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《本記事のポイント》
- 1月に米雇用30万人増・賃金も3.1%上昇と予想を大きく上回る成果
- 景況感なき日本の"賃金増″の統計
- エリート主義では国が没落 繁栄する社会を築くには?
アメリカ労働省が発表した1月の雇用統計によると、景気の現状を敏感に反映する「非農業部門の就業者数」は、前の月と比べ30万4千人増加と、市場予測の17万人程度を大きく上回る結果となった。
製造業、建設業、レジャーや観光、建設など幅広い業種で、雇用が拡大した。注目に値するのは、グローバリズムで壊滅的な影響を受けた製造業に従事する人も、昨年だけで約26万人も増えている点だ。
また政府機関の影響もあって失業率は4.0%となったが、それでも歴史的な低水準が続いている。つまり求人率が高く、売り手市場となっている。
このため賃金も上昇している。2018年の第4四半期における賃金の上昇率は3.1%の成長率となり、2008年以来最大の伸び率を記録した。アメリカの高卒者の給料が50年間一度も上昇していなかったことを鑑みれば、この賃金上昇率はトランプ政権の大きな成果だと言える。
日本の賃金増は本当か?
一方日本では、2月1日の厚生労働省の発表によると、18年1~11月の実質賃金は、前年を下回る月が大半となった。
与党側は、「総雇用者所得は、名目でも実質でもプラスで推移している」として、この数字を取り合わないとしているが、国民全体にアメリカのような「景況感」はあるのだろうか。数字についての議論もさることながら、景況感を国民に聞いてみるべきだろう。
弊誌2019年1月号の特集「消費税10%で年90万損する」では、アメリカに住む人々の声を集めた。そのなかには「フィアンセの給与が増えた」「2年前は、仕事を探している人も3カ月くらい決まらなかった。でも最近は、履歴書を提出してきた人に2週間後に連絡を取ると、もう他の仕事が決まっているケースも多い(人材派遣業)」といった声が寄せられた。2017年12月に成立した大型減税の成果が1年後に着実に出ている様子が伝わってくる。
差が開く経済成長 原因はどこにある?
この差は、ひとえに経済政策から生じている。2月1日付の米ウォール・ストリート・ジャーナル紙の社説は「経済成長こそが所得を増やすためのベストな方法だということをこの力強い雇用統計は教えてくれます。……所得の再配分は、成長を減速させ、助けようとしているすべての人たちを傷つけてしまうのです」と端的に説明している。
つまり「経済成長」が国民の所得を増やすので、税金を取ってお金を配る「所得の再配分」よりも経済成長を優先すべきなのである。
日本では財政再建の名目で増税を正当化しようとしているが、この論理は、国際通貨基金(IMF)の報告書(昨年10月発表)で破綻している。つまり日本政府の純資産はプラス・マイナスゼロで、日本政府は増税する必要がないのである。
さらに日本は360兆円以上の対外純資産があり、かつ政府の税収を担保する家計の金融資産も、1700兆円以上と莫大にある。
「政府債務というツケを未来に残すな」という財務省の論理は、増税を行うための詭弁にすぎない。
それを言うなら、消費税を導入しても財政赤字が増えたという"実績"をこそまず反省すべきである。大川隆法・幸福の科学総裁は『 現代の正義論 』でこう述べている。
「 1989年の財政赤字は100兆円、これをなくすために、3パーセントの消費税を導入したわけです。ところが、その後の現実はどうでしょうか。今はもう1千兆円の財政赤字です。おかしいと思います 」
日本はすでに民主主義国家ではない?
さらに言えば、財政再建を名目とした増税は「主権在民」の考え方に反している。(『新・日本国憲法試案』参照)
なぜなら国民に主権があるということは、国民の同意なしに政府の都合で国民の財産を侵害してはならないということであり、政府は、国民の権利を護ったときに正統性が生まれるのである。
国民の同意なしに、政府の一方的な目的で増税を図るとすれば、そこに政府の正統性など存在しない。このため憲法第29条には「財産権」が規定されている。国民の財産を護らない政府は、国民に対する背信行為を行っていると言える。
もしこのような財務省の論理がまかり通るなら、少数者が少数者のために統治する「寡頭制」のもとに国民は生きているのであって、「主権在民」が担保される「民主主義」の統治下にはないということになる。当然のことながら憲法の遵守義務は政治家にある。憲法で保証されている権利をエリートにないがしろにされても、国民は耐え難きを耐えるのか。
国に蔓延するエリート主義の問題
もしエリートが考えた政策を実行した結果、国が繁栄するなら、エリート主義にも見るべきものがあるかもしれない。
そもそも豊かさはどこから生まれるのか。この議論に関して、物質的な要素よりも、「所有権の尊重」や「法の前の平等」といった理念を重視する経済学者や経済史家が増えている。
たとえばダロン・アセモグル氏とジェイムズ・A・ロビンソン氏の『国家はなぜ衰退するのか』や、ディアドラ・マクロスキー氏の『ブルジョアの平等』が代表的だ。
両者に共通するのは、「法の支配」である。これが王による収奪的な政治制度よりも、経済的好循環を生みだしたというのだ。
簡単にまとめれば、階層社会が崩壊し、資本を蓄えた企業家がチャレンジできる機会を平等に保証したなかに資本主義が発展してきたというのである。
王や貴族が国民から収奪するエリート主義(官僚主義を含む)が終焉し、「法の支配」が確立したからこそ、資本主義は発展した。それは、自動車の組み立てラインを考えたヘンリー・フォードやアップルの創始者のスティーブ・ジョブズのような人々が何を欲しているのかを知り、それを提供してきた「平凡な生産者」による社会だ。
君主を楽しませるかどうかではなく、数百万や億単位の人々の生活を向上させるような人々が現代の英雄である。そのような「平凡な生産者」たちは、安い税金によって資本の蓄積を許され、規制から解放されたときに、最大の創造性を発揮する。
だが現代のエリートである政治家や官僚は、搾取や略奪を重視した価値観からの転換が資本主義の始まりにあったことを忘れている。とりわけ日本では政治家や官僚主導の経済、つまり「エリート主義」が通用すると勘違いをしていないだろうか。
税のフラット化で「法の支配」を取り戻す
一方、トランプ減税は、税のフラット化を目指している。それは恣意的な支配から国民を解放し、法の支配の確立から、繁栄する強国アメリカを取り戻すことを目指すものだ。革命か戦争なくして、「恣意的な支配」から「法の支配」を取り戻すことは困難だとされている。それゆえ、トランプ減税は文字通り「革命」なのである。
中国経済が減速するなか、グローバル企業頼みの日本は、煽りを食らう構図となっている。ソニー、パナソニックなどファーウェイと取引のある日本のグローバル企業は軒並み営業利益を下方修正している。
一方、アメリカは、経済の基盤を強固にし、海外の影響を最小限にとどめる体制を築いた上で、中国に対して貿易戦争を仕掛けているように見える。戦略の有無は、誰の目にも明らかではないか。
今からでも遅くない。消費増税の中止の宣言とともに、相続税の廃止や、世界一の累進構造ともいわれる所得税のフラット化に向けて日本も乗り出すべきだ。それによって初めて持続的に経済成長が可能となる社会を維持できる。
(長華子)
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