人種差別と闘った「正義」の人たち──精神科医がおすすめする心を浮かせる名作映画(19)

2019.12.30

仕事や人間関係に疲れた時、気分転換になるのが映画です。

映画を選ぶ際に、動員数、人気ランキング、コメンテーターが評価する「芸術性」など、様々な基準があります。

アメリカでは、精神医学の立場から見て「沈んだ心を浮かせる薬」になる映画を選ぶカルチャーがあります。一方、いくら「名作」と評価されても、精神医学的に「心を沈ませる毒」になる映画も存在します。

本連載では、国内外で数多くの治療実績・研究実績を誇る精神科医・千田要一氏に、悩みに応じて、心を浮かせる力を持つ名作映画を処方していただきます。

世の中に、人の心を豊かにする映画が増えることを祈って、お贈りします。

今回は、人種差別と闘った人たちから学ぶ「正義」について。

◆                   ◆                   ◆

(1)「42~世界を変えた男~」(★★★★★)

まずご紹介したいのが、「42~世界を変えた男~」(2013年、アメリカ映画、128分)という、黒人初のメジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソンの伝記映画です。

第二次世界大戦後の1947年、アフリカ系アメリカ人のジャッキー(チャドウィック・ボーズマン)はメジャー球団「ブルックリン・ドジャース」と契約します。有色人種として初めてのメジャーリーガーとなったのです。

しかし当時は、トイレやレストラン、交通機関などあらゆる公共施設の使用が白人と有色人種とで分けられ、人種差別が横行していました。それは、プロ野球界も例外ではありません。

ジャッキーとそのゼネラルマネージャーであるブランチ・リッキー(ハリソン・フォード)は、一般大衆やマスコミなどから袋叩きにあいます。挙句の果てにそのチームは、ジャッキーがいるせいで、遠征先のホテルから滞在を拒否されてしまいます。

しかし、どんな理不尽な差別にあっても、ジャッキーは「自分の心をコントロール」し、プレーに集中し続けました。そうした真摯な姿にマスコミや世論は心を動かされ、ジャッキーはやがて世界をも変えていくことになるのです。

ポジティブ心理学の研究では、アリストテレス、プラトン、トマス・アクィナス、聖アウグスチヌス、旧約聖書、タルムード、孔子、仏陀、老子、武士道、コーラン、ベンジャミン・フランクリン、ウパニシャッドなど、200冊に及ぶ哲学書や宗教教典を網羅し、古今東西の宗教や哲学的な伝統の中に共通した「6つの美徳」を発見しています(マーティン・セリグマン著『世界でひとつだけの幸せ』参照)。

この6つの美徳というのが「(1)知恵と知識、(2)勇気、(3)愛情と人間性、(4)正義、(5)節度、(6)精神性と超越性」で、ジャッキーの姿は4番目の美徳である「正義」を表していると言えます。

どんな理不尽な差別を受けても感情的にならず、淡々と実績を積んでいったジャッキーの姿は、正義の実現において「公平な心」が大切なのだと教えてくれます。

歴史的な観点から見ると、人種差別が戦後も続いていたという事実に驚きます。リンカーンの「奴隷解放宣言」があったのが1863年なので、解放宣言から約80年経ってなお、アメリカでは人種差別が横行していたわけです。先の大戦でアジアの日本がアメリカと戦ったことに、「人種差別から人々を解放する意味があった」というのもうなずける話です。

(2)「インビクタス/負けざる者たち」(★★★★☆)

次にご紹介するのは、不屈の政治家、ネルソン・マンデラの実話映画です。題名の「インビクタス」(2009年、アメリカ映画、134分)という言葉は「不屈」を表すラテン語だそうです。

27年間もの間、反アパルトヘイト運動により国家反逆罪で監獄されていたネルソン・マンデラ(モーガン・フリーマン)は、釈放後の1994年、遂に南アフリカ共和国初の黒人大統領となります。

当時、彼は国民の間に「人種差別」と「経済格差」が依然残っていることを痛感し、「スポーツ」という世界共通言語で国民の意識を変えようと志します。

マンデラは、弱小だった南アフリカ代表ラグビーチームの再建を決意。チームキャプテンのフランソワ・ピナール(マット・デイモン)と何度も面会を重ね、彼を人格的に感化していきます。

その結果、なんと翌年に自国で開催されたラグビー・ワールドカップで、強豪のニュージーランド代表「オールブラックス」を決勝で打ち破り、見事、世界の頂点に立ったのでした! ちなみに、本年日本で開催されたワールドカップでも、南アフリカが優勝しており、マンデラの闘魂は彼が死してなお健在です。

人種差別を解決するために、「徳力」を使ったマンデラのリーダーシップには感服します。正義には、すべての人に幸福になって欲しいという「愛」の心がベースになければなりません。

(3)「アンナと王様」(★★★☆☆)

最後にご紹介するのが、「アンナと王様」(1999年、アメリカ映画、147分)。19世紀中頃、王家の子供たちの家庭教師としてタイ王朝に赴任したイギリス人女性の体験記を実写化した史実映画です。

夫を亡くして未亡人になったアンナ(ジョディ・フォスター)は、タイのモンクット王(チョウ・ユンファ)の依頼を受けて、一人息子のルイを連れ、王家の家庭教師としてバンコクに赴任します。

何十人もいる側室や子供たちに戸惑うアンナですが、やがて王の聡明な人柄に惹かれていきます。外国の優れた知識に学ぶべきだと考えていた王は、イギリスをはじめ諸外国の要人を招いて夜会を計画。アンナを接待係に任命し、彼女も王の期待に応えます。

しかし、当時タイの周辺国は、全てヨーロッパの植民地となり搾取されていました。例えば、インドとビルマはイギリス植民地、ベトナムはフランス植民地、フィリピンはスペイン植民地、インドネシアはオランダ植民地でした。こうしたヨーロッパの植民地支配からタイを守るため、モンクット王は奔走します。

そんな中、王の治世に不満を持つ、タイ軍のアラク将軍(ランダル・ダグ・ギム)がクーデターを起こします。果たして王は、危機的な内憂外患を乗り切ることができるのでしょうか――。

本作から、当時の欧米の植民地支配がいかにひどかったかがよく分かります。

当時のアジア諸国で、欧米の植民地にならなかった国は、タイと日本だけでした。さらに、日本だけが明治維新を成し遂げ、世界的大国に成長したのです。先の日米戦では、残念ながらアメリカに負けましたが、日本の善戦のおかげで、植民地支配で苦しんでいたアジア諸国を開放することができたのです。

アジアの同胞を解放した大東亜戦争(太平洋戦争)の「正義」を、私たち日本人は公平に評価し、自国に自信を持ちたいものです。

他には、以下のような映画がオススメです。

「しあわせの隠れ場所」(★★★★☆)

全米ナショナル・フットボール・リーグ(NFL)のマイケル・オアー選手の実話に基づいた映画。ある真冬の夜、黒人の少年マイケル・オアー(クイントン・アーロン) が薄着で凍えながら歩いている姿を見て、白人女性のリー・アン・テューイ(サンドラ・ブロック)はたまらず声をかけます。最初は憐れみから一夜の宿を貸しただけでしたが、愛に溢れた家族の暮らしに喜ぶマイケルの姿に、リー・アンは何事にも「感謝」しながら生きる幸せを学びます。リー・アンはマイケルの後見人となり、彼女の深い愛はマイケルの潜在能力を開花させていきます。愛は人種を超えるのだと分かる感動作です!

「ザ・ダイバー」(★★★★☆)

アメリカ海軍史上、アフリカ系黒人として初めて栄誉ある「マスター・ダイバー」の称号を手にした潜水士、カール・ブラシアを取り上げた実話映画。1943年、ブラシア(キューバ・グッディングJr.)は極貧の小作農民の子として生まれます。貧しい生まれでありながらも、家族の強い励ましを受け、ブラシアは村を出て海軍に入隊します。しかし、彼を待っていたのは、人種差別やいじめという厳しい現実でした。海軍に入ったはずの彼の仕事は、コックや雑用係ばかりだったのです。しかし、そうした過酷な環境下でも、ブラシアはダイバーになる夢を諦めませんでした……。

幸福感の強い人弱い人

幸福感の強い人弱い人

千田要一著

幸福の科学出版

精神科医

千田 要一

(ちだ・よういち)1972年、岩手県出身。医学博士。精神科医、心療内科医。医療法人千手会・ハッピースマイルクリニック理事長。九州大学大学院修了後、ロンドン大学研究員を経て現職。欧米の研究機関と共同研究を進め、臨床現場で多くの治癒実績を挙げる。アメリカ心身医学会学術賞、日本心身医学会池見賞など学会受賞多数。国内外での学術論文と著書は100編を超える。著書に『幸福感の強い人、弱い人』(幸福の科学出版)、『ポジティブ三世療法』(パレード)など多数。

【関連サイト】

ハッピースマイルクリニック公式サイト

http://hs-cl.com/

千田要一メールマガジン(毎週火曜日、メンタルに役立つ映画情報を配信!)

http://hs-cl.com/pc/melmaga/hsc/?width=550&height=500&inlineId=myOnPageContent&keepThis=true&TB_iframe=true

【関連書籍】

『人間幸福学のすすめ』

『人間幸福学のすすめ』

第4章 人間幸福学から導かれる心理学千田要一著 HSU人間幸福学部 編 HSU出版会

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