2012年9月号記事
ワシントン発
バランス・オブ・パワーで読み解く
伊藤貫のワールド・ウォッチ
(いとう・かん)
国際政治アナリスト。1953年生まれ。東京大学経済学部卒。米コーネル大学でアメリカ政治史・国際関係論を学び、ビジネス・コンサルティング会社で国際政治・金融アナリストとして勤務。著書は『中国の核戦力に日本は屈服する』(小学館)、『自滅するアメリカ帝国』(文春新書)など。
国際政治はバランス・オブ・パワー(勢力均衡)から逃れることはできない。アメリカの退潮、中国の台頭、北朝鮮の核武装──。日本の置かれた立場は確実に不利に傾いている。日本が主体的にパワー・バランスをつくり出すために、国際情勢をどう読み解けばいいのか。
第5回
プーチンは17~19世紀の勢力拡大外交を展開している
──メドベージェフ首相がまた北方領土を訪問し、「ここはロシアの領土だ。一寸たりとも日本に渡さない」と断言しました。
この問題は、ビッグ・ピクチャー(大きな視野)から分析するのがふさわしい。 「メドベージェフ首相とプーチン大統領と、どっちが反日的か」という小さな問題を議論しても意味がないのです。
20年前、アメリカの外交論壇では、「冷戦後の国際構造は、アメリカ中心の一極構造になるか、18~19世紀のような多極構造に戻るのか」という議論が盛んでした。「一極構造になる」と主張したのがハーバード大のジョセフ・ナイや『歴史の終わり』のフランシス・フクヤマ、元国務長官のオルブライトやライス等です。米国務省、国防総省も「一極主義」の立場を採りました。
これに対して 「国際構造の多極化は不可避である。21世紀の国際政治は、18~19世紀のような多極構造下のバランス・オブ・パワー外交に戻る」 と主張したのが、キッシンジャー元国務長官、『文明の衝突』のハンティントン、優秀な国際政治理論家のケネス・ウォルツ(カリフォルニア大)、そして「ソ連封じ込め戦略」と「マーシャル・プラン」を考案した戦略家のジョージ・ケナン等です。彼らは、「アメリカだけが世界を支配する一極構造は無理だ」と明言していました。