《本記事のポイント》

  • 自由議員連盟が均衡財政を目指す
  • 政府が「減量」するきっかけになる債務上限問題
  • ハイパーインフレの未来もある

「政府は酔っ払いの船乗りのごとくお金を使う。船乗りは翌日に素面になるが、政府は素面にならない」

かつてレーガン米大統領は、政府をこう表現した。

米政府の債務が1月19日、法定上限である31兆4000億ドル(約4100兆円)に達した。

2011年の政府債務は14.8兆ドル(約1900兆円)であったので、この10年余りで2倍まで膨れ上がったのだ。「政府は酔っ払いの船乗りのごとくだ」としたレーガン氏の表現がいかに適切だったかを思い知らされる。

財務省が特別措置で年央までに資金繰りを支えている間、つまりこの6カ月間で、米議会において、「債務上限の引き上げ」が行われるかどうかなどについて、熾烈な議論が行われることになる。もし合意が見られなければ、デフォルト(債務不履行)や政府閉鎖もあり得る。

これから行われる対決は歴史的なものとなりそうだ。日本にとっても参考になる議論が多く出されることになるだろう。

自由議員連盟が均衡財政を目指す

折しも中間選挙で下院は共和党が多数派となった。下院はもともと「財布」を握っている上、ケビン・マッカーシー下院議長の承認でノーを突きつけて存在感を増したトランプ支持派のフリーダムコーカス(自由議員連盟)の半数は均衡財政を目指す強者がそろっている。

民主党やリベラルからは「保守強硬派」とレッテルを貼られているが、彼らは生粋の「小さな政府」論者である。人々が汗水たらして稼いで納めた税金を、政府が湯水のごとく使うのに反対しているだけで、「皆の衆の声」を反映できなくなったエスタブリッシュメントの政治家と比べて良識がある。

マッカーシー氏は彼らの合意がなければ、多数派を維持できない。このため今後の議会運営では、良識派の彼らの声が反映されることになる。

すでに彼らはマッカーシー氏に、昨年末に議会を通った1.7兆ドルの「包括的(オムニバス)法案」のような形で、法案を通さないという条件も飲ませている。

政府が「減量」するきっかけになる債務上限問題

バイデン大統領は、共和党とは交渉の余地はなく、一切の妥協なしに「債務の上限の引き上げ」をすべきであるとしている。再分配による「大きな政府」を政策として掲げる民主党にとって、歳出にメスを入れることは、支持層を失うことにつながる。

民主党議員の中には「債務の上限」という制度そのものをなくすべきだと主張する者さえいる。

たった2年で4兆ドルも使いこんで、貨幣価値を下げた結果、40年ぶりの高インフレを招き国民の所得を少なくとも4000ドルも低下させたにもかかわらず、反省の色は見られない。

のみならずアメリカの利上げに合わせて、各国は通貨防衛のために利上げをせざるを得ず、インフレはアメリカから輸出される。債務状況の悪い貧困国は財政破綻に追い込まれつつあり、アメリカの膨大な政府支出の悪影響を各国が受けている状況にある。

アメリカでは1917年以前は国債発行の度に議会の承認が必要だったが、それがあまりに煩瑣であると考えられ、債務上限を管理するモデルに移行し、これが100年続いている。

債務の上限が法定で定められているのは、悪いことではない。これをきっかけに政府が素面になり「減量」のチャンスが訪れるからである。

過去の歴史を踏まえ、サプライサイド経済学派のスティーブン・ムーア氏は、FOXニュースのオピニオン記事で、こう述べている。

「1996年、共和党下院議会と民主党大統領は、債務上限に関する投票の前夜に歴史的な予算協定に署名した。その3年後には3年連続で財政が均衡した。過去50年間で赤字を出さなかったのはこの時だけだった。また共和党下院議会は2011年、債務上限に関する投票を梃子に、自動的な歳出削減を含む予算管理法をオバマ大統領に承認させ、財政赤字を大幅に削減させた」

なぜデフォルトしないのか

もちろんアメリカ国債を各国政府が購入していることを考えると、債務不履行の問題は軽視できない。

この点についてムーア氏は、バイデン氏が認めない限り、デフォルトにはならないとしてこう述べる。

「民主党が譲らず、債務上限が期限内に引き上げられなかったとしても、債務不履行には至らない。議会がこれ以上お金を借りるのを即座に禁じることになるだけである。議会は財務省に入ってくる税収は使えるが、それ以上は1円たりとも使えない。共和党は、国債の金利の支払いと社会保障にかかわる支払いが滞りなく行われるよう、緊急時対応策に取り組んでいる。教育省や海外支援、エネルギー関連などの優先順位の低いプログラムは取引が成立するまで、停止されることになる。デフォルトは、バイデン政権の財務省が認めない限りは起きないのである」

ハイパーインフレの未来もある

一方で、歳出削減の努力を怠った場合どうなるのか。この点について、トランプ政権で経済顧問を務めたケビン・ハセット氏はナショナル・レビュー紙で、ハイパーインフレに見舞われることもあるとして、こう説いた。

「私たちがすぐに財政政策の軌道を変えなければ、ワイマール共和国のドイツのような通貨崩壊に見舞われることは避けられなくなる。1919年当時、ドイツのハイパーインフレを招いた当時の債務総額は、GDP(国内総生産)のわずか50%だったのだ」

「このまま債務を放置すれば、政府債務は増え続け、2052年末に、GDPの185% (約137兆ドル)になる。名目金利が5%であれば、GDPの9.25%を金利の支払いに充てることになる」

インフレ時には財政支出を増やすのではなく、減らさなければならない。価値の裏付けのない、贋金づくりに熱心になれば、それがインフレを助長し、将来的にはハイパーインフレをも招く可能性があるからだ。

政府がつくり出した借金の返済という極めて非生産的な部門に、国民の税金が投入されるほど、非倫理的で、かつ経済活動を滞らせ低成長をもたらすものはないだろう。その段階では、さらなる増税が予測されるが、これがきっかけとなって経済は「死のスパイラル」に陥るだろう。

財政余力のあるうちに財政改革をしなければ、日本のようにインフレになっても金利を上げるなどの金融政策が採れなくなる。アメリカは財政規律を取り戻すことができるのか。この問題は、アメリカ文明の衰退が既定路線になるかどうかの分岐点となりそうだ。

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