台北市内にそびえる日本統治時代に造られた台湾総督府。現在も、総統府として使われている。
《本記事のポイント》
- 香港世論調査で「政府に不満」が20ポイント増
- 台湾でも70%が「香港デモ」を支持
- デモ後、蔡英文の支持率が回復した
香港の「反送中」(「逃亡犯条例」改正反対)デモが、香港、さらには台湾の世論に大きな影響を与えている。
6月24日、香港で公表された世論調査(香港中文大学アジア・太平洋研究所が実施)によると、60.4%の人が香港政府に対して不満を持っていた。前月に比べて、不満に思う人が19.9ポイント増えた。また、香港政府に対して不信感を持つ人は48.9%で、前月に比べて18.8ポイントも上昇。北京政府に対して不信感を抱いている人も54.7%で、前月比で13.6ポイントも上昇した。
また、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官のパフォーマンスに対する評価は、37.5ポイントで、先月と比べ10.6ポイントも落ちている。
特に、30歳以下の大学卒(短大を含む)男性は、ラム長官に対するパフォーマンス評価が最低だった。それに対し、51歳以上の小学校卒かそれ以下の学歴の女性は、ラム長官に高いパフォーマンス評価を与えている。若い層ほど、強い危機意識を持ったようだ。
台湾でも70%が「香港デモ」を支持
一方、台湾で同じく6月24日に行われた世論調査(台湾民意基金が山水民意研究公司に委託して実施)では、台湾人の48.2%が「反送中デモ」を熱烈に支持していることが分かった。22.6%が「まあまあ支持」しており、両者を合わせると、70.8%にのぼる。
そんな中、同日、台湾のTVBSが来年1月の次期総統選挙に関する世論調査を公表した。「もし、明日投票するとすれば、どの候補者に票を投じますか?」という質問である。
その選び方は「誰が最終的な候補者になるか」によっても左右される。民進党は、蔡英文総統が候補者として確定している。ここでは、柯文哲台北市長が無所属で出馬すると仮定しよう。さらに、国民党内での有力候補3人それぞれが残ったケースを場合分けすると、支持率は以下のようになる。
(1)国民党候補が韓国瑜の場合、蔡英文が37%、韓国瑜が29%、柯文哲が20%
(2)国民党候補が郭台銘の場合、蔡英文が35%、郭台銘が24%、柯文哲が21%
(3)国民党候補が朱立倫の場合、蔡英文が36%、朱立倫が21%、柯文哲が23%
つまり現時点では、蔡総統の再選が濃厚になっている。なぜ、人気のなかった蔡総統が、急に支持率を回復したのか。まさに、香港の「反送中」デモ運動のお陰である。
シンクロする香港・台湾
現在でもなお、中国共産党は、香港立法会で「逃亡犯条例」改正を目指している。その中国共産党と緊密な関係にある国民党候補や柯文哲氏は、台湾有権者から疎まれるに違いない。
また今年1月、習近平・中国国家主席が台湾に対し、「一国両制(一国二制度)台湾方案」を提起した。しかし、香港では言論の自由等が失われつつあり、「一国両制」自体が危うくなっている。この現状を見て、台湾人が習近平政権の「一国両制」提案を受け入れるはずもない。
まさに7月2日付本欄で述べたように、香港と台湾の民主化運動はシンクロしている。
拓殖大学海外事情研究所
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~2005年夏にかけて台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011年4月~2014年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界新書)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
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