ロシアの軍事パレードで登場したS400。画像は ウィキペディア より。

《本記事のポイント》

  • トルコがロシア製地対空ミサイルS400を導入し、アメリカなどは反発
  • トルコの昨年の軍事費は前年比24%増 理由の一つにクルド民族弾圧か
  • 軍拡で世界を敵に回すより、融和による平和裏の発展を

トルコが次期防空システムとしてロシア製地対空ミサイルS400の導入を決め、アメリカなどから非難の声が上がっている。

対立を深めるアメリカとロシアとは対照的に、ロシアとトルコの関係は親密さを増している。トルコがS400の導入を検討したことを受け、アメリカはその制裁として、最新鋭ステルス戦闘機F35のトルコへの売却中止を決定。その後ロシアは、F35の代わりとなる最新鋭機Su35の売却をトルコに持ちかけたと報道されている。

アメリカがトルコのS400導入に懸念を示すのは、F35などの機密情報がロシアに漏れることを恐れてのことだ。トルコはアメリカの懸念に反発している。

北太平洋条約機構(NATO)も、トルコの動きで揺れている。NATOは旧ソ連に対抗する欧米を中心にした軍事同盟で、トルコが1951年に加盟して以来、ソ連の東地中海地域への影響力拡大を防ぐ役割を担わせていた。

トルコがロシアに接近することで、NATOは長年役割を果たしてきた「防波堤」を失うことになる。

S400導入の理由はクルド民族?

そもそも、トルコはなぜ防空ミサイルや戦闘機を輸入しようとしているのか。

日本ではあまり報道されていないが、トルコ政府がテロ組織とみなす「クルド人勢力」の存在が大きな理由の一つだ。

オスマン帝国崩壊後、西洋列強が石油利権などのために一方的に引いた国境線により、民族が4つの国に分断されたクルド人は、独立を悲願としている。トルコではクルド民族が人口の5人に1人を占めているにもかかわらず、トルコ政府は「独立を企てる反乱分子」としてクルドの文化や言語などを抑圧してきた。

しかし、クルド人は各国で政党を持つなど、平和的な融和や独立を目指す人がほとんどである。国防意識が強いクルド人武装組織(YPG)は、米軍と連携してシリアのイスラム国(IS)をほぼ掃討した。一方のトルコ政府は、かねてから「YPGをシリアから一掃する」と宣言。昨年1月には、トルコ軍がシリアに越境してYPGを攻撃し、世界から非難の声が上がった。

民族弾圧ではなく融和による国家の発展を

クルド系メディア「メソポタミア放送」などは、トルコ政府がS400を導入したのは、「アメリカに続いて、クルド側に加担する国家が現れないようにするため」という牽制の意図があると報道している。

また、S400があれば、クルド人中心の政治組織「クルディスタン労働者党」の主要施設があるイラク北部のカンディル山脈を、山ごと吹き飛ばすことも可能だ、という意思表示があるとも言われている。

トルコ政府は、今年の軍事費を前年に比べて24%増加させるなど、近年軍事拡大に力を入れている。しかしアメリカとの関係悪化などによる不況が深刻化し、苦しむ国民からは政権への批判も高まっている。

軍事費増加の裏には、エルドアン大統領の焦りもあるだろう。3月に行われた統一地方選で、エルドアン氏率いる与党連合の公正発展党(AKP)が擁した候補は、首都アンカラ、大都市イスタンブール、イズミルの主要三大都市で落選した。

イスタンブールでは不正があったとして、6月に再選挙を行うも、与党候補が再び落選。影響力が弱まるエルドアン政権は、軍事に力を入れることで、保守的なトルコ国民の支持を得ようとしているという見方もある。

しかしアメリカとの関係悪化を続ける限り、トルコの未来は暗いだろう。S400の導入など一連の動きを受けて、アメリカ議会ではトルコへの経済制裁を要請する決議が提出されるなど、関係は冷え込む一方だ。

エルドアン政権は、自国民であるクルド人を攻撃して権力を取り戻そうとするのではなく、それぞれの民族を尊重した平和な国づくりを目指すべきだ。

(駒井春香)

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