ウクライナと連動する!? 北朝鮮の核の脅威から目を離してはならない(前編)【HSU河田成治氏寄稿】
2023.02.12
《本記事のポイント》
- 一線を越えたアメリカ側からウクライナへの武器供与
- 「戦力の逐次投入」の愚と動乱の世界的波及
- 「歴史上最も攻撃的な核ドクトリン」を持つ北朝鮮
河田 成治
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。
ウクライナ戦争が昨年2月24日に始まって、1年が経過しようとしています。
戦況は東部と南部で膠着して長期戦の様相ですが、ここにきてロシアが動員した予備役の訓練が終了し、2月以降にロシアが投入、攻勢をかけようとしている状況です。戦線が大きく動く可能性が出てきました。
また、中国の台湾侵攻や北朝鮮の暴発など、東アジアも最大のホットスポットの一つです。
ただ、中国や北朝鮮はロシアとの連携も深めており、ウクライナ情勢と東アジアの動向は連動すると見て、両者の動向を注意深くウォッチしていく必要があります。
一線を越えたアメリカ側からウクライナへの武器供与
アメリカ側は、これまで絶対に出さなかった戦車の供与にまで踏み込みました。私が恐れるのは戦車そのものが供与されたこと以上に、西側の主力兵器がなし崩し的な解禁ムードになったことです。
次には戦闘機まで与える気配があります。これは事実上、北大西洋条約機構(NATO)軍によるロシアの戦車を攻撃する行為であり、またNATO軍による空中戦と変わらなくなってきます。従って、どこから全面戦争が始まるか分からない状況です。
イスラエルの情報機関によると、ウクライナ軍の兵士は、自国民の73万4000人に加え、NATO軍人、傭兵で構成されているといいます。また、これまでに2500人以上のNATO軍兵士が死亡したと分析されていますので、水面下ではすでにNATO軍とロシアとの戦争が起きていると言えるでしょう。
ウクライナ戦線は膠着状態から大激戦へ
ロシアは昨年の9月に動員をかけた予備役の訓練が終了し、2月中旬以降に20万人以上を投入してくるものと見られています。
その兆候はすでに始まっています。その中心はドネツク州ですが、同州の中央部にあるバフムートが激戦となっているほか、北部のリマン周辺や南部のマリンカなどでも攻勢が始まりつつあるようです。
前述のイスラエル情報では、ロシア軍が41万8000人(プラス今後動員可能な予備役350万人)、ウクライナ軍は、73万4000人(今後動員可能な予備役はわずかに10万人)と、数としては、ウクライナ軍の方が倍近くロシア軍より多いのですが、どうもウクライナ軍は、兵員の質に問題を抱えているようです。
もともとウクライナ軍は25万人でしたが、戦争開始後の動員で急速に膨れ上がりました。しかしその反動で、命令不服従や脱走、逃亡、上官への暴力などが多発しているようです。昨年末にゼレンスキー大統領がこれらの処罰を強化する法律を制定したところからも事実でしょう。
アメリカのメディア「ポリティコ」によると、脱走の原因は、これまで軍隊の経験や訓練をまったく受けていない民間人が多く軍隊に加わったため、兵士として適さない者が多いこと。もう一つは多くの前線で実際に戦える兵士が不足しているため、兵士を交代させて休息を与えることが不可能になっていることにあると述べています。
アメリカのフォーリン・ポリシー誌は、ウクライナ軍関係者の証言として、昨年の動員で新たに30万人のロシア軍が編成されつつあり、控えめに見積もっても、昨年2月24日に始まった時よりも大幅に多いロシア兵が、ウクライナ東部に集中していると報道しています。開戦時は北(キエフ方面)、北東(ハリコフ方面)、東(ドンバス方面)、南(ザポロジエおよびヘルソン方面)に分散配置したこととは対照的です。
さらに、「新たにロシア軍は戦車1800輌、装甲車輌3950輌、大砲2700門、多連装ロケットシステム810門、戦闘機400機、ヘリコプター300機を準備している」とも明かしています。ウクライナが西側から支援を引き出すために、やや誇張している可能性はありますが、ロシアの大攻勢が始まる気配が濃厚です。
「戦力の逐次投入」の愚と動乱の世界的波及
ウクライナとしてはここを何とかしのぎ、初夏頃から投入できる西側の主力戦車などを用いて反攻作戦に転じることを考えているのかもしれませんが、小出しに決まる西側の兵器供与プロセスは、軍事的セオリーから見れば、「戦力の逐次投入」という愚を犯しているのではないかと思います。
今後、ウクライナ側の劣勢度合いに応じて、NATO側の強力兵器が追加され、また見通し次第では日本も兵器を供与することになりかねません。そうなるとロシアvs.NATOの対立構造に留まらなくなります。
東アジアでの動乱を考慮すると、「ロシア・中国・北朝鮮vs.NATO(米軍)・日本・韓国」という対立構造に世界が深く分断されていくこともあるのです。この恐ろしさを知るべきでしょう。
「歴史上最も攻撃的な核ドクトリン」を持つ北朝鮮
昨今、北朝鮮のミサイル発射の数は急増しています。日本上空を飛び越えたり、韓国の海上境界線を越えてミサイルを撃ち込んだりと、軍事的圧力は異常なレベルに達していると言えます。
これはバイデン米政権のロシア敵視政策の結果、ロシアと北朝鮮、中国の連携が深まったことから起きた面も大きいでしょう。
従って今後のウクライナ戦況の推移によっては、それに連動する形で東アジアでの軍事挑発や衝突が起こり得るので、警戒を怠ることができません。
考えておくべき最悪の事態の一つは、北朝鮮による「核の脅し」です。すでに短中距離核ミサイルが多数配備され、日韓はその脅威下にあります。
加えて北朝鮮は、昨年1月に日本や米軍基地のあるグアムを核攻撃できる「火星12」の配備に入ったと発表しました。このミサイルは同10月に日本列島を飛び越えて太平洋上に撃ち込まれ、能力を実証しています。
さらにアメリカ本土を射程に収める新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発を進めており、配備は近づいています。
北朝鮮が昨年9月に発表した「核ドクトリン(核使用の基本原則)」は、戦争の勃発時に先制攻撃を含む(戦術)核兵器の使用を定めたものでした。
これをアメリカのシンクタンク「38ノース」は、「歴史上最も攻撃的な核ドクトリン」だと警告しています。
これは単なる空威張りではありません。北朝鮮は「戦術核運用部隊」を組織して、ミサイル発射訓練も実施しています。北朝鮮の朝鮮中央通信は、昨年9月から10月にかけて実施されたミサイル発射は、「戦術核運用部隊」の訓練で、核兵器を韓国に浴びせることを想定したものだったと報じました。
このように北朝鮮は、本当に核攻撃を前提とした軍事作戦を考えていますが、Xデーは、アメリカ本土を核攻撃できるICBMの配備が進んだ時でしょう。
北朝鮮による「核による脅し」の目的は、食料などの援助を引き出すことのほか、米軍を東アジアから追い出すことだと考えます。
反米のロシアや中国と連携した「共同行動」として、米軍を東アジアから撤退させようとすることは、ロシアや中国の利益とも一致します。
しかし北朝鮮が「核の脅し」をすることは、一方で北朝鮮の終わりにつながるとも考えられます。アメリカによる北朝鮮空爆論が再燃するからです。(後編に続く)
HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回のウクライナ情勢などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ )。
【関連書籍】
いずれも 大川隆法著 幸福の科学出版
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