《本記事のポイント》

  • リベラルメディアの世論調査でさえ7割の国民がバイデン氏を批判
  • マッカーシー共和党下院議長は難題を乗り切り歳出削減法案を可決
  • 激戦区の有権者の多くが政府支出削減のない債務上限の引き上げに反対

バイデン米大統領は25日午前6時に、ツイッターに動画を投票して、出馬を表明。3分足らずのビデオでは、21年1月6日に連邦議会議事堂が襲撃された映像が流れ、「MAGA Extremist(過激派)がアメリカの自由の根幹を奪おうとしている」と訴えた。

MAGAとはトランプ前大統領の「Make America Great Again(米国を再び偉大に)」の頭文字をとった言葉である。ビデオは、前大統領とその支持者の不気味さを意図的に演出したものとなっている。

リベラルメディアの世論調査でさえ7割の国民がバイデン氏を批判

バイデン氏は中間選挙でも、トランプ氏と共和党のトランプ支持派について「半ばファシズムだ」とし、「民主主義の危機」を訴え、予想外の支持を得たので、味を占めたのかもしれない。

だが動画では、驚くべきことに、バイデン政権の一期目の成果は語られなかった上に、家計をむしばむ40年ぶりの高インフレ、不況の到来への懸念、ウクライナ戦争の行方、中国の脅威、犯罪率の激化と国境の危機などについての言及もなかった。

国民の懸念する問題について、大統領職の資質を証明するリーダーシップが示されなかった形となった。コロナ禍で行われた2020年の米大統領選の「巣ごもりキャンペーン」が今回も通用すると考えているのかもしれないが、国民を侮るのは危険だ。

リベラル系のCBSの世論調査によると、72%の回答者は、バイデン氏のもとでアメリカは「制御不能になっている」と述べ、そのうち71%の回答者がバイデン氏のリーダーシップを批判。85%はインフレで崩壊しつつあるバイデン氏の経済政策を批判している。

マッカーシー共和党下院議長は難題を乗り切り歳出削減法案を可決

この出馬表明の印象を吹き消したのが、歳出削減法案の可決である。

バイデン氏がビデオで出馬表明をした翌26日、米国下院議会は連邦債務上限を最大1兆5000億ドル引き上げ、連邦政府の支出を4兆5000億ドル削減する法案「Limit, Save, Grow Act(政府の支出を制限し、納税者のお金を貯め、経済を成長させる法)」を賛成217、反対215で可決。

下院の共和党議員は222人で、16人は債務上限引き上げに、賛成する見込みがないとされる中で、マッカーシー共和党下院議長は、4人が反対に回るとともに1人が棄権という形でこの難題を乗り切った。

マッカーシー氏らは法案を発表した19日、「アメリカ国民は、急増する国家債務に対処するための真剣で賢明な行動を期待し、それに値します。残念ながら、バイデン大統領は、2年間で6兆ドルの債務負担を増やし、家族および中小企業に打撃を与え続ける歴史的なインフレを引き起こしたにもかかわらず、いかなる行動も取らない。大統領は、責任ある債務上限引き上げの交渉には全く関心がないようだ。……バイデン大統領の無謀な支出は、記録的なインフレを生み出し、中国への依存度を高め、社会保障とメディケアを弱体化させました。私たちは今、記録的な支出に対処しなければなりません。そうしなければ、アメリカは弱体化し、家計はより悪くなってしまうでしょう」と訴えた。

法案は、連邦政府の2024会計年度(23年10月~24年9月)の社会保障や軍事関係支出などを除く裁量的支出を2022会計年度の水準に戻し、その伸び率を今後10年間、毎年1%に縮小すること求めている。

これによって22 年8月に成立したインフレ抑制法に盛り込まれたクリーンエネルギー生産設備などに対する税額控除支援策を撤廃する。これは民主党系への補助金政策の面が強かったものだ (関連記事「アメリカの日本化が始まった インフレ抑制法は"インフレ加速法"(前編)」)。

また法廷で争われている学生ローン支払い免除・停止措置を中止することも盛り込んだ。(関連記事「アメリカの日本化が始まった 学生ローン免除でインフレ加速 (後編)」)。

またインフレ抑制法に盛り込まれた内国歳入庁の8万7000人のスタッフへの予算撤廃や、低所得世帯が福祉を受給する際に就労を義務付けることなども盛り込まれた。

◎激戦区の有権者の多くが政府支出削減のない債務上限の引き上げに反対

この法案自体は、民主党が多数派を占める上院で可決される可能性はないが、政治的な意味合いは大きいとみられている。

4月11日に行われたアメリカン・ビューポイントによる87の激戦区の世論調査では、有権者の37%が政府支出を削減せずに債務上限を引き上げるという政権の立場を支持し、50%が債務上限引き上げに伴う政府支出削減を望んでいることが判明している。つまり債務上限引き上げには、支出削減をすべきだと考えている有権者が多数派なのだ。

77%は、使われていないコロナ救済金の回収を望み、低所得世帯の成人の就労要件の強化については賛成が62%、反対27%となっている。

非国防費の支出をインフレ前の水準まで削減し、将来の支出増を抑えることについては、賛成53%に対して反対は35%という結果も出た。

今回下院で成立した「Limit, Save, Grow Act」は、激戦区の有権者に訴える内容を含んでいるのだ。バイデン氏は、共和党とは交渉の余地はなく、一切の妥協なしに「債務の上限の引き上げ」をすべきであるという立場を貫くが、それが本当に吉と出るのかは疑わしい。

また、民主党のジョー・マンチン上院議員も、「提案されたすべてに賛成するわけではないが、デフォルトを防ぐために議会を通過する唯一の法案であることに変わりはなく、無視することはできない」と述べている。

もしバイデン氏が上下両院の共和党と妥協案を出さないなら、バイデン氏は金融危機を引き起こしかねず、その際、責任逃れはできないだろう。

血税を政府の借金返済に充ててなぜ平気なのか

「金利が1%上昇するだけで、国債の利払いも上昇します。現在の金利の上昇率のもとでは、政府の財政的支払い能力が危機に陥る日も近い。そこに今後2年間のバイデン政権の課題が表れてくるでしょう」

トランプ前政権の経済顧問を務めたアーサー・B. ラッファー博士が弊誌の取材に答えて、こう述べたように、これが中間選挙を終えたバイデン氏の中心的課題である。

このままいけば利払い費は2029年には1兆ドルを超え、国防費さえ上回る。

政府の放漫財政のツケで、国民の血税が政府の借金の利払いに充てられ、歳出の5分の1を借金の返済に充てる日本に近づいていく。

非効率で成長志向ではない日本のようになってしまうと、「アメリカの日本化」が水面下で危惧されているのはこのためだ。

そもそも、インフレ時には財政支出を増やすのではなく、減らさなければならない。それにもかかわらず、政府支出を増やし、価値の裏付けのない贋金づくりに熱心なバイデン氏。そろそろ国民のインフレ懸念に、正しく向き合うべきではないだろうか。

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【関連記事】

2023年1月29日付本欄 債務上限をめぐる問題は歴史的な対決になる 2年間で約4兆ドルを使いこんだバイデン政権は素面(しらふ)になるのか

https://the-liberty.com/article/20299/

2023年2月号 大恐慌の足音が聞こえる

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2023年1月号 米中間選挙の真相とアメリカ復権への道

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2022年10月号 「ポスト・バイデン」を考える 中間選挙間近のアメリカ

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2022年8月号 バイデン大統領は大恐慌を招くのか

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2022年7月28日付本欄 バイデン大統領は「大恐慌」を招くのか? 「ザ・リバティ」の特集を読み解く番組を「ザ・ファクト」が制作【ザ・ファクト×The Liberty】

https://the-liberty.com/article/19750/