アンチトランプの筆頭共和党議員であるリズ・チェイニー下院議員が、8月16日にワイオミング州で行われた共和党予備選で、トランプ前大統領が支援したハリエット・ヘイグマン候補に敗北し、大きな注目を浴びた(関連記事参照)。

チェイニー氏の得票率は28.9%、ヘイグマン氏の得票率は66.3%となり、現職議員の敗北としてはこの60年で2番目の歴史的大差と言われた。

トランプ弾劾訴追決議に賛成したチェイニー氏の大敗は、"トランプ支持者の怒り"が爆発した結果だろう。この敗北で明らかになったことは、トランプ氏の共和党内での"グリップ力の強さ"だと言える。リベラル系識者などからは、「共和党はトランプ党になった」とさえ指摘されている。

一方で、チェイニー氏は、自身の当選よりは、トランプ氏の大統領復帰を阻止することに全力を注いでいる。その証拠に、歴史的大差で敗れたにも関わらず、2024年の大統領選出馬を検討していると発表した。目的は、彼女自身が大統領になることではなく、大統領候補討論会などでトランプ氏を攻撃し、その当選を阻止することにあると言われている。

彼女は、予備選の翌日の17日に、反トランプ活動に専念する政治委員会、"The Great Task(偉大な任務。リンカーンの言葉にちなんだ命名)"を立ち上げると発表。その目的は、反トランプ・キャンペーンを展開し、反トランプ議員(共和党)を支援するなど、あらゆる手段を駆使して、トランプ氏の再選を阻止することにあると公言している(8月17日放映NBC番組『Today』インタビュー他)。

秋の中間選挙、下院は共和党が若干の優勢にとどまるか?

8月下旬時点での中間選挙の党別支持率では、下院は共和党の優勢がほぼなくなってきており、若干の優勢に止まっていると報じられている。

共和党の優勢が縮まった理由としては、中絶を違法とする保守州などの動きへの反発が強まっていること、有権者の最大の関心事であるインフレ(特にガソリン価格)がやや収まっていること、民主党の2つの看板政策である半導体補助金法と気候変動・医療法が成立したことで、民主党支持者の自信が回復したことなどがあると分析されている(8月20日付ワシントン・エグザミナー他)。

また、上院は民主党の方が優勢で、さらに議席を増やす見込みだと分析されている。上院は、全体の3分の1にあたる34議席のみの改選であり、現職議員が共和党議員である州が多い。民主党は失う可能性のある議席数が少ない上、共和党の候補者にはトランプ氏が支持を表明した候補が多いが、彼らへの無党派党の支持率が低いことなども原因とされている。

バイデン大統領は、2つの大型法案を成立させ、アルカイダのリーダーの殺害に成功したにも関わらず、支持率は最低レベルのままで、民主党支持者からも不人気だ。バイデン氏は中間選挙に向けて遊説を開始すると発表しているが、民主党議員にとっては、あまり応援のプラスにはならないため、バイデン氏の話題自体が減っている。

FBIのトランプ邸家宅捜索の狙いは「ロシア疑惑捏造」の隠蔽か?

連邦捜査局(FBI)が予告なしに突然、トランプ氏の邸宅「マールアラーゴ」の家宅捜索を行い、その後も非常に大きな話題として、多くの意見や憶測、分析が飛び交っている。

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フロリダ州にあるトランプ氏の邸宅「マールアラーゴ」(画像: Wangkun Jia / Shutterstock.com)。

共和党議員や保守系識者やメディア、トランプ支持者からは、FBIと司法省への非難が集中。その結果、共和党内でのトランプ氏の支持率は急上昇した。

NBCニュースの世論調査(8月21日発表)では、共和党の有権者にトランプ氏と共和党のどちらをより支持しているかを尋ねたところ、41%が「トランプ氏を支持する」、50%が「党を支持する」と回答。5月の同世論調査では、共和党員の34%が「トランプ氏を支持する」、58%が「党を支持する」と答えていたことから、トランプ氏の支持が7ポイント上がった。

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FBIによるトランプ邸家宅捜索を受け、「Stand with Trump(トランプを支持する)」イベントでデモ参加者が集結 (画像: Ben Von Klemperer / Shutterstock.com) 。

トランプ氏が機密を不適切に扱い、スパイ活動法に違反した可能性があるとも報道されているが、トランプ氏や支持者は、「2016年の大統領選挙にロシアが干渉したとする『ロシア疑惑』を"捏造"した証拠を隠ぺいすることが、本当の目的ではないか」などと疑っている。

トランプ氏は、家宅捜索の令状取得に使用された宣誓供述書の公開を求めたものの、司法省は拒否。しかし、フロリダで捜索の許可を出したブルース・ラインハート連邦地裁判事は司法省の主張を退け、宣誓供述書の一部を公開するよう命じた。そして26日、司法省は宣誓供述書を大幅に黒塗りで潰して、肝心な部分を隠した形で公開し、トランプ氏や共和党議員、保守系メディアから非難が殺到している。

主要メディアを中心に、押収した書類の中には300以上の機密資料が含まれていたと報道されている。トランプ氏は、FBIが押収した書類の調査を中止し、第三者による「特別管理者」を選任することを求めて、連邦地裁に提訴した。

2020年の大統領選前の10月中旬に、「ハンター・バイデン氏のノートパソコンから汚職の証拠となるEメールを入手した」というスクープをニューヨーク・ポストが報じたが(関連記事参照)、FBIは大統領選前にこの件に関して情報を明らかにしなかった。それと同様に、司法省やFBIは、捜索の目的や調査の結果などを明確にするのは中間選挙後に引き伸ばし、トランプ氏のイメージを落とすことで、中間選挙で民主党が有利になることを狙っているのではないかとも言われている。

(米ワシントン在住 N・S)

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2022年8月1日付本欄 米州兵のアジア配備に見る中国への警戒【─The Liberty─ワシントン・レポート】

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2022年5月30日付本欄 最先端の半導体不足に苦心するアメリカ 【─The Liberty─ワシントン・レポート】

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2022年7月6日付本欄 米ワシントンに見る宗教における保守派とリベラル派の戦い【─The Liberty─ワシントン・レポート】

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2022年8月17日付本欄 米共和党予備選で"変節"したチェイニー議員が敗北 勝利したヘイグマン氏は政府の規制と戦ってきた保守派弁護士

https://the-liberty.com/article/19791/

2022年8月10日付本欄 米NYT紙がバイデン大統領に「再出馬はしないで」と念押し "トランプ復活"を恐れる民主党陣営

https://the-liberty.com/article/19777/

2020年10月31日付本欄 バイデン候補の"腐敗"を撃つ──これが、ツイッター社が"検閲"したニューヨーク・ポスト砲の全文だ!

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2020年11月2日付本欄 バイデン候補の"腐敗"を撃つ(2)──ニューヨーク・ポスト砲の全文を公開する!

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