《本記事のポイント》

  • 「機会は全ての人に同じ分量、配分されなければならない」
  • 中国はアイデンティティ政治を水面下で推進
  • 「言論の自由」を信じる大学生は53%しかいない

アメリカで流行っている一つのイデオロギーがある。「批判的人種理論(Critical Race Theory)」や「アイデンティティ政治(Identity Politics)」と呼ばれるものだ。前者が、現行の法制度は白人の利益のためにつくられた人種主義であるとする政治理論。後者は社会的不公正の犠牲になっている特定の集団の利益を代弁して行う政治活動を意味する。要するに、「人種主義」に重点を置いたイデオロギーだ。

一見、聞こえはよいが大変危険な理論だ。なぜならこれは「階級ではなく人種に応用されたマルクス主義」だからである。そう述べたのは、本誌4月号記事「カマラ・ハリスの正体」で取材した作家兼映画監督で、アメリカの左翼運動に造詣が深いトレバー・ロードン氏だ。

伝統的な共産主義は「労働者が立ち上がり、資本家を取り除く」という理論だが、この新しい理論は、「抑圧された有色人種が立ち上がって白人の資本主義を破壊する」という革命理論になっている。

ロードン氏によると、アメリカでは、「階級」よりも「人種」が国を分断する要因となっており、そこにアメリカの共産主義者は目を付けたのだという。江戸時代の身分制度を記憶している日本や、今も階級意識が残るイギリスとは異なり、アメリカは奴隷制度という問題はあったにしても、神の子としての平等を求めて建国された。そこで唯一分断要因となっているのは「人種」しかないのである。

BLM(ブラック・ライブズ・マター)運動は共産主義理論を奉じるが、ソ連から革命理論を輸入するのは「白人」だからという理由で拒んだ。その代わりに、有色人種の中国から、毛沢東主義を輸入しているという。ただ「社会的に有害」とされた人々を取り除く理論であることに、何ら変わりはない。

アメリカで暴動を起こしているBLMが、毛沢東の系譜を引く理論を信じているということを聞いて、納得がいく読者も多いのではないだろうか。

彼らは、毛沢東による革命で約4000万人が命を落とした悲劇に目を瞑り、「社会主義革命が実現すれば、抑圧されたマイノリティーは解放される」と信じ込んでいる。そこに中国の洗脳が入っているのだが、彼らは気づかないふりをして、このイデオロギーで、白人を排斥し始めた。しかも暴力に訴えることも辞さなくなってきている。文字通り、アメリカ版マルクス主義革命が進行中なのだ。

「機会は全ての人に同じ分量、配分されなければならない」

では白人のつくった資本主義社会を倒せばユートピアがやってくるのか。彼らの求める平等は、機会の平等ではなく、結果平等であるのは自明なのだが、そこに至るために、「全ての人に同じだけのチャンスが配分されなければいけない」と要求する。いわゆる「機会の平等」(equal opportunity)は「全ての人に同じく機会は開かれているべきだ」という考えであるのに対し、「平等なチャンスが必ず同じ分量、配分されるべきだ」(sameness of opportunity)と要求するのである。

一方、アメリカ独立宣言では「全ての人間は平等に創られ、創造主によって、生存、自由、そして幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられている」と謳っている。それは「神の前の平等」の概念であり、神の子、仏の子としての、一人ひとりのかけがえのなさに基礎を置く、人間の「自由」を認めるデモクラシーの理念となった。それは誰かが設計したものではないけれども、無限の繁栄をもたらし、実際にアメリカの繁栄を生み出す力ともなった。

アイデンティティ政治の信奉者はこの独立宣言を持ち出してはいるが、その理解は、正当な考え方と著しく異なる。もっと言えば、独立宣言で謳われた「神の前の平等」を転倒させるのが目的なのだろう。

もちろん奨学金や職業訓練制度を充実させることで、どのような生まれからでも、成功者への道を開く努力が大事であるのは言うまでもない。だが、どのような立場にある者に対しても、政府が平等に機会を提供しなければならないとなったら、政府は「全能」でなければならない。

だが政府に全能を求めるには無理がある。政府のプログラムは民間と比べ非効率で失敗することが多い。そこまでして平等を保障する政府は、巨大化し、その下で国民には「奴隷の平等」が保証されるに過ぎなくなる。

アメリカでは、「貧困家庭、女性、LGBTなどマイノリティーとして差別され不遇な状況にある者には、他の人より多くの機会が与えられなければならない、一方、恵まれた人はその恵まれたチャンスを生かすべきではない」という考えまで出てきている。

例えばここに身体が強く、知性が高く、美しい容姿を持った者がいるとする。それが他の人より、チャンスに恵まれていると言えないレベルにまで、さまざまな機会を奪って引きずり下ろす社会こそ「結果平等」が目指す究極の社会ということになる。そのような多様性の排除は、文化大革命やポルポトが行った社会主義革命の中で実際に起きたことである。結果平等は暴力なくして実現しないことは、歴史が証明している。

それぞれの人に埋め込まれたダイヤモンドの原石

平等を求める人々は、与えられていないことに不遇を感じ、運命を呪っているのかもしれない。しかし、本当のところ、神はそれぞれの人に多様な形でダイヤモンドを埋め込んでいる。

アメリカの光明思想家のエマソンが言っているように「自分ができるのはどういうことかが分かるのは、自分だけ」であり、「その自分ですら、実際にやってみるまでわからない」のである。

自分に与えられた才能、能力、性別など全ての境遇を受け入れる。利他の気持ちで、精魂をこめて日々の仕事に励み、最善をつくすこと。その時に、天国の天使たちからの応援で、チャンスは巡ってくる。

エスカレーターに乗り、上の階まで運んでもらうのではなく、自分の足で一歩一歩階段を昇る。逆境に遭遇してもめげずに乗り越えていくうちに自助努力の精神が身につく。その中で運命も開けていく。これが霊的な世界の原則である。

アメリカ版マルクス主義者は、「自助努力の中、神へと向かって歩みを進める神仏の子としての喜びや、それを温かく見守る神仏の愛の眼差し」に思いが至らないのかもしれない。

中国はアイデンティティ政治を水面下で推進

問題は、このアイデンティティ政治なるものが、「言論の自由」を封じ込める力まで発揮していることだ。メインストリームメディアや主要なソーシャルメディアの判断基準となり、我々の生活に全面的に影響を与えているから、恐ろしい事態である。

この理論の下では、抑圧者である白人は、非難され罰され黙っていなければならない。一方、「抑圧されるマイノリティーは、真実を見通す力があり、彼らは何を言っても許される」とされる。要するに、「社会の片隅に追いやられた少数派は何を言っても許されるが、抑圧者である白人は、黙っていろ」ということだ。

例えば、コロナは中国発であるという説について、「アジア人に対する差別だ」という議論は大手を振って言えることになる。それに対する反論をすれば、科学的検証を求めるものであっても、人種差別主義者であるとレッテルを貼られ、口封じに遭うという形である。実際、中国はこのアイデンティティ政治を政治利用し、水面下で推し進める主犯である。

その他にも、「格差論」は広く取り上げられても、「格差は何の問題もない。貧困が問題だ」という主張は、社会からタブー視される。

しかし、そうした形で「言論の自由」や意見表明の自由が抑圧されると、失われる価値があると主張するのが、クレアモント研究所のアーサー・ミリキフ氏である。同氏はエポックタイムズ紙に寄稿したコラムで、政治的自由、内面の自由、共和的な性格の形成の3つが危機に瀕していると警告を発している。

公的領域に自由な言論を表明する機会がなければ、政治的自由が失われる。さらに言論の自由への圧迫は、真理の探究を不可能とし、思考の自由の剥奪にもなる。また他者を説得したり、されたりする中で創り出される共和的な性格も培われず、かえって他者を力や怒りで統治しようとする傾向性が強まってしまうと言う。

「言論の自由」を信じる大学生は53%しかいない

ミリキフ氏によるとアメリカの大学生のたった53パーセントしか、言論の自由の価値を信じていないという。驚くべき調査結果である。

19世紀のフランスの政治家・思想家のトクヴィルは、アメリカの未来をこう予測していた。

「世論による専制政治、多数派による暴政、知的自由の欠如などといった形で悪化する可能性がある。そして、その行き着く先は、経済の破綻と腐敗した世論の形成により、混乱の時代が待ち受けている」

「混乱の時代」はもうやってきている。その意味で、マルクス主義革命の担い手となっている教育機関へのメス入れや、GoogleなどのBig Techへの反トラスト法の適用は、待ったなしの課題である。

このままではアメリカの衰退は必須となる。そしてアメリカ版マルクス主義革命を水面下で支援する中国は、今後も"反アメリカ革命"を遂行していくに違いない。

大川隆法・幸福の科学総裁が収録したトランプ氏の守護霊霊言(関連書籍参照)で、トランプ氏守護霊は、「だから、私は、『ブルー・ステイト』だの『レッド・ステイト』だの、こんなのを一緒にするだの何だのと言っているの、もう聞いていられないので、もうちょっと神の心を心として、『神を信じる心において平等』というので、できたらいきたいね」と述べていた。

アメリカ版マルクス主義に立ち向かうには、本当の意味での「平等」とは何かを国民に広く伝えていくことが必要そうだ。アメリカを決して乗っ取られてはならない。

(長華子)

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