《本記事のポイント》

  • 花粉症は、戦後の林業政策の失敗の結果
  • 林業改革で40万人の雇用を創出できる!?
  • 政治家が取り組むべき「現代の公害」

国民を苦しめる花粉症。だが林業の再生で、国内の森林を手入れすれば、花粉症どころか雇用や防災問題まで解決できる。(2017年6月号記事再掲)

「思わず爪を立てて目を掻いてしまい、傷つけてしまった」(40代女性)、「ずっと熱っぽい」(20代女性)、「仕事が手につかず、大事な判断ができない」(20代男性)。

現代人を悩ます花粉症。地方から上京してきた人が驚くのが、マスクをする人の多さだ。「こんなに花粉症が多いのか」と軽いカルチャーショックすら感じるが、実に都民の約4人に1人が花粉症にかかっている(*1)。

特にビジネスパーソンにとって、花粉症は仕事の生産性を落とすやっかいな問題である。

花粉症を含むアレルギーによる会社への損害は、1人当たり年間約55万円という調査や、日本全体で6910億円の経済損失という試算もある(*2)。

(*1)東京都福祉保健局「花粉症患者実態調査報告書」
(*2)米ダウ・ケミカル社による調査と、第一生命経済研究所「花粉の大量飛散が日本経済に及ぼす影響」

花粉症は「森のSОS」

とはいっても、花粉が飛ぶのは自然の摂理。薬を飲んだり、マスクをしたりして我慢するしかないと思う人も多いだろう。だが、花粉症は、戦後の誤った林業政策による「人災」であることはあまり知られていない。

戦後の復興で住宅建設が進み、木材需要が高まり、スギなどの植林が増えていった。その後、需要のピークが過ぎ、国内に外国産の安い木材が入ってくると、しだいに林業は衰退していく。

例えば東京の多摩地域には、東京ドーム6500個分に当たる約3万ヘクタールの人工林があるが、大部分は花粉を出しやすい古い木。そこから都心へと花粉が多く飛来しており、その量は増加傾向にある。

管理者が間伐せずに森を放置した結果、質の悪い木が密集して生えるようになり、花粉が多く舞うようになったのだ。

東京都は、年間50~60ヘクタールの人工林の伐採などを行っている。だがこのペースだと、すべてをやり遂げるのに500年かかる。対策予算も7億円(16年度)にすぎず、花粉症を根絶するのは夢のまた夢……。

「やらないよりはやった方がいい」(東京都花粉症対策本部)とのことだが、いわば花粉症は、山の管理が行き届いていないことを知らせる「SOS」。「公害問題」として認識し、対策に本腰を入れるべきであろう。

40万人の雇用を創出できる

花粉症を根本的に解決するには、衰退する林業へのテコ入れによる「森林の健全化」が必要だ。ただ、「いまさら林業をやっても儲からない。花粉症をなくすために巨額の税金をかけるのか」と思う人も多いだろう。

日本の木材関連産業は、約60万人が従事しているが、人工林の面積が日本とほぼ同じであるドイツでは、自動車産業を超える約100万人が働く重要産業に発展している。

つまり、日本の林業政策を変えれば、少なくとも40万人の雇用を生む可能性がある。林業の立て直しは、環境保全や防災、鳥獣被害の防止にもつながる"一石四鳥"の政策でもあり、良いこと尽くめである。

日本の林業の問題は高いコストだ。日本の生産コストは、ドイツの2倍以上で、利益をあげづらい。

違いは林道の整備状況にある。ドイツは山に林道を張り巡らし、大規模な機械を乗り入れて作業でき、コストを抑えることに成功している。

日本も林道をしっかり整備すれば、間伐や植林が計画的に行えるようになり、森林が生き返って過剰な花粉の飛散を抑えることができる。そうすれば、稼げる人も増え、管理を放棄する人も減っていくだろう。

花粉症対策という社会貢献

一方、最近、インフラがなくても森林を保全するものとして注目されているのは、高知県で取り組みが進む「自伐型林業」だ。

林業の作業を組合に依頼せずに、初期投資を抑え、自らの手で行う自伐型林業を広めるNPO法人「土佐の森・救援隊」では、1人当たり1日平均3万円を稼いでいるという。

意外にも、数日の研修を受ければ、基本的な作業を習得でき、誰でも個人で林業に参入できる。高齢者や女性も、自分のできる範囲で林業を行うだけで、補助金なしで数百万円を稼げる。

世界や地方に目をやると、林業を立て直す知恵がある。政治家が、「花粉症ゼロ」という社会的使命を掲げ、林業で稼げる持続的なモデルをつくれば、花粉症をなくすことができる。

森の元気を取り戻せば、国民が花粉におびえることなく、生き生きと仕事ができるようになる。

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2017年3月17日付本欄 花粉症のスピリチュアルな理由 江戸時代には「花粉症」はなかった!?

https://the-liberty.com/article/12723/