《本記事のポイント》

  • オバマ政権時代のエコノミストも学生ローン免除を批判
  • 学費の高騰と不公平さを助長する政策
  • 増え続ける政府債務とアメリカの日本化

インフレ抑制法は「インフレ加速法」──。前編では、40%にも上るアメリカ国民がそう考え、これ以上の政府支出を懸念していることに触れた。

それにもかかわらずバイデン米政権は8月24日、数千万人のアメリカ人の学生ローンを免除する施策を打ち出した。

年収12万5000ドル(約1700万円)未満の場合は1万ドル(約136万円)の返済が、低所得世帯を対象とした補助金「ペル・グラント」の受給者は2万ドル(約270万円)の返済が免除されることになる。

対象者4500万人のうち、2000万人が免除となる見通しで、これでは選挙対策だと批判されても仕方がない。

そもそも大統領の権限では、「学生ローンを一時停止したり延期したりできても、免除はできない」と、ナンシー・ペロシ下院議長は過去に発言していたことがある。それにもかかわらず、今はバイデン氏に迎合し沈黙している。もし行政権の拡大を前例として認めれば、アメリカの統治機構は崩壊に向かうだろう。

オバマ政権時代のエコノミストも学生ローン免除を批判

では経済面や人間の道徳面に与える影響はどうか。アメリカの学費が高騰しているのはよく知られているが、これに「免除」という形で対処しようとすることは、多くの副作用を伴う。

1つ目は、インフレ高進を招くというものだ。オバマ政権時のアメリカ合衆国国家経済会議議長のジェーソン・ファーマン氏でさえ、「燃え盛っているインフレの火に5000億ドルものガソリンを注ぐのは、向こう見ずな行為である」とツイートで批判した。

バイデン政権は発足後19カ月で、4兆ドルもの支出を行ってきた。約5000億ドルが追加されれば、さらに貨幣量が増え、FRBの利上げの効果を相殺するものとなる。

学費の高騰と不公平さを助長

しかもこの政策は、大学側に「授業料を上げてもよい」というインセンティブ(誘因)を与えてしまう。アメリカの大学の学費は2000年から178%も上昇しているが、このような措置は最終的に大学の学費上昇を加速させることがあっても歯止めにはならない。

しかも学生側は、「ローンは借りても返さなくてよい」とさえ考えるようになる。仕事をかけもってでもローンの返済義務を果たしてきた人々に対して不公平である上、学生時代に身に着けるべき資本主義の精神を損なう。

のみならず、アメリカ人の60%を占める大卒資格のない人々への税負担を増やす。要するにロースクールを出て、夫婦で25万ドルの所得のある人々の学生ローンが、高卒のブルーワーカーの税負担によって、免除されることになるのだ。これがいかに逆進的な制度であるかということにホワイト・ハウスは気づくべきである。

「責任ある連邦政府の予算のための委員会(The Committee for a Responsible Federal Budget)」の調べでは、今後10年間に納税者の負担は約5000億ドル(約69兆円)ほど、増えるという。

増え続ける政府債務とアメリカの日本化

では、このように政府支出を続けるとどのような未来がやってくるのか?

議会予算局(CBO)の長期的な連邦債務の見積もりでは、アメリカでは、1957年から2008年までは、連邦レベル政府の負債が、国内総生産(GDP)の47.9%を超えることはなかった。

しかし2008年のリーマンショックで、連邦政府の政府債務の対GDP比は2007年の35%から2010年に60%に跳ね上がった。その後、コロナ・パンデミックがやってきて政府債務の対GDP比は100%超に上昇。CBOは、次の30年間で、政府債務の対GDP比は185%を超えると予測する。

純利子の返済は、現在の3990億ドルから、毎年11.6%で伸び続け、10年後の2032年には、1兆1940億ドルにまで膨らむという。その他、増え続ける医療費などの義務的経費も含めると、連邦債務はコントロール不可能なレベルに達していく。

日本は、債務の償還費(元本返済)に16兆円、利払いに8兆円と、全部で24兆円を支出し、これは歳出の22.6%を占めるまでになった。つまり歳出の5分の1を借金の返済に充てなければならないという、非常に非効率で成長志向ではない経済となっている。それと同じことがアメリカで起きるということだ。

多くの人々が「アメリカの日本化」をささやきはじめたのはこのせいだ。

洋の東西を問わず、政府はこれを増税で補おうとするが、それは浪費グセがついた政府には焼け石に水だろう。政府は自分で稼いでもいないのに、国民が生産した富をばら撒く傾向があるからだ。

政府支出の抑制と、無駄な支出を削減して赤字を減らすこと。これが喫緊の課題である。ばら撒いた貨幣量を減らすことができれば、金利も下がり、債務の返済利子も下がる。同時に規制緩和、減税等で「経済成長」を促すことも不可欠だ。それによって経済の好循環が生まれる。

トランプ政権下で行われた大型減税や規制緩和で、米経済は2018年には年率2.9%、2019年には2.3%のGDP(国内総生産)成長率を達成した。インフレは1%台で、多くのアメリカ人が賃金上昇の恩恵を受けた。

バイデン政権の経済政策は、連邦政府債務を減らす施策が欠如している上に、経済成長に資する要素が見られず、政府債務と将来の返済利子を増やす悪循環を生みだす。

これはラッファー博士が10月号のリバティのインタビューで述べている「長期的衰退」であり、アメリカの日本化だ。

アメリカは岐路に立つからこそ、ラッファー博士が述べているように、サプライサイド改革に舵を切ることが求められているのである。

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