《本記事のポイント》
- 中国メディア「三峡ダムは最善尽くした」と報道
- 三峡ダムの「変位、浸透流、変形」
- ダムの放水により、下流都市で起きる故意の洪水
中国メディア「当代廣播站」(仮訳「現代放送局」)は13日、三峡ダムが長江下流域の洪水を防ぐために「最善を尽くした」と評価した。それと同時に、ダムの下流に位置する湖北省東部の洪水については、「どうすることもできない」と指摘している。これは、事実上の「三峡ダム終焉宣言」と言えよう。
実際、湖北省東部では、広範囲にわたって農作物が浸水し、養殖産業も打撃を受けている。さすがの中国共産党も、その事実を隠し切れなくなったのではないか。直近では、黄河流域でも洪水が生じている。
習近平政権が党にとって不利な発表を止めなかったのは、党内部で「習派」と「反習派」の激しいせめぎ合いが行われている証左だろう。
三峡ダムの「変位、浸透流、変形」
周知の如く2019年来、三峡ダムが"変形"しているグーグルアースの画像が中国内外のSNS上に出回ったことで、ダムが決壊する懸念が高まっている。
仏国際放送局「ラジオ・フランス・アンテルナショナル(RFI)」の今年7月20日付記事「大洪水が相次ぎ、三峡ダムの変位変形が問題となる」によれば、中国国営メディアの新華社が三峡ダムの「変位、浸透流、変形」などを認めたという。
19日付「看中国」の記事「中国の公式メディアが認めたか? 三峡ダムの『変位、浸透流、変形』」も、次のように伝えている。
中国の洪水問題を研究している米アラバマ大学の地質学教授デビッド・シャンクマン氏は、「中国当局が三峡ダムを建設した主な理由の一つは洪水を防ぐためだったが、今回のように深刻な洪水を防御することはできなかった」という主旨を明らかにした。
また中国の地質学者である范暁氏も、三峡ダムの貯水量は今回の洪水量の9%に満たず、上流の洪水を部分的かつ一時的に防ぐことはできても、長江中・下流域の大雨による洪水を止めることはできないと主張しているのだ。
放水により、下流都市で起きる故意の洪水
こうした治水力の限界を知っているのか、共産党は三峡ダム決壊を防ぐため、ダム貯水池から放水して、長江下流の武漢市をはじめとする諸都市で故意に洪水を起こしていると言われている。
7月18日付「看中国」の記事「三峡ダムが『全力放水』国民を犠牲にしても三峡ダムを守る、最前線治水スタッフが内幕を暴露」によると、インドメディア「今日のインド(India Today)」は、ビナヤック・バット元大佐が自身の論文で提供した三峡ダムの衛星画像を掲載した。
その衛星画像によると、6月9日の時点で、三峡ダムはすべてのゲート口を開き、全力で放水していることが確認できる。他の1枚の衛星写真からは、24日朝、いくつかの主要なゲートを開けて放水したのも見える。なお、中国当局は29日になって、初めて放水の事実を公に認めたという。
他方、ドイツに住む三峡ダムの専門家・王維洛氏は、「今年の長江の洪水はすべて人為によるものだった。長江流域におけるすべての貯水池やダムの水位と流量は中国当局によって統一管理されている」と述べた。
続けて王氏は、「例えば、長江の水が(江西省北部の)ハ陽湖(ハ=番におおざと)に逆流したのは長江水利委員会の仕業だ。洪水は中国共産党が人為的にコントロールしたものであり、単なる天災ではない」と断言した。
結局、習近平政権は三峡ダムを死守するため、下流の武漢などの諸都市および長江流域を犠牲にしているのではないか。ダム決壊は、中国共産党政権の終わりを意味するからだろう。
アジア太平洋交流学会会長
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
【関連書籍】
『ザ・リバティ』2020年9月号
幸福の科学出版
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