フィリピンで6月30日、ロドリゴ・ドゥテルテ氏が新大統領に就任した。
ドゥテルテ氏は、フィリピン南部ダバオ市の市長を20年近く経験した。市長時代に、治安を回復させた実績から、犯罪撲滅などを断行する「強い指導者像」をアピールし、選挙を勝ち抜いた。その過激な発言から「フィリピンのトランプ」と呼ばれている。
この人物が大統領になったことにより、フィリピンはどう変わるのか。そして、日本はどのような影響を受けるのだろうか。
ドゥテルテ氏は就任早々、「麻薬密売人を殺害した警察官には金を支払う」と表明した。これを受けて震えあがった何千人もの麻薬常用者や密売人らが、相次いで自首している(1日付ロイターなど)。
犯罪撲滅の効果はてきめんのようだが、ドゥテルテ氏は市長時代に「処刑団」を率い、薬物犯ら1000人以上を正当な手続きなく殺害した疑いがあり、独裁的な政権になることを心配する声もある。
注目は裁判中の中国との関係
ドゥテルテ氏の強みは治安回復や犯罪撲滅だが、日本が注目すべきは、同氏の中国への姿勢だ。
現在、フィリピンは南シナ海での中国の軍事拡張を訴える国際仲裁裁判が行われている。その判決は7月中旬に出る見込みだ。
ドゥテルテ氏は、アキノ前大統領の対応は軟弱だと批判し、「南シナ海で中国が人工島を作っているスカボロー礁に行って、フィリピンの旗を立ててやる」と威勢のよい発言をしていた。しかしその一方で、中国政府が鉄道供与などの経済支援を行った場合には「南シナ海問題を棚上げする」と明言するなど、中国への姿勢に一貫性がないことが指摘されている。
国際仲裁裁判では、中国側に不利な判決が出る可能性が高いため、中国側は国際世論において孤立することを懸念している。そんな中国からは、ドゥテルテ新政権に水面下で関係強化のためのさまざまな働きかけがされているとみられている。
ドゥテルテ氏は、南シナ海の防衛において重要なアメリカとの関係については、「(アメリカに)依存することはない」と持論を繰り返している。もし、日米と安全保障面や経済面で連携を深めてきたアキノ大統領の路線を大きく転換し、中国との関係を強化するのであれば、日本にとって危険が高まる。
ドゥテルテ新政権の対中政策に要注意
中国は南シナ海だけでなく、日本の領海・接続水域においても挑発的な領海侵犯を行っている。
フィリピンが中国に軍事的に制圧されなくとも、経済的な「懐柔策」で飲み込まれるようなことがあれば、南シナ海は中国の海となる。そうなれば、中国に太平洋に進出する入り口を与えることになり、日本の安全保障が大きく脅かされる。
フィリピンの新政権の下で、不用意に中国を勢いづかせるようなことがないよう、日本はアメリカと協力して、フィリピンとの関係を強化することが必要だ。
(小林真由美)
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