世界で砂時計が落ちるかのように、カウントダウンが始まっている問題がある。とりわけ一年以内に対応を迫られる可能性が高いのが、北朝鮮、イラン、中国の問題だろう。
このリスクに対してどう備えるかで、日本の未来は大きく変わってくる。
こうした国々に端を発するリスクに日本はどう備えるべきかについて、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)未来創造学部で軍事学や国際政治を教える河田成治アソシエイト・プロフェッサーに話を聞いた。
(聞き手 長華子)
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元航空自衛官
河田 成治
プロフィール
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。
追い込まれる北朝鮮
──米朝関係に進展が見られないようです。
河田氏(以下、河): 2019年2月のハノイでの米朝首脳会談以降、米朝関係は決裂した状態が続いています。その後、両国の間で対話を進めていく予定でしたが、何も進んでいません。
アメリカ側は、北朝鮮の完全な非核化(FFVD)と引き換えに、北朝鮮の経済的発展と繁栄を約束すると提案しました。非核化のために、「北の保有する核やミサイルの数や施設を完全に公開し、廃棄のための完全なロードマップを示すこと」を要求し、それまでのCVID(完全で、検証可能で、不可逆的な、非核化)というもっとも厳しい非核化の要求から表現を変え、北朝鮮側に歩み寄ったのです。
しかし、北朝鮮は「完全に公開する」というアメリカ側の要求を無視し、寧辺核施設の廃棄と引き換えに、大幅な経済制裁の解除を求めるという小出しの歩み寄りに留まりました。アメリカにとっては、「非核化に向けてロードマップを示せ」というのが北朝鮮に対する譲歩の限界だったため、両者の溝が埋まる兆しはありません。
譲歩すれば米朝会談が実現するという声もありますが、ここで譲歩をしたら、香港や台湾問題に対しても、弱腰だと見られて影響が出るため、「これ以上の譲歩をしない」というアメリカのスタンスは正しいのです。
北朝鮮の厳しい台所事情
河: その結果、経済制裁が効いている様子です。国連は「北朝鮮の穀物生産は1990年代の飢饉以来最悪の落ち込み」と報告しています。人口の40%にあたる約1010万人(人口の40%)が深刻な食糧不足に陥っていると見られています。
北朝鮮の台所事情の厳しさは、2つの側面に表れています。
まず、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は、対米交渉の期限を昨年末とし、制裁緩和などでアメリカが譲歩しなければ「新たな道」を選ばざるを得ないかもしれないと警告していました。
もう一つが、ロシアと中国が昨年末に、国連の安全保障理事会に提出した要求です。その中で両国は、北朝鮮の海産物や繊維製品の輸出禁止措置の解除や、北朝鮮からの海外出稼ぎ労働者受け入れの規制緩和をすべきだとしています。
コロナウィルスで北朝鮮は崩壊か
河: 今まで中国からの密輸で苦境を乗り切ってきましたが、今度ばかりは難しい。というのも中国の武漢を震源地とする新型コロナウィルスの感染が拡大しているからです。
まず、ウィルスの感染拡大により物流が滞り、中国からの食糧や物資などの支援が得られなくなる可能性があります。また栄養状態と衛生環境に問題があり、かつ医療品も十分でないと推定される北朝鮮にあっては、北朝鮮国内での蔓延は、たいへんな被害をもたらすでしょう。
さらに、軍隊は基本的に集団生活や緊密な人的接触が避けられないため、北朝鮮軍内部でウィルスが蔓延すれば、戦力の大幅ダウンを招く恐れがあります。人民より軍を優先しがちな北朝鮮にあっては、死活的問題でしょう。
このようなリスクを考慮せず、中国との物流などの関係を継続すれば、コロナウィルスが北朝鮮経済および軍を麻痺させてしまうこともあるのです。
核兵器より恐ろしい北朝鮮の生物兵器
──行き詰まった北朝鮮は次にどう出ると思いますか。
河: 追い詰められて不安定な状態にあるため、日本にとっては大問題です。イラン問題でアメリカが中東に戦力を集中し、東アジアに関与できなくなると見れば、制裁解除に向けた揺さぶりとして、新たな核実験や中・長距離ミサイルの発射実験をする可能性があります。2017年のように頻繁にJアラートが鳴る事態が再びやってくるかもしれません。
脅威は核ミサイルだけではありません。北朝鮮は生物兵器を持っているとされています。
コロナウィルスが生物兵器かどうかは置いておくとしても、もし実際に生物兵器が使われれば、ウィルスの拡散を防ぐことが如何に難しいか、また国民のパニックや混乱といった、危機管理上の難しさが今回の事例で理解されたのではないでしょうか。
今回の新型コロナウィルスは、潜伏期間が最大2週間あり、無自覚なまま感染しているケースもあります。
もし、このような状況を想定して生物兵器が設計されていた場合、誰もが事実上の「歩く生物兵器」として拡散手段となってしまうかもしれません。生物兵器の怖さを実感できる事態が、まさにいま起きているのです。
したがって、北朝鮮が核兵器で脅してくるのみならず、生物兵器で脅してきたらどうなるかも考えた上で日本国内の危機管理体制を検討する必要があり、今回の新型コロナウィルスをケーススタディとして、最悪の事態に備えておくべきでしょう。別の見方をすれば、危機管理体制を見直すチャンスとして捉えることもできます。
なお、今回のウィルスが日本で流行ったら、諸外国から日本からの渡航を禁止されることになり、世界経済から切り離されることにもつながります。オリンピックの開催も危ぶまれることになりかねません。その点からも、最大限の危機管理対策を取るべきです。
第三次オイルショックが起きる可能性は高い
──中東でも大きな動きがありそうです。
河: 日本は、化石燃料の約90パーセントを中東に依存しています。そのうち80パーセントがホルムズ海峡を通って日本に運ばれます。
ホルムズ海峡を通る日本国籍ではない日本関係船舶の数は年間3900隻で、アラビア半島南西部のイエメンと東アフリカのエリトリア、ジブチ国境付近の海峡であるバブ・エル・マンデブ海峡を通る1800隻と併せると、5700隻に上ります。
このうち2600隻は護衛をリクエストしているといいます。つまりこれだけ多くの船が身の危険を感じているということです。
今回、自衛隊は中東に護衛艦を派遣することになりましたが、あくまでも調査・研究目的です。しかも公明党の反対のために、海上警備行動発令時には、日本船舶に限って武器を使って警護できるとしており、国籍が日本でない日本関係船舶(日本にエネルギー等を運ぶ船)は含まれなくなりました。日本船舶はわずか260隻です。この船舶しか武器を使用して守れない。日本関係船舶を守る場合は、巨大な音を出したり、不審船等の進路妨害によってでしか守れないという状況です。
日本国籍の船舶しか守れないので、その他の船舶の護衛はほかの有志連合にお願いするという身勝手な状況になっています。
もしイランで紛争が発生すれば、第三次オイルショックが起きる可能性は極めて高いでしょう。その際、日本に石油が入らなくなる事態を、政府はどこまで真剣に検討しているでしょうか。東日本大震災以降、稼働が止まっている原発を再稼働させるとともに、早急にエネルギーの輸入先をロシア等ほかの国に分散し、エネルギー安全保障を高めるべきです。
中国は対外侵出に出る
──中東問題はアジアにも波及しそうです。
河: コロナウィルスの蔓延を抑えられなかったこと、まずい国内の経済政策、米中貿易戦争での関税などにより、中国の経済成長は低下し、習近平政権の信用が失われてきています。しかも香港のデモも鎮圧できず、台湾の選挙で蔡英文氏の再選を許してしまいました。
習近平氏国家主席の指導力に疑問符が付く中で、アメリカがイランに注力すれば、中国は汚名返上のチャンスとばかりに、軍事的な侵出の動機と環境がそろってしまいます。
それが考えられる箇所は4つあります。1つ目は南シナ海、2つ目は台湾への軍事的な圧力および香港への軍事的な介入。3つ目は尖閣諸島を含めた東シナ海への侵出。4つ目は一帯一路関連国への支配の強化です。
アメリカのアジアへの関与が薄れれば、アジアにとって極めてマイナスになります。日本は国際社会におけるもっとも大きな脅威は中国だということをトランプ米大統領に説得すると同時に、習近平氏の国賓待遇での来日を取りやめ、習政権の得点稼ぎを阻止すべきでしょう。
【関連書籍】
大川隆法著 幸福の科学出版
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