米ワシントン・ポスト紙が、ウクライナの人々が核シェルターやサバイバルリュックなどを用意し、核爆弾に備えていると報じている(2022年12月14日付電子版)。

同紙は、「キエフの住民は、程度の差こそあれ、自分たちの街が核爆弾の標的にされるかもしれないという、かつては考えられなかった可能性について思いを巡らせている」と指摘した。ロシアのプーチン大統領がウクライナで勝利するために「必要なすべての手段」を使う用意があると不吉なことを言ったり、ロシアのテレビトークショーで核兵器使用について頻繁に言及されたりしていることが、この懸念の根拠となっているという。

キエフにはすでに、ソ連が冷戦時代に核シェルターを兼ねて建設した地下鉄網があり、地下105メートルにある世界最深の地下鉄駅「アルセナルナ」もその一部だ。他にも、市外に住む人のために425のシェルターが準備され、食料や水、ラジオ機器なども備えられているという。

ロシア―ウクライナ戦争における核使用の可能性については、アメリカの軍事系シンクタンクでも問題意識は高い。しかしながら、これらアメリカ側の発信については注意して見る必要がある。

というのも米メディアを含めたこのような発信は、ロシアの脅威を煽り、アメリカ政府からウクライナへの更なる武器援助を引き出すことを目的としたものであることは明らかだが、ロシア側(プーチン氏)の真意はそうではない。

プーチン氏が核について言及しているのは、「欧米の過剰援助により、万一ロシアが通常兵器戦で圧倒的不利に追い込まれて国家存亡の危機を招くならば、核の限定使用という選択肢が浮上してくる」という、極めて防衛的な意味合いである。戦争を長引かせようとしているのは、明らかにウクライナ側だと見るべきだろう。

バイデン政権の軍事支援が戦争を長期化

ウクライナのゼレンスキー大統領は、2022年2月24日にロシア―ウクライナ戦争が始まって以来初めてウクライナを離れ、12月21日に米ワシントンを訪問し、バイデン大統領と会談した。

バイデン氏は、最先端兵器の供与を求めるゼレンスキー氏に、長距離の地対空ミサイル「パトリオット」1基や高機動ロケット砲システム「ハイマース」を含む軍事支援を伝え、「アメリカは必要な限りウクライナに寄り添う」と述べた。

米政府はゼレンスキー氏との会談に先立ち、ウクライナに総額18億5000万ドル(2400億円)規模の追加の軍事支援を発表していた。

バイデン政権を中心とした西側諸国の支援によって、ロシア―ウクライナ戦争は長期化している。世界はより一層危険な方向に進んでいると言えるだろう。

米議会でのゼレンスキー演説には賛否両論

12月21日夜、ゼレンスキー氏は、2023年会計年度予算を審議中だった米連邦議会の上下両院合同会議で「ウクライナを助けるためのアメリカの努力に感謝する」と演説した。

参加した議員たちは、何度もスタンディングオベーションで応え、テレビも、FOXやNewsmaxのような保守系から、CNN、MSNBCのような左翼系まで、主要なニュースチャンネルは、「歴史的」スピーチとして生中継していた。

ゼレンスキー氏は、フランクリン・ルーズベルト米大統領の言葉を引用した「英語」原稿を読み上げ、計算され尽くした演出を通じて、「来年(2023年)から始まる118会期の議会に入っても、ウクライナ支援を続けてほしい(下院は本年からウクライナ支援に慎重な共和党が過半数を占めるため)」という趣旨を主張したと解釈されている。

しかし、国民の税金を使った、際限のないウクライナ支援に対しては、利害関係で動いていた政界も大きく分裂し始めている。一部民主党議員を含め、共和党下院議員の半数以上は欠席し、「ウクライナ支援に国民の税金を注ぎ込む前に、危機的な国境問題(不法移民問題)や急増する犯罪から国民を守るべきだ」という、大半の有権者の声に傾いている。

一方、アメリカ国内の話題として、2024年大統領選の議論が急増しており、民主党陣営や「エスタブリッシュメント」(党派を問わない既存エリート層)によるトランプ前大統領への攻撃が先鋭化している。

マコネル上院院内総務(共和党上院代表)によるトランプ氏批判が激化すると同時に、2021年1月6日議事堂襲撃事件の特別調査委員会は、昨年末の閉会直前に最終レポートを提出し、トランプ氏の有罪と公職への立候補禁止を主張した。

しかし、米下院の多数党が共和党になったため、今年1月3日以降は、下院議長、常任委員会(計20)や特別委員会の委員長は全て共和党議員に入れ替わり、共和党が下院議会運営の主導権を握る。

下院議長は、民主党のナンシー・ペロシ氏から共和党のケビン・マッカーシー氏に交代する(1月3日に正式決定)。マッカーシー氏はトランプ氏支持派の議員であり、昨年10月の発言から今回のゼレンスキー氏の米議会演説終了後のインタビューまで、一貫して「(ウクライナは支援するが)ウクライナへの支援に関して白紙の小切手を切ることはない」と発言している。

米議会きっての対中強硬派の1人、マイケル・マッコール議員は、外交委員長に就任する。ハンター・バイデン氏をめぐる不正疑惑やコロナウィルスの起源を追及する方針を示すジム・ジョーダン議員とジェームズ・コーマー議員はそれぞれ、司法委員長と監視・政府改革委員長を務める。新議会で新たに設ける「中国特別委員会」の委員長には、マイク・ギャラガー議員が就く。同議員は昨年12月中旬、上院議員のマルコ・ルビオ氏(共和党)や下院議員のラジャ・クリシュナムーティ氏(民主党)と共同で、中国系アプリ「TikTok」を禁止する超党派法案を発表した。

また民主党の下院院内総務は、約20年にわたってトップを務めたペロシ氏に代わり、黒人のハキーム・ジェフリーズ議員が務める。

その他、司法面では、トランプ・オーガニゼーションやトランプ氏個人の不正税務処理疑惑や、過去の女性問題(レイプ疑惑等)への追及なども加速しており、トランプ氏の大統領選再出馬を阻止しようとする動きは尋常ではない。

しかし、全米共和党支持者におけるトランプ氏の支持率は、ごく最近の例外を除き、トータルでは、依然として圧倒的一位を誇る。

2016年の大統領選以降のアメリカの政界は、あえて単純化すれば、「トランプ対アンチトランプ」の構図の中で、様々な議論や利権争いが起きてきたが、2024年大統領選に向けても、同じ対立構図の中での「挑戦と応戦」が続くだろう。

2023年は、戦争の拡大・勃発の危機や経済的危機から、2024年大統領選を巡る激しい政争まで、大きな動乱や混乱が予見され、目が離せない緊迫した一年になりそうだ。

(米ワシントン在住 N・S)

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