《本記事のポイント》
- 3つの米空母打撃群がインド・太平洋に集結
- 台湾危機の雪辱を果たすため海軍力を強化してきた中国
- 「大陸国家」と「海洋国家」は兼ねられない
6月15日付「ボイス・オブ・アメリカ」は「3つの米空母打撃群のインド・太平洋集結は、中国への警告と見られる」という記事を掲載した。
それによれば、原子力空母「ルーズベルト」が、グアム島付近のフィリピン海を遊弋している。また、「ニミッツ」は米西海岸から移動し、西太平洋地域に姿を現した。さらに、「ロナルド・レーガン」も日本を離れ、フィリピン海に展開している。
3つの空母打撃群がインド・太平洋地域に集結したのは、「ポスト・新型コロナ」を見据え、中国軍の海洋進出を押さえるためだろう。
台湾危機の雪辱を果たすため海軍力を強化してきた中国
よく知られているように、1995年から96年にかけて、中国が台湾に軍事圧力をかけた。「第3次台湾海峡危機」である。
95年6月、当時の李登輝(り・とうき)総統がアメリカの母校、コーネル大学を訪問した。李氏はそこで講演し、台湾の「民主化」を強調している。その後、中国共産党は同氏を「隠れ台湾独立派」と決めつけ、台湾の対岸で波状的に軍事演習を行った。
翌96年3月、台湾で初の総統民選が行われた。現職で国民党の李氏と連戦(れん・せん)ペア、野党で民進党の彭明敏(ほう・めいびん)と謝長廷(しゃ・ちょうてい)ペアのほか、無所属ペア2組(共に国民党系)が出馬した。
選挙直前、北京政府は、李ペアの票をできるだけ減らそうと、台湾北の基隆沖と南の高雄沖へミサイルを撃ち込んだ。台湾海峡で緊張が高まった瞬間だった。
クリントン米政権は、2つの空母打撃群を台湾周辺へ急派した。空母「インディペンデンス」と「ニミッツ」である。当時、米中の軍事力格差、特に海軍力は歴然としていた。2つの空母打撃群のプレゼンス下で、総統民選は無事行われ、李ペアが54%を得票して勝利した。
北京政府は、屈辱を味わった。この「第3次台湾海峡危機」を契機に、海軍力増強を図ったのだ。
現在、中国には「遼寧」、「山東」の2隻の空母が就役(原子力空母は建造中)しているが、これではまだ米空母打撃群に対抗できない。
「大陸国家」と「海洋国家」は兼ねられない
では今後、中国がさらに海軍力を強化すれば、米海軍を凌駕できるかと言えば、そうはいかないだろう。問題は、アメリカが地政学的に言えば「海洋国家」であるのに対し、中国はあくまで「大陸国家」であることだ。
ここの判断を誤り、分を超えた軍事拡張をしたことで敗れた例は、第二次大戦前後にいくつか見られる。
大戦前、「海洋国家」である大日本帝国は、中国大陸へ進出した。確かに帝国陸軍は強かったが、決定的な勝利を得られなかった。大陸では点(都市)しか押さえられなかったからである。結局、我が国は敗戦に至った。
同じく大戦前、「大陸国家」ドイツもイギリスに対抗し制海権を得るため、Uボート(潜水艦)の製造にこだわった。しかし、ナチス・ドイツがいくら頑張っても、所詮、二流の海軍力しか持てず、やはり敗北した。
大戦後、「海洋国家」であるアメリカは、朝鮮半島で戦った。米軍が主力となる国連軍は当初、鮮やかな戦果をあげた。だが、中国人民志願軍(という名の正規軍)が参戦すると、戦闘は膠着状態に陥った。海兵隊は世界最強かもしれないが、陸軍は必ずしも強くない。
次にアメリカは、ベトナム戦争に介入する。当時のアメリカは、圧倒的な軍事力を有していた。それにもかかわらず、勝利できなかった。このように、米陸軍の戦力にはどうしても疑問符が付く。
一方の冷戦時、「大陸国家」のソ連はアメリカに対抗して、原子力潜水艦の製造を開始する。ソ連は多額の国家予算を注ぎ込んだ。「海洋国家」を目指したのだろう。しかし、最終的にアメリカに敗れた。
目下、「大陸国家」中国がアメリカに対抗して、原子力空母の建造を目指している。しかし上記の例を見ると、不得手な海の分野で、凌駕しようとしても難しいのではないか。
かつて、戦略研究家のアルフレッド・マハンが「いかなる国家も『大陸国家』と『海洋国家』を兼ねる事はできない」と喝破した。現在も、この"金言"は生きていると思われる。
中国の習近平政権は、新型コロナで経済的な大打撃を受けるなか、軍事予算だけは、前年比6.6%増とした。しかしかつてのソ連と同様に、いくら財政的に無理を重ねても、所詮、「大陸国家」は「海洋国家」を兼ねることはできないのではないか。アメリカに取って代わるという習近平主席の"夢"は、はかなく潰えるだろう。
アジア太平洋交流学会会長
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
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