《本記事のポイント》

  • EUの言い分 「移民を兵器化してハイブリッド攻撃を仕掛けている」
  • 現実味を増してきたロシアによるウクライナ侵攻シナリオ
  • ロシアの狙いは、NATO軍の撤退とミンスク合意の履行

ベラルーシ西部のポーランドやリトアニアなどとの国境付近にイラクなどからの移民が押し寄せ、緊張が高まっている。

米国、欧州連合(EU)、英国、カナダは2日、ベラルーシが国境地帯に意図的に移民を送り込んでいるとして、ベラルーシに対する追加制裁を発表した。

中東などから移民がベラルーシに来続けているため、今後数週間は、ベラルーシとの国境における緊張は高まると見られている。

また、ここにきてロシアの動きも活発化している。米紙ワシントン・ポストは5日までに、米情報機関からの報告として、ロシアがウクライナ国境に兵力を集結し、来年初めにも最大17万5000人規模の侵攻作戦を計画していると伝えた。バイデン米大統領は3日、ロシアによる侵攻を阻止するために強い対抗措置を取ると表明し、7日にもロシアのウラジミール・プーチン大統領にオンライン会談で、懸念とウクライナ支援の意志を改めて伝えるとしている。

急速に深刻化しつつある事態の背景について、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)で安全保障学や国際政治を教える河田成治アソシエイト・プロフェッサーに聞いた。

元航空自衛官

河田 成治

河田 成治
プロフィール
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。

──ベラルーシ西部の、ポーランドと接する国境付近に移民が押し寄せ、ポーランド側は入国を拒否。このため移民が立ち往生しています。

河田(以下、河): 2015年の難民危機以降、EUでは難民・移民政策の見直し協議が行われてきましたが、たいへん難航したこともあり、非常にセンシティブな政治的課題となってきました。

それにもかかわらず6月以降、イラクやアフガニスタンなど中東からEUへの入国者が急増しています。その多くはイラク国内に暮らすシリア難民やイラクの国内避難民です。

彼らは、ビザの発給から飛行機、EU越境後の移動も含めて全部で12,000米ドル(約140万円)ぐらいを、不法越境の斡旋をする旅行業者に支払うと、イラクから連れてきてもらえるそうです。将来の見えないイラクでの生活からEUの生活に未来を託し、親族などから借金をして渡航してきます。

この不法斡旋の旅行業者が集めた移民希望者を、ベラルーシ政府が集め、軍がポーランドやラトビア、リトアニアなどの国境付近に輸送しています。

リトアニアへの入国者は、8月初旬時点で4000人以上とされ、リトアニアはすぐに緊急事態を宣言し、入国者の扱いを厳格化しました。

またポーランドやハンガリーなどは移民の受け入れに反対し、国境にフェンスを設置するなど、遮断する手段を強化しています。

EU理事会は、これまで科してきたベラルーシへの制裁強化を決定し、EUへの入域禁止や資産凍結の制裁対象を拡大したり、EU域内への違法移民を促している個人および団体が制裁対象に加えたりするなどの措置をとっています。

ベラルーシ側も黙ってはいません。ルカシェンコ大統領はロシアからベラルーシを経由してEUに天然ガスを供給するパイプラインを停止させる可能性まで示唆しています。

EUの言い分 「移民を兵器化してハイブリッド攻撃を仕掛けている」

──ベラルーシは移民受け入れを認めないEU側への批判を強めているようです。

河: 移民・難民という難しい問題を持ち出して、圧力をかけるやり方は、ベラルーシのルカシェンコ大統領によって仕組まれた「ハイブリッド攻撃」だと、EU側は批判しています。

ハイブリッド戦争とは、特殊部隊や民兵、サイバー攻撃や宣伝工作、情報操作、経済的圧力など、軍事と非軍事を組み合わせた戦争のことを言います。

その一環としてベラルーシは、「移民を兵器化している」と、EU側は非難しているのです。

かわいそうなのは、難民の方々です。冬が近づく現在、国境地帯に作られたキャンプでは生活が過酷で、命を落とす人も出はじめています。

ポーランド外務副大臣によると、冬季には夜はマイナス20℃からマイナス30℃近くにまで下がるということですから、今後も入国を拒否された人々が立ち往生し命を落とす人々が増えることが懸念されます。

現実味を増してきたロシアによるウクライナ侵攻シナリオ

──ベラルーシとロシアが接近しているように見えます。

河: はい。EUがベラルーシの問題に気をとられている中、ロシアはウクライナとの国境地帯に再び部隊を集結させています。

ウクライナ国防情報局のブダノフ局長は、ロシア軍が9万2千人、計40個大隊戦術グループ(BTG)で、来年の1月から2月に掛けて侵攻作戦を行う準備を進めていると見ています。

ブダノフ局長が提供した地図を見ると、ロシア軍はベラルーシにも部隊を展開させているのが分かります(下図)。

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画像: Military Times, Russia preparing to attack Ukraine by late January: Ukraine defense intelligence agency chief, Nov 21より。

ベラルーシを支援するロシアは、ルカシェンコ政権と連携し、ウクライナ情勢の優位な展開を狙っているのではないかと見られます。

ロシアとベラルーシの関係は、「同盟以上、かつてのソ連邦未満」の間柄です。ベラルーシはかつてソ連邦の一員でした。現在でも極めて親密な関係にありますが、軍事的にはベラルーシはロシアに一定の距離を置いてきました。というのもロシアから見て欧州(NATO)正面に位置するベラルーシは、万一、NATOとロシアとの間に戦争が起きた場合、ロシアの盾になって戦争に巻き込まれることになります。それを嫌ったベラルーシは、「中立国」という立場において、国内にロシア軍の大規模な駐留を認めて来なかったようです。

しかし今回、上記の地図のとおり、ベラルーシ国内にもロシアの部隊を展開させ、ウクライナの北側の国境付近から圧力をかけているところを見ると、11月にロシアと提携された軍事協定で、新たな軍事協力関係が結ばれた可能性があります。

ベラルーシ国内では強権派とされるルカシェンコ大統領への反対運動も起きていますので、政権基盤を守るためにも、ルカシェンコはロシアへの依存を強めなければならなかったのかもしれません。

ロシアの狙いは、NATO軍のウクライナからの撤退とミンスク合意の履行

──ウクライナが見るように、ロシアによる軍事侵攻の可能性は高いのでしょうか?

河: ロシアの軍事的圧力は、脅しの面が強いです。ロシアにとって、ウクライナのNATO(北大西洋条約機構)の加盟は、超えてはならない一線です。ウクライナがNATOに加わるのは、韓国が北朝鮮に併合され、日本の防衛ラインが38度線から対馬海峡まで南下してくるのと同じ恐怖心をロシアに与えます。

NATOは相互防衛条約なので、一つの加盟国が戦争になれば、他の加盟国も参戦しなければならないリスクがあります。ですから、戦争になるような国をメンバーにしたくないという気持ちがあります。

そこでロシアは「紛争になりそうだ」と見せかけることで、ウクライナがNATOに加盟するのを阻止している面があります。またNATO軍がすでにウクライナに展開していますから、その軍事協力も止めてもらいたいと考えているでしょう。

同時に、ロシアが求めているのは、ウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州の自治権です。

両州は、ロシア語を母語とするロシア系住民が多数を占めており、ロシア側の邦人保護の名目は十分成り立ちます。ところがウクライナは、この2つの州の自治に向けて話し合いを開始する前提として2014年に、ロシア、ウクライナ、フランス、ドイツとの間で結ばれた「ミンスク合意」の履行を拒否しています。

このためロシアがドネツク州とルガンスク州の自治権獲得を求めて、軍事介入する可能性もないとは言い切れない状況です。

ロシアを敵側に追いやれば中国を利するだけ

この問題は、ウクライナのゼレンスキー大統領が、反ロシア・親欧米で、欧米がウクライナを助けロシアを圧迫する戦略を取っていることから起きています。

しかし欧米諸国の対応は、ゼレンスキー氏に振り回され、あまりに戦略眼がありません。

ロシアの立場も認めながら、ウクライナから欧米が影響力を減らしていかなければ、ロシアを敵側に追いやり、米国を中心とした西側と、中国、ロシア、イスラム教国を巻き込んだ、二つのブロックの冷戦構造が完成します。

かつてのクリミア危機がロシアを欧米から孤立させたターニングポイントになった歴史を振り返れば、今後、万一ウクライナ東部でロシアの介入戦争が勃発すれば、欧米とロシアとの関係は決定的に決裂する恐れがあるだけでなく、米国のようやく始まったアジア・シフトがまたもや失敗しかねません。

漁夫の利を得るのは中国です。このままでは中国にとって極めて都合のよい状況が生まれてしまうでしょう。

世界は再び冷戦時代の分断に陥るかどうかの瀬戸際にあります。欧米各国はあまりウクライナに肩入れしてロシアとの対立関係を煽るべきではありません。また日本は、ロシアを敵側に追いやらないよう、いまこそリーダーシップを発揮しなければなりません。

HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回の国際政治や軍事学などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ)。

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