、ウクライナに供与する武器の在庫が一掃されたことにある。
例えばレイセオン社は12月、ウクライナ紛争開始後の10カ月で、5年分の対戦車ミサイルのジャベリンや、13年分の対空ミサイルのスティンガーを使い果たしたと述べている。在庫を補充するには数年かかると見ている。
需要が確実に保証されている今、防衛産業への投資と新兵器開発とその実験などを、景気回復の一環に据えることができるのである。
戦争のエスカレーションを危惧する声も
アメリカの防衛産業の基盤強化がウクライナの経戦能力を左右する。このため、保守・リベラルの両極を超えて米シンクタンクで、兵器開発の重要性についての提言が行われている。だが問題なのは、ウクライナに武器の供与が増強されるにつれて、この戦争がエスカレートする可能性が高いことである。
ジョージ・W. ブッシュ政権の2006~2009年に米国防総省の国防次官補代理(政策企画担当)を務めたトーマス・マンケン氏は、フォーリン・アフェアーズ誌において昨年10月に発表した"Could America Win a New World War? "(「アメリカは新しい世界大戦に勝てるか?」) と題する論文で、「このような戦争が少なからず恐ろしいものとなるのは、中国、ロシア、アメリカの核保有国の下で行われているからだ」と指摘している。
同氏は、アメリカや同盟国への領土の攻撃はレッドラインであることをロシアや中国に伝え、大量破壊兵器の使用を避ける必要がある。そうすれば紛争は長引くが、被害が少なくなる可能性が高いと述べつつも、「核兵器が存在することで、紛争がエスカレートする可能性も大きくなる。1945年以来、世界で初めての核攻撃が起こる可能性もないとは言えない」と付け加えている。
歴史的会談の立役者・元駐ソ大使が語る和平への道のりとは?
戦闘の長期化に伴う難民の増加などで、ドイツなどの周辺国でウクライナ支援疲れも見られるようになってきた。そうした中、ウクライナ側は「領土の一体性」をロシア側に確認するように求めるなど、昨年2月よりも厳しい要求をロシアに突き付けている。このような主張を繰り返すばかりでは、紛争は激化の一途をたどることになりそうだ。
では、停戦の可能性はもう残されていないのか。
参考になるのが、冷戦時代にレーガンとゴルバチョフの歴史的な会談を成立させたジャック・マトロック元駐ソ大使の主張である。
マトロック氏は1985年のジュネーブサミットで、両リーダーが腹を割って話す機会を設け、信頼醸成を実現させた功績がある。退任後もNATOの東方拡大問題に慎重論を唱え、同盟拡大論がソ連を挑発すると訴えたジョージ・ケナンの路線を継承する人物である。
そのマトロック氏は、米シンクタンク・クインシー・インスティトゥートのサイト「責任ある国家運営」に10月、"Why the US must press for a ceasefire in Ukraine" (「アメリカがウクライナで停戦を迫らなければならない理由」)と題するコラムを寄稿し、以下の諸点を述べている。
ウクライナ4州のロシアへの編入や、ウクライナによるクリミア橋の攻撃など、ウクライナ戦争は、危険な方向に向かっている。
ウクライナは北大西洋条約機構(NATO)の支援を受けても、1991年以降に受け継いだ全ての国境内に安定した国家をつくることはできない。もしウクライナがアメリカやNATOからの支援を得て力ずくで取り返そうとしたら、(プーチン大統領のみならず)ロシアは報復としてウクライナを解体する可能性が非常に高くなる。
こうなる必要はなかった。クリントン大統領以降、アメリカの歴代大統領はNATOを拡大させ、冷戦を終わらせた軍備管理条約を破棄し、ロシアを排除した軍事同盟に旧ソ連邦を参加させた。
ウクライナがミンスク合意を順守し、ドンバスをウクライナ国内の自治体として認め、NATOへの加盟はしないと確約していれば、恐らく戦争は防げたであろう。
ウクライナとロシアの問題はウクライナの独立を承認することではなく、ソ連解体時に得た全領土の支配権を回復するというウクライナの目標をアメリカが支持すべきかどうかにある。その目標を追求することで、ウクライナの破壊が進行するなら、それは明らかにウクライナの利益にならない。
理性的な指導者であるならば、核兵器による大虐殺の脅威を招くようなリスクを冒さないだろう。だが今日、国内政治においても国際政治においても、この理性を当てにすることはできない。
それが招く結果は、この冬に試される。自国通貨のドル安が進み景気後退から、アメリカの対露制裁は西ヨーロッパを支配するための利己的な試みだと考えられるようになる。
また中国とロシアとの協力関係を深めさせ、ドル以外の通貨で行われる国際貿易を拡大させる。
紛争の当事者たちは、人類の未来は国境線の引き方ではなく、国家がその相違を平和的に解決することを学ぶかどうかによって決まるということを忘れてしまった。
戦闘を止める唯一の現実的な方法は、停戦に合意することであろう。ウクライナへの主要な武器供給国として、アメリカはウクライナに停戦に同意するよう奨励すべきである。
交渉は非公開でなければ成功せず、そのためには米露外交の復活が必要である。現在外交官僚は骨抜きにされているが、交渉しようという意志があれば、道は開ける。しかし、今のところ、その意志が欠けているように見える。
戦闘が止まり、真剣な交渉が始まるまで、世界はわれわれ全員が敗者となる結末に向かっている。
このままでは「全員が敗者となる」!?
アメリカが「和平」よりも、戦争目的を「アメリカの軍需産業の強化による景気回復」等に置くならば、戦争を長引かせることが国益となる。
これはアメリカン・リベラリズムの醜い面である。シカゴ大学のミアシャイマー教授は、戦争を継続させるために、「自由や民主主義を広げるのだ」という旗印のもと、リベラリズムは国民に対して情報提供を阻止するといった秘密主義を採り、国民を欺く必要性が出てくる。そうすると、透明性という民主主義に不可欠な要素が失われ、監視国家が築かれるのだとまで見抜いている。
もちろん外交交渉に秘密はつきものである。しかし秘密を最小限にして、透明性を高め、正しい情報が国民に与えられること。それなくして民主主義国家の国民が意見を持ち判断することは不可能である。そうでなければ、偏狭で利己的な政策が世界を覆いつくすことになるだろう。
さてバイデン民主党政権は、この悪しきリベラリズムの伝統を引き継ぎ、ハンナ・アレントが強調した概念である「複数性」を世界から排除する方向で動いている。停戦に向けての真剣な交渉がなければ、「世界はわれわれ全員が敗者となる結末」に向かっていきかねないことを、理性的なリーダーは自戒すべきである。
【関連書籍】
いずれも 大川隆法著 幸福の科学出版
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2023年1月1日付本欄 2023年、日本を取り巻く国際情勢は楽観できない 「神仏の意図」を発見し、見抜いていく
https://the-liberty.com/article/20208/
2022年12月11日付本欄 なぜロシアは核戦争のリスクを警告するのか? 紛争をエスカレートさせ破滅的危機を招いてはならない【HSU河田成治氏寄稿】