6月12日の朝9時(現地時間)から、シンガポールで米朝首脳会談が予定されている。
ドナルド・トランプ米大統領が、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長に核開発を止めさせられるかが注目されている。
しかし、トランプ氏が金氏の言い分をのんで合意を結んでしまえば、以下の漫画で示す、「彼氏にギャンブルを止めさせられないまま、結婚せざるを得なくなった女性」のような悲劇となるだろう……。
【その1】「段階的」は時間稼ぎの手段
非核化を進める方法として、金氏から「段階的な非核化」というものが提案されている。これは、核・ミサイルの開発施設や材料を一挙に捨てるのではなく、時間をかけて順を追って廃棄するというものだ。
「核実験場の閉鎖」「核実験器具の破壊」「開発者の国外追放」など、段階的に非核化を進める。まさしく、ジョンが"段階的"にギャンブルを止めると言ったように……。
これで、本当に非核化が実現するのであれば問題はない。しかし、これまでの歴史を見てみると、それは甘い幻想にすぎないことが分かる。
2000年、北朝鮮の首都・平壌(ピョンヤン)で、韓国の金大中(キム・デジュン)大統領と金正日(キム・ジョンイル)総書記による初の南北首脳会談が行われた。歴史的な会談に、国際社会は「南北融和ムード」に湧いた。会談直後に米国務長官が訪朝し、金正日氏と会談。北朝鮮の非核化の見返りとして、体制の維持と経済援助を約束した。
その後、非核化が果たされなかったことは言うまでもない。
2005年に行われた6カ国協議でも、北朝鮮は非核化に合意したが、その翌年には、初の核実験を行っている。まるで、約束など初めからなかったかのようだ。
北朝鮮が守る気のない約束をするのは、恭順姿勢を見せることで、国際社会を「融和ムード」に導き、経済制裁の緩和などを引き出すため。
「さすがの北朝鮮も、国際社会の圧力に負けて非核化を受け入れた。これで、独裁国家も普通の国になるはずだ」
世界がそう安心している間に、北朝鮮は水面下で核・ミサイルの開発を進める。 段階的な非核化は、北朝鮮が次の一手を打つための時間稼ぎにすぎない。
もし、米朝会談でトランプ氏が段階的な非核化を認めれば、トラ子がジョンと結婚せざるを得なかったように、国際社会も北朝鮮を「核保有国家」として受け入れざるを得なくなるだろう。
【その2】取りかえしのつかない「見返り」に注意
(※ストーリーは途中まで「その1」と同じ。後半の異なる展開にご注目ください。)
非核化を進める別の方法として、他国が核関連施設などを査察し、短期間で機材や技術をすべて国外に運び出す、「完全な非核化」がある。
これは、2003~2004年にかけてリビアで実施された措置で、「リビア方式」と呼ばれるものだ。北朝鮮が自己申請する非核化ではなく、アメリカなどの検証を入れながら国外撤去を進めるため、水面下の核開発は「段階的な非核化」より難しい。北朝鮮としては、受け入れがたい選択肢だ。
米朝会談で、北朝鮮にリビア方式をのませられれば、アメリカの勝ちのようにも見える。
しかし、ここに落とし穴がある。
北朝鮮が"タダ"で完全な非核化を受け入れるはずはない。その見返りとして、アメリカに条件を突きつける可能性が高い。例えば、在韓米軍の縮小・撤退が考えられるが、これは、"取りかえしのつかない取引"となり得る。
米軍がいなくなった朝鮮半島で何が起こるのか。
まず考えられるのが、北朝鮮主導の南北統一国家の誕生だ。北朝鮮が韓国をのみこみ、巨大な反日国家が生まれる可能性がある。
加えて、北朝鮮との関係を密にしている中国が、南北統一国家を勢力下に置くことも考えられる。朝鮮半島が中国の巨大な軍事力を後ろ盾にすれば、誰も手出しができなくなる。段階的な非核化と同様、国際社会は強大な軍事力を有した南北統一国家の誕生を受け入れる以外ない。
結局、「段階的な非核化」も「完全な非核化」も、北朝鮮を延命させるだけ。アメリカが北朝鮮に勝つためには、「合意を結ばない」のがベストだ。トランプ氏には、金氏の融和姿勢に騙されることなく、北朝鮮からあらゆる軍事力を排除するまで、徹底して強硬姿勢を貫くことが望まれる。
【関連記事】
2018年7月号 米朝会談中止 トランプさん「決裂」はベストの選択です【編集長コラム】