ロシアが「中距離弾道ミサイル」を戦場で初めて使用する衝撃 核戦争を避けながら、NATOに冷戦の恐怖を想起させ、停戦交渉にこぎ着けたい狙い
2024.11.22
《ニュース》
ロシアのプーチン大統領は21日、ウクライナ東部ドニプロ市の軍事施設を標的にしたミサイルは、ウクライナ軍が発表したICBM(大陸間弾道ミサイル)ではなく、「新しい通常兵器の中距離弾道ミサイル」であると明らかにしました。
《詳細》
プーチン氏はテレビ演説で、「オレシュニク」という名の新しい極超音速の中距離弾道ミサイルの「発射実験」を行ったと述べ、発射した理由について、「アメリカ製とイギリス製の長距離ミサイルが使用されたことに対応し、今年の11月21日、ロシア軍はウクライナの軍産複合体拠点の一つを攻撃した」と指摘しました。
「西側製の長距離兵器で自国領を攻撃すれば、ロシアのレッドラインに触れる」と、ロシア側は繰り返し警告していました。そうした中、政権交代となるバイデン米政権は17日に「アメリカが供与した長距離ミサイルによるロシア領への攻撃を容認」し、ウクライナが19日に地対地ミサイル「ATACMS」を使って攻撃。続けて20日に、イギリス製のストームシャドウで攻撃を行いました。プーチン氏によると、これらの攻撃に対する反応だといいます。
情報が錯綜しているミサイルの種類について、米国防総省の報道官は21日の会見で、「ロシアが発射したのは実験的な中距離弾道ミサイルだ」と指摘し、ICBMをもとにつくられたものだとしています。
ただ軍事的には、今回のミサイルがICBMであるか、中距離弾道ミサイルであるかは実質的には意味がありません(射程が5500キロメートル以上をICBMと呼称するのは米露の冷戦に由来しており、現代ではあまり意味をなさない)。重要なのは、オレシュニクは核弾頭を搭載でき、射程が推定3000~5500キロある上に、マッハ10の極超音速(プーチン氏の発表)で飛翔するため、ウクライナ軍が保有する地対空ミサイル「パトリオット」では迎撃が不可能と指摘されていることです。
すでにロシアは、迎撃が困難な極超音速ミサイルを別で使用しており、これにも核を搭載することは可能です。つまり、ウクライナ戦争で初めて、あえて「ICBM級のミサイル」を使用ところに政治的な意味があり、特に北大西洋条約機構(NATO)に強い警告を送りたかったと見られます。
まず発射した11月21日は、ウクライナの親露派大統領が2013年に、欧米の介入などによって追放された「マイダン革命が起きた日」に当たり(ロシアの軍事チャンネル「Rybar」の指摘)、ウクライナ戦争とは因縁の関係があります。
使用する兵器としてオレシュニクを選定したのは、ミサイル防衛網を"貫通"した上で、「アメリカには届かないが、ヨーロッパには届く」というNATOへのメッセージ以外の何物でもないでしょう。かつてのソ連が東欧に「SS-20中距離弾道ミサイル」を配備し、NATOに恐怖を与えたことを想起させることで、アメリカのトランプ次期政権抜きでのウクライナ支援をも画策するヨーロッパに「政治的な打撃を与えたかった」と見られます。
さらに13日に、米軍がロシアの飛び地カリーニングラードから約250キロ離れたポーランドに、地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を設置し(ここから巡航ミサイルも発射可能だとロシアは反発)、すでにロシアを刺激していました。
そうした中、ロシアがこの段階でアメリカに届くICBMを使用すれば、アメリカを過度に刺激して、停戦を呼び掛けるトランプ陣営の立場を悪くしかねません。よってプーチン氏の言葉から、アメリカには届かず、バイデン政権及び対露強硬派への「返礼」であるという点を明確にし、戦争の泥沼化に持ち込みたい勢力に対応する必要があった可能性があります。
「使用する場所」も慎重に選んだと思われます。ロシアはNATO加盟国であるポーランドに近いウクライナ西部にもミサイル攻撃などを加えてきました。しかし今回は、中部寄りの東部であるドニプロを標的としました。そこには、核戦争へのエスカレーションを抑制しながら、NATOへの警告を優先したかったと言えます。
それを裏付けるように、ロシアは発射前に米政府に事前通告していました。西側のエスカレーション(長距離ミサイルの使用制限解除)に対して"相互主義"で牽制するものの、全面衝突は望まないという、ロシアの理性的な反応を物語ります。
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