2024年には、いわゆる「働き方改革関連法」によって、4月から建設業や運送業などにも、時間外労働に原則年間360時間の上限が設けられました。

2024年12月号記事「働かないことを奨励する社会はどこかおかしい」では、この規制が労働力への依存度が高い「労働集約型産業」である建設業や運輸業、そして関連する業種に大きなダメージをもたらしていることを取り上げています。

それでは、「働き方改革」の現場にいる人々は何を感じているのか。その実情を伺うと、国が進めている政策と、働いている人々の意識との間にある大きなギャップが見えてきました。

番外編の第二回目は、「働き方改革で『稼ぐ自由』『成長する機会』がなくなる現実」。

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稼げるのに稼げない

「働き方改革」が導入された大きな理由として、「長時間労働の解消」により人手不足を解消することが挙げられています。

しかし、トラック運転手のAさん(70代)に、「『労働時間が長いことがストレス』という声を周りから聞くか」と尋ねたところ、「それはあまり聞かない。むしろ、賃金の問題が一番ですね」との答えが返ってきました。

「ドライバーの間では、『仕事がなくなった』『会社の経営が大変になった』ということで、受け取る賃金が、今までの半分とか、3分の1とかになったという話も聞きます。そもそも、ガソリン代の高騰でコストも上がっていますし、荷主と運送会社の価格交渉は、あっても多分『ないようなもの』でしょう。発注側は運送費から削っていくので値上げも難しい。仕事を維持するためには、その条件をのむほかないところがあります」

別の会社に勤めるトラック運転手のBさん(60代)は、「多少、労働時間や仕事の内容がきつくても、お金をある程度稼ぎたいという人が、稼げなくなった」と指摘します。

「運送業には、『今は稼ぎたい』『これだけの収入が必要だから』といって入ってくる方も多かったんです。若い人だけではなく、50代くらいまでそういう方はいらっしゃいますね。だから、人の入れ替わりは多くても、稼げるということがモチベーションになっていたんです」

しかし、労働時間が規制された場合、仕事を効率化するといっても、道路の制限速度が決まっているので、運転手一人でできる仕事の量は決まってしまう。実際、一カ月の労働時間の上限に達したため、「体力があってお金を稼ぎたい人が、日数を合わせるために休まないといけなくなる」という事態も発生しているという。