アメリカでは、11月8日の中間選挙に向けて、州ごとに連日、熾烈な攻防戦が繰り広げられている。

各種世論調査によると、中間選挙の争点は大きく分けて、(1)経済とインフレ、(2)中絶問題、(3)犯罪と不法移民の順に重視されている。

共和党は、経済問題に焦点を当てている。高インフレが続く中、9月26日にはニューヨークダウが続落して1年ぶり以上の最安値を更新。景気後退の可能性が高まったと言われていることや、連邦議会予算局の新たな試算で、連邦学生ローンの大部分を免除するというバイデン政権の計画に約4000億ドル(約58兆円)もの費用がかかることが分かったことなどを取り上げて、民主党を批判している。

中絶問題で共和党に反発も

民主党は、中絶問題を大きく取り上げる。米連邦最高裁判所が6月に、人工妊娠中絶の合憲性を覆す判決を下したことと、それに基づいて、共和党議員が中絶禁止法案を推進していることへの反発が大きくなっているためだ。

共和党のリンゼー・グラム上院議員は9月中旬、米国全土で妊娠15週以降の人工中絶を、未成年者に対する強制性交と近親相姦を除いて禁止する法案を提出した。法に違反して医師が中絶手術を行うと、刑法犯罪となり罰金あるいは5年以下の拘禁刑が科される。この法案が議会を通過する可能性は低いものの、法案の提出以降、無党派層に加え、米軍関係者や一部の共和党支持者は、女性の選択の自由が奪われることに抵抗を示し始めている。

民主党は、最高裁で中絶の合憲性が覆されて以来、共和党優勢の州の憲法で次々に中絶が禁止されていることなどを批判する。例えば、共和党優勢のオハイオ州在住の10歳の女の子が暴行されて妊娠し、人工中絶が禁止されたばかりの同州で手術を受けられないため、隣のインディアナ州まで行って中絶せざるを得なかった事例などを大々的に取り上げ、女性の選択の自由としての「中絶の権利」を主張している。

例外の事例(暴行など)をどう扱うかは、別途しっかりした議論が必要だが、少なくとも民主党の共和党批判キャンペーンは、胎児の人権や魂の議論を避けた唯物論的視点に基づいたものと言える(中絶に関する考え方については、関連書籍・関連記事参照)。一方の共和党は中絶問題を取り上げると不利になるため、議論そのものから逃げる傾向が出ている。

不法移民問題を直視しない民主党

不法移民問題や犯罪の深刻化から、国境問題に関する議論も急増している。これに伴い、ヒスパニック系アメリカ人などが急速に民主党離れを起こしている。

テキサス州知事のクレッグ・アボット氏は、バイデン政権が不法移民問題を一向に解決しようとしないことに憤り、4月以降、不法移民をバスに乗せて首都ワシントンD.C.に送り込んだ。南部の国境に面しているアリゾナ州知事やフロリダ州知事も、似たような不法移民の移送を行った。結果、その数は計1万人近くに達し、ホームレスシェルターが溢れて犯罪が急増。ワシントンD.C.市長のミューリエル・バウザー氏は9月上旬、「公衆非常事態」を宣言し、対応する事務所の設置予算は、政府に請求すると発表している。

これら共和党の州知事は、首都ワシントン以外にも移民受け入れ賛成派のリベラルな市長が率いるニューヨークやシカゴ、また、マサチューセッツのマーザス・ヴィンヤード島にも不法移民を送り始めている。また、移民担当に任命されながら、国境視察もせず、「国境は安全だ」と何度も発言しているハリス副大統領の邸宅前にも、不法移民の乗ったバスが到着し始めた。これらの不法移民の輸送について、国民の52%は賛同している(9月15日の調査会社「ラスムッセン・レポート」調査)。

ホワイトハウスも不法移民問題を直視しようとせず、「問題はない」という発言を繰り返すばかり。実際に問題に対処している国土安全保障省は、移民の扱いについてバイデン政権と歩調を合わせることが限界に達し、両者の間で対立が起きているようだ。

そして合法的にアメリカに移り住んでいるヒスパニック系アメリカ人の間では、不法移民問題を中心にバイデン政権に対する批判が強くなり、民主党離れが加速し、メキシコとの国境の壁の建設を始めたトランプ前大統領を支持する層が急増している。

下院は共和党が過半数を奪回、上院は民主党が維持か

こうした熾烈な攻防で、両党は支持率を奪い合っている。4~5月ごろは共和党の支持率が歴史的な差で優勢だったが、中絶問題をきっかけに低迷。現時点では、下院議会では共和党と民主党の支持率は拮抗している。ただ獲得議席数の予測では依然として共和党の方が若干優勢で、共和党がかろうじて過半数を奪回すると見られている(9月25日付 CBSニュースなど)。

上院議会については、トランプ前大統領の「共和党内」での影響力が圧倒的に大きいことから、州ごとに党の公認候補を選出する予備選では、トランプ支持者の共和党候補が多く選出された。しかし、彼らは「無党派層」からの支持が高くないことから、民主党が過半数を維持する可能性が若干高いと分析されている(一部で共和党優勢という分析もある)。

また、9月25日に発表されたワシントン・ポストとABCによる大規模な世論調査で、56%の民主党有権者がバイデン大統領の再選を望んでいないことが話題になった(賛成は35%)。同じ調査で、トランプ氏の再出馬に賛成する共和党有権者は47%、反対は46%だった。賛成の割合は2020年の調査より20ポイント近く落ちている。

それでも、民主党にはバイデン氏以外に他の有力な候補者がいないと言われ、トランプ氏も共和党で最も人気がある。2024年の大統領選は「バイデン対トランプ」になる可能性があると分析されており、その戦いはすでに始まっているとも言われている。

(米ワシントン在住 N・S)

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