《本記事のポイント》

  • トランプ氏、対中関税を25%に引き上げ
  • 貿易交渉でトランプ政権が突き付けた「絶対に呑めない」要求
  • 本気で"共産党潰し"にかかったトランプ政権!?

トランプ米大統領は10日から、2000億ドル相当の中国製品に対する関税を、10%から25%に引き上げると表明している。

世界のエコノミストのなかには「米中貿易戦争は終わりに向かう」という観測もあった。しかし、やはりそうはいかなさそうだ。

貿易交渉でトランプ政権が突き付けた「絶対に呑めない」要求

それもそのはず。この貿易交渉で、トランプ政権が習近平政権に突き付けている要求は、とてもではないが呑めるものではないのだ。

第一にトランプ政権は、「北京政府による国有企業への補助金停止」を強く求めている。

しかし中国には、補助金(輸出補助金)なしではすぐにつぶれてしまう国有企業がごまんとある。そうした企業はいわゆる「ゾンビ企業」と呼ばれ、約2000社はあると言われている。

それらを整理・清算するとなれば、一大事だ。例えば、1社当たり従業員が5万人いると仮定しよう。約2000社が潰れれば、たちまち1億人が失業する。もし1人の従業員が3人家族だとすると、3億人が路頭に迷う。そうでなくても、現在、中国では社会不安が増大している。それに拍車がかかることになる。

さらにそうした企業は、中国経済の命綱である「輸出」を担っている。その他の「投資」「消費」は、貿易戦争が始まるとっくの前から不調で、もはや頼りにはならない。国有の輸出企業が潰れれば、その命綱を断つことにもなる。

さらに、「国有企業を見捨てる」というのは、習近平の基本方針とも大きく食い違う。習近平政権は、国有企業を優先的に大きくすることで、社会や経済における中国共産党の支配を拡大しようとしている。だからこそ習近平政府は、民間企業と国有企業を統合する「混合所有制」という新しい形態の企業を誕生させた。

「中国経済の命綱を断ち切り、肝いり中の肝いり政策を後退させろ」というのは、習近平に辞任を迫っているにも等しいのだ。

第二にトランプ政権は、「米企業による様々な分野への新規参入」を求めている。これも習近平政権にとって、とうてい受け入れられるものではない。

中国における、石油、電力、通信、軍需にかかわる産業では、一つの企業の独占状態か、あるいは数個の企業による寡占状態となっている。

そしてそれらは、中国共産党幹部の権益と密接にかかわっている。こうした産業の企業の多くは国有企業である。また、仮に「民間企業」と称していたとしても、社内では中国共産党員が多数を占める。いわば、「党営企業」のようなものだ。そこに米企業が乗り込んで来ればどうなるかーー。

共産党の権益を切り崩すような要求を、習近平が呑むはずがない。

しかし、こうした要求を呑めない習近平政権に対して、トランプ政権は「関税25%」を課すことを決めた。これも、中国経済の命綱である「輸出」を、奈落の底に落とすものである。

本気で"共産党潰し"にかかったトランプ政権!?

つまり習近平政権にとってトランプ政権との交渉は、「進むも地獄、退くも地獄」。逆に言えばトランプ政権は、多くの日本人が思っている以上に、"本気"で中国共産党政権を潰すつもりらしい。

そんな本気度がうかがえる事象の一つとして筆者は、3月25日に立ち上がった「The Committee of Present Danger : China(仮訳「中国という目前の脅威に対<処>する委員会」以下、CPDC)」という組織に注目している。一応は、単なるロビー団体とされているが、実態は不明。そこでは、すでにホワイトハウスを去った「対中強硬派」のスティーブン・バノン氏なども中心メンバーとなっている。1950年代と70年代の冷戦時、アメリカがソ連に対して用いた手法を、今度は中国に応用するつもりだろう。

ここからは、トランプ政権は習近平政権による人権弾圧や宗教的迫害がもはや看過できない所まで来たと考えていることがうかがえる。

習近平政権は今年、内部的には経済的に困窮し、米国からは強い外圧を受け、瀕死の状況に陥っていく可能性が高い。

拓殖大学海外事情研究所

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~2005年夏にかけて台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011年4月~2014年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界新書)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

【関連記事】

2019年4月9日付本欄 中国の化学工場が"また"大爆発 「チャイナ・ボカン」は独裁の弊害【澁谷司──中国包囲網の現在地】

https://the-liberty.com/article/15620/