女優の新垣結衣さんが、スウェーデンの服飾大手「H&M」のアンバサダーに就任したことが、中国人ファンに衝撃を与えている。
H&Mジャパンはこのほど、2021年GWのキャンペーン「LET'S CHANGE」のアンバサダーとして、新垣さんを起用したことを発表した。
国家主導のボイコットを受けるH&M
H&Mは昨年9月、中国の新疆ウイグル自治区で生産された綿を取り扱わないことを発表した。同地域で、ウイグル族など少数民族が強制労働を強いられていることを受けた措置だ。
そして今年3月、欧米がウイグル問題で中国に制裁を科すなどしたことから、同社への不買運動がにわかに展開され始めた。
発端とされるのは、中国共産党の青年組織「共青団」がSNSで「新疆ウイグル自治区の綿をボイコットしながらもう一方では中国で金を稼ぎたい? 妄想にふけっている!」と投稿したこと。電子商取引大手アリババ傘下の通販サイトからもH&Mの製品が消え、人気俳優も同社との関係を解消。さらには国営メディアまでもが同社を批判する展開となっている。
中国人消費者の多くも、同社の製品をボイコットすることが「愛国」であるとして、その運動に参加していた。
中国人ファンも新垣さんを非難!?
一方、中国人の間で大人気の女優が、新垣さんだ。同国における日本人女優の人気ランキングのトップに長年輝き、ファンからは「妻」の愛称で親しまれてきた。
そんななかでの、H&Mの新垣さんのアンバサダー起用に、中国人ファンたちが板挟みになっている。ネット上では、「離婚する」「妻を変える」「妻であってもダメだ」「申し訳ないが、私には家族の前に国がある」といった非難の声が挙がる。
一方、「彼女は日本人であって中国人ではない」「海外のアーティストにH&Mのボイコットをお願いするのはどうかと思う」「宇宙人も中国を愛さなければならないのか?」と新垣さんを擁護する声もあった。
「"妻"か愛国か」というジレンマの中、ファンを止めてしまった中国人は少なくなさそうだ。
相当なリスクを覚悟での判断か
ボイコット運動が盛り上がるこの時期での大使就任は、勇気の要る判断だったと言える。中国市場にかなりのファンを持つ新垣さん側としても、当然、かなりの損失やリスクを覚悟したはずだ。
実際、歌手で女優のビクトリアさんや、俳優のホアン・シュエンさんなど、数人の大物アーティストがH&Mとのイメージキャラクター契約の解除を表明していた。中国では、香港の民主派を支持するツイートに「いいね!」を押しただけで、日本人有名漫画家の作品をボイコットする動きさえ起きたこともある。不買運動がどう延焼するかわからない恐怖を、アーティストも企業も感じざるを得ない状況だ。
しかし、世界の空気はかなりの早さで、中国の人権問題について敏感になり始めている。日本でもウイグルの「血の綿花」に関する認知は広がりつつある。不当な圧力に屈したり、人権弾圧に間接的に手を貸すような振る舞いは、長期的にはアーティストや企業のブランド価値を貶めることになるだろう。
日本企業の中では、まだ正義か利益かのジレンマに揺れているところも多いが、今回の新垣さんの就任は、そんな中だからこそ注目に値する。
【関連書籍】
『習近平思考の今』
幸福の科学出版 大川隆法著
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