《本記事のポイント》

  • 長時間労働が社会問題化するのは、法律と企業の双方に原因がある。
  • 各企業で「何を成果とするか」を見直すことで、働き方を変える道がある。
  • 解雇規制を緩和することで、正社員の割合は増やせる。

通常国会が22日に召集された。安倍晋三首相は本国会を「働き方改革国会」と位置づけ、残業時間の上限規制など、関連法案を提出する。

本欄では、「そもそも長時間労働はなぜ社会問題化するのか」「行政や企業はどうあるべきか」について、経営者と従業員双方の相談を受けてきた「ブラック企業アナリスト」へのインタビュー(2017年1月号掲載 http://the-liberty.com/article.php?item_id=12244 )を再掲する。

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ブラック企業アナリスト

新田龍

(にった・りょう)早稲田大学卒業後、「ブラック企業ランキング」上位の上場企業2社で事業企画や新卒採用担当を歴任。07年、働き方改革総合研究所株式会社を設立。企業の「脱・ブラック化」のためのコンサルティング、ブラック企業の被害者救済活動などを行っている。近著に『ワタミの失敗 「善意の会社」がブラック企業と呼ばれた構造』(KADOKAWA)がある。

長時間労働が問題視されているのは複数の理由があります。

まずは企業の問題です。高度成長期までの日本経済は製造業中心で、長時間働いて多くの物を製造すれば業績が上がり、給与も増えました。現在は、長時間働いても以前ほど収入が上がらないのに、その成功体験が捨てられないのです。

電通のケースなら、不幸にも過労自殺者が出たデジタル広告部門は、電通より低コストで請け負う競合他社が多い。そのため、成果を出そうと長時間労働になりがちだったのかもしれません。

諸外国と比べて特徴的な日本の労働慣習の問題もあります。

日本は、ほとんどの社員がトップを目指して長時間働きます。これに対して欧米は、エリートとノンエリートが厳然と分かれています。エリートは日本以上に長時間働き、高い報酬を手にしますが、ノンエリートは出世しない代わりに、残業もない。「欧米では長期休暇が取れる」という話を聞きますが、それにはこんな背景があるわけです。

さらに、労働法制の問題があります。正社員を解雇しにくい代わりに、長時間労働については事実上制限がありませんが、これは時代に合わなくなっています。

生み出した価値を評価する

長時間労働については、ある程度のルールがあってもよいと考えます。現実には、極端な長時間労働で従業員を使い捨てる悪質な企業もあるからです。

各企業の事情もさまざまかとは思いますが、今後は、長時間労働以外の方法で業績を上げることを考えなければ生き残れません。出産、育児に加え、介護の問題も出てくるので、残業が当たり前の組織であれば、大切な人材が仕事を続けられず、戦力を失うことになります。

飲食業など長時間労働が当然とされてきた業界でも、働き方を変え、離職率を下げている企業が出ています。中小企業でも、「給料は高くないが、休みがしっかり取れる」など、多様な働き方を導入し、従業員満足度を高めている会社もあります。

今までは、時間をかけてもノルマを達成することがよしとされ、むしろ成果より長時間労働を評価されることもありました。現在伸びている会社は逆で、時間当たりに生み出した価値に焦点を当てています。

また、成果を求めつつ、残業をいかに減らしたか、部下から管理職人材をどれだけ輩出したかなど、総合的な評価をします。「何を成果とするか」を見直すことで、働き方も変わっていくのです。

解雇規制緩和のメリットとは

一方、解雇規制については緩和すべきと考えます。解雇が難しいから採用基準が厳しくなり、「再就職が難しい」から「悪質な会社でも辞められない」という形で、人材の流動化を妨げていると考えられるからです。

たとえば、正社員の地位を悪用する問題社員が経営者を困らせるケースがあります。入社後2、3カ月は機嫌よく働きますが、突然豹変して「もっと残業代を払え」と騒ぎ始めるのです。解雇しようとすると、解雇手当や慰謝料を要求してきます。これを、ユニオン(注)や弁護士事務所が応援する。労働問題を起こすことが、彼らにとっての「ビジネス」なのです。

解雇規制を緩和すれば、会社は「問題社員を雇っても解雇できる」と安心し、雇用を増やせます。働く人にとっては再就職のチャンスが増えます。実際、イタリアでは解雇規制を緩和して正社員率が高まりました。

解雇規制の緩和は、本当に悪質な会社の淘汰にもつながるはずです。(談)

(注)合同労働組合のこと。主に、労働組合がない中小企業の労働者のための組合で、一人でも入ることができる。

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