物価高という「目先の印象」に惑わされると危険! 通貨価値の安定こそ繁栄の鍵

2022.06.12

《本記事のポイント》

  • 親の世代より豊かさを感じられない中所得者層
  • 通貨価値の下落より「目先の印象」に惑わされるのが世の常
  • 通貨価値の安定なくして繁栄なし

「中央銀行がソフトランディングできると言っているときは、シートベルトをしっかりと締めないといけない」(フォーブス最高経営責任者のスティーブ・フォーブス氏)

「原油価格は1バレル175ドルまで上昇する」(JPモルガン・チェースの最高経営責任者ジェイミー・ダイモン氏)

5月の米消費者物価指数(CPI)が前年同月比の伸び率が8.6%と、1981年12月以来の40年ぶりに高水準となる中、今後の景気の行く末を案じる声が数多く出始めている。

市場ではインフレはピークアウトしたという楽観論が支配的だったが、それが覆された形となった。

親の世代より豊かさを感じられない中所得者層

物価高になって、アメリカ国民の中で怒りの気持ちが高まっている。とりわけ中間層の不満は根強い。

「ザ・タイム」誌が組んだ特集はその一端を垣間見せてくれる。

同誌によると、アメリカでは、住宅(Housing)、医療(Health Care)、高等教育(Higher Education)の3つのHのコストが親の世代から急上昇していることで、中間層の所得が減り、生活を圧迫しているという(5月9日~16日号)。

親の世代よりも所得は多くとも、豊かさを感じられないというのだ。

そしてヴァンダー・ヴィルト大学のガネッシュ・シターマン法学部教授のコメントを引用し、「中間層の崩壊がアメリカの立憲政治の脅威である」と警鐘を鳴らす。

中所得者層が貧しさを感じる理由

突然始まったかに見えるインフレ。だが、必ずしも降ってわいた現象ではないことに留意すべきだろう。

インフレを測るいくつかの指標がある。

労働統計局の生活費に関する算出によると、現在のドルの購買力は1970年代と比べると86%も低下している。

次に金価格との比較である。1970年代には、1オンスの購入に35ドル要しただけだったが、今日では1オンスに1800ドル必要となる。要するに金価格と比較すると、ドルの価値は98%も下げたことになる。

さらに原油価格もインフレを測る指標となる。1960年代に1バレル当たり3ドルで、現在は120ドル近くまで上昇しており、これは175ドルまで上昇するのではないかと言われている。つまり、この62年ほどでドルの価値が下落したことを示しているのだ。

最後にビックマックの価格だ。1970年代に、ビックマックは65セントで買えたのに、同じビックマックが現在は4ドル95セントと、実に8倍になっている。

ビックマックの中身が変わっていないのに値段が変わっている。つまりそれだけドルの価値が下がったということになる。

このインフレも、親の世代より豊かさを感じられなくなっていることの一つの理由である。

通貨価値の下落より「目先の印象」に惑わされるのが世の常

問題は、国民が通貨価値が下がっていることを理解できず、怒りの矛先を富裕層に向けたり、バラマキをしない政府に向けたりすることだろう。

その感覚は、第一次大戦後、ハイパーインフレで喘いだワイマール共和国(1919~33年までのドイツ共和国の通称)の国民の感覚と通底するものである。

手押し車に紙幣を積んでドイツ国民がモノを買う写真は有名になったが、1923年のハイパーインフレも突然起こったものではなかった。

1914年から1918年の第一次大戦の頃から徐々にインフレは進んでいたのである。

第一次大戦中から、ドイツは自国の銀行システムを通じて、通貨の過剰供給を許すような財政政策を採っていた。また福祉への財政支出を止められなかったのも原因である。

そこに追い打ちをかけるように、戦勝国による賠償請求が行われた。ドイツの中央銀行は賠償請求に強いられる形でさらにマルクを発行したのである。

しかしドイツでは、大多数の人々が自国通貨の価値が下がったとは思わず、絶対的なモノの値段が上がったと錯覚した。

当時の一般市民の声としてこんな声が残っている。

「ドルがまた上がるとみんなが言っていました。でも実際には、ドルの値はそのままで、マルクが下がっていたんです。でもマルクが下がっているとはなかなか思えませんでした。数字そのものはどんどん大きくなり、物価も上がる一方でしたから。目に見える変化のほうがはるかに印象が強かったので、お金の価値が下がっているとは気づきませんでした」

「目に見える変化のほうが印象が強い──」。結果として国民は、必要なモノを買うため、もっと多くのマルクを求めるようになった。

本当は通貨マルクの「安定化」を求めなければならなかったが、そんなことを求める国民は皆無だった。

1970年代のアメリカのインフレも、インフレが高進していたのにもかかわらず、お金をもっと刷ったことが原因で深刻化した。

バイデン政権は「数兆ドルの政府支出がインフレを抑制する」といって憚らないが、それこそ通貨の暴落を引き起こす考えである。

通貨価値の安定なくして繁栄なし

「FRBは長期的に通貨価値が安定するように最大限尽力する機関とならなければなりません」

サプライサイド経済学の父であるラッファー博士は著書『「大きな政府」は国を滅ぼす』において、こう述べた。

サプライサイド経済学が、通貨の安定を同理論の5本柱の一つに据えるのは、通貨の安定なくして国家は繁栄しないからである。

FRBはその本来の使命を果たせるのか。国民は物価上昇を前にして、もっとお金を刷ってほしいと政府に要求することになるのか。それがさらなる不況を呼び込むのか。アメリカは分岐点に立っている。

【関連書籍】

『ウクライナ問題を語る世界の7人のリーダー』

幸福の科学出版 大川隆法著

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『「大きな政府」は国を滅ぼす』

幸福の科学出版

アーサー・B.ラッファー 著/ザ・リバティ編集部 訳

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タグ: ハイパーインフレ  物価高  中所得者  物価指数  FRB  通貨価値  インフレ 

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