《本記事のポイント》
- アメリカは民間の活用も視野に入れて5年以内に宇宙飛行士を月の南極へ
- 中国は2030年までに宇宙強国を目指している
- 月の資源を獲得し、宇宙を戦闘領域に変える中国
「はっきりと宣言しよう。次に月面へ降り立つ人類、そして初の女性は、いずれもアメリカの宇宙飛行士であり、アメリカのロケットで、アメリカの地から飛び立っていかねばならない」
「20世紀に月へ到達した最初の国になったように、われわれは21世紀に月へ戻る最初の国になる」
ペンス副大統領は3月26日、アラバマ州のハンツビルで開かれた国家宇宙会議でこう語った。同時に「2024年までに宇宙飛行士を月の南極に着陸させる」方針を明かした。
トランプ政権は現在、「月に存在する可能性のある水資源などを利用しながら、月面に長期滞在する」ことを計画しており、国際協力による実現を目指している。従来の計画を4年前倒しする野心的な計画である。
これに対して「難しすぎる、危険すぎる、費用がかかりすぎる」という声もある。しかし同会議でペンス氏は、「アポロ計画が始まった1962年にも同じ声があった」と指摘した。
計画実現に向けて懸念されているのが、月への有人飛行を目指し米航空宇宙局(NASA)が開発中の大型ロケット「スペース・ローンチ・システム(SLS)」の計画が遅れていることだ。これに対してペンス氏は、「民間ロケットが唯一の方法なら、それを利用することになる」と語る。
ロケットの代替候補として取り沙汰されているのが、米宇宙企業スペースXの「ファルコンヘビー」や、米ボーイングと米ロッキード・マーチンの「デルタ4ヘビー」など。
いずれにせよ米政府は、万難を排して計画達成するつもりだ。
中国の「宇宙強国」を意識
米ワシントンポスト紙は、この計画はコストに見合ったものではないと批判を展開。これに対してペンス氏は、FOXニュースに寄稿した記事で早速反論。「時宜をわきまえない批判だ」という主旨の主張をした。
どういうことか。
トランプ政権が宇宙開発において明確に意識しているのは、中国やロシアとの熾烈な競争だ。
中国は、2030年までに米国などと肩を並べる「宇宙強国」となることを目指し、軍民一体で技術開発を進めている。
最初に、2022年までには本格的に宇宙ステーションを稼働させる。さらには月面への進出も目指し、2019年1月3日、月探査機「嫦娥4号」を、人類で初めて「月の裏側」へ着陸させた。火星や木星への探査の目標も立てている。
中国が宇宙で覇権を握れば宇宙は戦闘領域に
ではなぜトランプ政権は、中国の「宇宙強国」の野望を迎え撃とうとしているのか。
(1)資源獲得競争
まず挙げられるのが「資源獲得競争」で勝つためだ。
月には、スマートフォンや電子製品に使われる希少金属(レアメタル)など、鉱物資源が豊富に眠る。さらには、「ヘリウム3」という資源が大量に存在する。これは「夢のエネルギー」と言われ、「プラズマ核融合発電」の実現を目指している中国にとってはなくてはならない。
これをアメリカは先んじて手に入れんとしている。まさに、"大航海時代の資源獲得競争"が、宇宙を舞台に再来しているのだ。
(2)火星探査への足掛かり
次に挙げられるのが、「火星進出への橋頭保」を築くためだ。
月面に基地をつくることができれば、火星への探査が容易になる。これはペンス氏も、ワシントンポスト紙への反論寄稿で指摘していた。
(3)宇宙空間を戦闘領域に変える中国
三つ目に挙げられるのが、「米中戦争を制する」だめだ。
米国防情報局(DIA)が2月に発表した報告書によると、中国は宇宙空間を戦闘領域に変えている。対衛星兵器(衛星攻撃衛星)や人工衛星を標的としたレーザー兵器、超音速ミサイルを開発しているというのだ。
これについてハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)で安全保障学などを教える河田成治アソシエイト・プロフェッサーは、編集部の取材にこう述べた。
「中国は地上に大型のレーザー施設を持っています。例えば、新疆ウイグル自治区の天山山脈に施設があることが確認されています。実際にアメリカの偵察衛星が何度もレーザー照射を受けているのです。
中国はこのレーザー兵器の小型版を、自前の宇宙ステーションや、月面軍事基地に持ち込むのではないかと推測されています。これで敵国の衛星を完全に破壊できます」
「さらに『衛星攻撃衛星』もつくっています。2013年に、ロボットアームを持った人工衛星が、アメリカの人工衛星に近づいたことが確認されています」
こうした兵器に自国の衛星が破壊されれば、地上では携帯、インターネット、銀行機能、発電所も停止する。
この安全保障上の脅威はアメリカにとって、1957年のソ連による人類初の人工衛星「スプートニク」の成功によって起きた、「スプートニクショック」にも相当するかもしれない。だからこそトランプ政権は、宇宙の領域においても全面的な巻き返しに出ているのだ。
日本も有人宇宙船の技術を開発すべき
日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、このNASAが主導する月面有人探査計画に、月を周回する宇宙ステーション「ゲートウェー」の居住棟と無人補給船の開発という形で参加する方針を固めた。ゲートウェーは、地球や月面を結ぶほか、火星探査の中継点にも使われる見込みだ。
こうした月面探査には数十兆円の予算が必要であり、一つの国で担うのは困難だ。このため各国の技術を生かし共同開発を行うことが求められており、日本が積極的に協力すべきであるのは確かだ。
ただ、「協力」で終わってしまってもいけない。前述の河田氏は「有人宇宙船の技術も日本は開発すべきである」として以下のように語る。
「有人宇宙船は、無人宇宙船と比べて、必要とされる部品の数が桁違いですし、求められる技術の精度も異なります。航空宇宙産業に携わることは、科学技術をボトムアップさせることになるのです。民間の科学技術への波及効果も多大です。航空宇宙産業は次の基幹産業そのものですから、日本も有人宇宙船にチャレンジすべきでしょう」
宇宙空間は戦いの最前線
さらに河田氏は、日本が宇宙開発を本格化させなければ、安全保障面でも懸念があるとしてこう述べた。
「日本では、自国の人工衛星を護るための宇宙状況監視(SSA)がスタートしました。しかしこれはあくまでも監視が中心であって、レーザー兵器からの攻撃を抑止することはできません。
インドは3月の終わりに衛星破壊ミサイルの開発に成功し、アメリカ、ロシア、中国に次いで撃墜に成功した4カ国目となりました。日本も、抑止を考えるのであれば、小型化したレーザー兵器を人工衛星に搭載することも検討していくべきです」
かつての大航海時代の様相も呈してきた宇宙進出。宇宙へのコミットなくして、日本の未来の基幹産業も危うい。同時に「宇宙空間が戦いの最前線になる」というマインド転換をすることが、いま求められている。
(長華子)
【関連書籍】
幸福の科学出版 『繁栄への決断』 大川隆法著
https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=1785
【関連記事】
2018年10月号 『米中冷戦5つの戦場 - 貿易戦争から宇宙戦争へ』Part 2