《本記事のポイント》
- 香港で「逃亡犯条例」改正などへの反対デモ
- 「逃亡犯条例」改正のきっかけは殺人事件
- "公然拉致"につながる「逃亡犯条例」改正
香港中心部でこのほど、民主化を求める団体が主導した大規模なデモが行われた。主張内容としては、30周年を迎える天安門事件への評価の見直し、中国の一党独裁体制への批判などがみられた。なかでも注目すべきは「逃亡犯条例」改正への反対だ。
これは現在、香港立法会(議会)で審議されている、犯罪人を中国本土に引き渡すことを可能にする条例改正。成立してしまうと、中国共産党を批判する民主活動家、香港を訪れている台湾人、日本人、アメリカ人なども"強制送還"されかねない。
立法会の議員は日本などとは異なり、普通選挙で選出されない。親中派が多数を占めるため、7月には可決されてしまう可能性がある。
「逃亡犯条例」改正のきっかけは殺人事件
恐るべき悪法だが、改正化に"利用"された事件がある。それがいわゆる「陳同佳事件」と呼ばれるものだ。
香港の男性である陳同佳は2018年、交際相手で妊娠していた潘暁穎さんと共に台湾へ旅行した。しかし、陳同佳だけが香港へ帰国した。
その後、行方が分からなくなった潘暁穎さんの銀行口座から、カネが引き落とされていた。さらには、キャッシュカード、デジタルカメラ、iPhone6、2万台湾元と1万9200香港ドルを含む、合計3万2000香港ドル相当(約45万円)が処分されていた。
同年3月13日、香港警察は陳同佳を逮捕。陳は、香港当局の取り調べ中に潘暁穎さんの殺害を認めた。
一方、事件現場となった台湾当局は、陳を国際指名手配していた。しかし、香港と台湾との間では「犯人引渡条約」がない。この事件をきっかけに、香港政府は「逃亡犯条例」改正案を提出したのだ。
こうした経緯から、香港政府は今回の改正案について、「あくまで殺人犯などを対象としたもので、政治犯は対象ではない」という趣旨を説明している。
"公然拉致"につながる「逃亡犯条例」改正
しかし、中国公安はただでさえ、法律を無視して香港人らを拉致・連行していることを忘れてはならない。
その代表例としては、まず2015年10月に起きた「銅羅湾書店事件」が挙げられる。
きっかけは、銅羅湾書店が『習近平とその愛人達』という本を出版しようとしたこと。それにより、同書店の株主、店主、店員がすべて中国公安に拉致され中国へ連行されたのだ。
株主であったスウェーデン国籍の桂民海は、タイ・パタヤで中国公安に拉致されている。中国は堂々とタイの"主権侵害"を行ったのである。
2017年1月の「蕭建華拉致事件」も要注目だ。
中国の富豪で、大企業「明天系」を創立した蕭建華が、香港の「フォーシーズンズホテル」から拉致・連行された。蕭建華は中国共産党に個人資産を巻き上げられた上、会社も没収されている。
共産党内の権力闘争に巻き込まれたとも言われており、現在の安否は不明。死亡説も出ている。同社の株主には、習近平主席の義兄(長姉、斉橋橋の夫、トウ貴家)が名を連ねているという。
もともと"なんでもあり"の中国共産党だ。「逃亡犯条例」が改正されれば、「殺人」などの容疑をでっちあげて、都合の悪い人物を公然と中国に"拉致"することにつながりかねない。
拓殖大学海外事情研究所
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~2005年夏にかけて台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011年4月~2014年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界新書)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
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