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《本記事のポイント》

  • 残された家族に深い爪痕を残すイスラム国
  • 若者を過激思想に追いやったチェニジアの世俗教育
  • 真に天国と地獄を分けるものとは

チュニジアに住む15歳と16歳の姉妹がイスラム国に参加した。残された母オルファと妹たちは、2人がなぜその決断を下したのかという疑問に向きあうため、プロの俳優の助けを借りながら、自分たちの人生の重要な出来事を追体験していく。その過程で、家族の複雑な歴史が徐々に浮かびあがってくる。

母オルファ本人が演じるには精神的負担が大きい場面では、有名女優ヘンド・サブリがオルファ役を務め、国を捨てた娘たちに苦悩する母を演じた。監督はチュニジアのカウテール・ベン・ハニア。2023年・カンヌ国際映画祭 最優秀ドキュメンタリー賞受賞。2024年・第96回アカデミー賞にて長編ドキュメンタリー賞にノミネート。

残された家族に深い爪痕を残すイスラム国

この映画では、約10年前に世界に衝撃を与えた過激派組織イスラム国とは何だったのかという問題が、残された家族の視点から掘り下げられている。

チェニジアに住む思春期の姉妹が、厳格な戒律を重んじ、神の理想実現することを掲げた聖戦に魅力を感じたのはなぜなのか。映画では、一時期パンクロックにはまり込み、母親から激しく折檻をされた娘が、180度真逆に走り、へジャブに強い愛着を感じるようになり、"厳格な戒律主義"を振りかざし始める。そして母親を自らの支配のもとに置くことに成功するという"復讐"のプロセスが丹念に再現されている。

しかし、イスラム原理主義への傾倒はとどまるところを知らず、ついには4人姉妹のうちの長女と次女の2人がイスラム国に参加するところまで行き着いてしまった。

欧米も含めてイスラム系の若者たちが、イスラム国に参加した背景について、大川隆法・幸福の科学総裁は著書『正義の法』の中で次のように指摘している。

『イスラム国』であっても、以前の『ニューズウィーク』等によれば、欧米諸国から、少なくとも三千五百人ぐらいの人が入り込んで、応援しているらしいのです。さらに、そのうちの二千五百人ぐらいは『イスラム国』の兵士になっており、また、三千五百人のうちの二割は女性であるということです。

あれだけテロ組織のように言われている団体であっても、世界各地から義勇軍のように人が入ってきているのであれば、『そこには、何か惹きつけるものがあるのだろう』と思うのです。

やはり、キリスト教圏の国が、イスラム教圏の国、例えば、イラクやイラン、その他、アフガニスタンなど、いろいろな国を蹂躙してきた過程において、『理理不尽だ』と感じるものがあったのは間違いないでしょう。このあたりを見落としてはならないわけです

思春期の繊細な心が、「正義とは何か」を考えるうちに原理主義組織のメンバーにまで行き着くわけだが、そこにはイスラム系の若者たちの抱える欧米文化に対する複雑な感情や、自らの誇りの拠り所となるものを求める切実な欲求が感じ取られる。

若者を過激思想に追いやったチェニジアの世俗教育

また、映画では、最も多くのイスラム国参加者を出したチェニジアの抱える政治宗教問題が浮き彫りにもされている。

チェニジアでは、2011年に24年間続いた世俗的なベンアリー政権が崩壊。厳しく制限されてきたイスラム教の活動が解禁され、イスラム国をはじめとする過激思想が洪水のように流入したという。

姉妹たちも街角で情熱的に説教するイスラム国メンバーの姿に心を動かされ、配られたヘジャブを着用することに、もの珍しさと自分の新たなアイデンティティの拠り所を見つけたようだ。

この点について、桜美林大学教授の鷹木恵子氏は次のように指摘する。

「若者が過激派組織に容易に取り込まれていく背景には、チュニジア独立以降の教育の問題点を指摘する専門家もいる。すなわち丸暗記を重視する教育が推進されるなかで、宗教教育など、特に伝統的な穏健なイスラーム教育が蔑ろにされ、宗教的知識や判断力をもたない若者たちが革命後に突然イスラーム主義思想に触れ、それに感化され取り込まれる状況がおきたと指摘する」(映画パンフレットより)

日本においても、戦後、公教育から宗教教育が追放された反動として、90年代にオウム真理教などの邪教に高学歴の若者たちが洗脳され、犯罪に加担するという問題が起きた。宗教を蔑ろにした、あまりにも世俗的な教育の反動が、過激な宗教思想による洗脳を招いたという点では、日本もチェニジアも共通の教育問題を抱えていると言えるだろう。

真に天国と地獄を分けるものとは

映画ではイスラム国に感化され、へジャブを常に着用するようになった姉妹たちが、ヘジャブを着用しない母親に対して、「地獄に堕ちるぞ」と声高に言い募る様子が再現されている。

母親が「私は清掃の仕事をしているから、へジャブを着ていたら働けないわよ」と反論すると、「働くことと地獄に行くことと、どっちが大事なのか」と母親を責め苛む長女(女優が代演)の喧嘩腰の姿が痛々しい。

これまで母親に暴力を振るわれ、母親の恋人からも性暴力を受けてきた娘たちが、イスラム国の示す戒律さえ守れば、地獄に堕ちずに済むということに一縷の救いを見出したのだろう。こうした思い込みに対して、何の反論もできなかったことが、結果的に娘たちをイスラム国への参加へと追いやってしまったのではないかという悔恨が、今も母親の苦しみの奥底にある。

しかし、へジャブを着用し、厳格な戒律を守れば必ず天国に行けるかといえば、そうとは言えないだろう。

大川隆法総裁は著書『地獄に堕ちないための言葉』の中で「悪魔の攻め道具は、貪欲であり、怒りであり、愚かさであり、自慢の心であり、疑いであり、間違った見解である」とした上で、「だから少欲知足が重要である。平静心が必要である。いつも、守護・指導霊が、天上界から地上の自分を見守っていることを信じることが大切だ」としている。心の中が、怒りや憎しみで一杯になっていたのでは、天国に入ることはやはり難しいのである。

イスラム国に参加した若き姉妹の心の軌跡や、残された家族の悲しみと後悔を描いたこの作品は、世界の人々を捉えて離さない「神の正義」の問題と、本当の意味で天国に還るための条件について、思いを巡らせるきっかけともなるだろう。

『Four Daughters フォー・ドーターズ』

【公開日】
全国公開中
【スタッフ】
監督:カウテール・ベン・ハニア
【キャスト】
出演:ハムルーニヘンド・サブリほか
【配給等】
配給:イーニッド・フィルム
【その他】
2023年製作 | 107分 | フランス・チュニジア・ドイツ・サウジアラビア合作

公式サイトhttps://enidfilms.jp/fourdaughters

【関連書籍】

正義の法

『正義の法』

大川隆法著 幸福の科学出版

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地獄に堕ちないための言葉

『地獄に堕ちないための言葉』

大川隆法著 幸福の科学出版

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