「ジェノサイドを許すな」 米信教の自由会議で中国の人権弾圧を非難
2021.07.18
画像: IRFサミットの冒頭で挨拶するサム・ブラウンバック元宗教自由大使/IRFサミットのWebsiteより。
《本記事のポイント》
- 「北京オリンピックは、ジェノサイド・オリンピックだ」(クリス・スミス下院議員)
- 「信仰者への迫害問題よりも気候変動を優先するのは愚かである」 (ポンペオ元国務長官)
- ジェノサイド認定に日本が尻込みするのはなぜか?
アメリカのワシントンDCで7月13日から15日にかけて、「いつ何処においても、如何なる時も宗教的自由を」を標語に、信教の自由を促進する国際的信教(宗教)の自由会議(International Religious Freedom Summit(IRFサミット))が開催された。
サム・ブラウンバック元国務省宗教自由大使が音頭を取って、全世界から信教の自由の実現を求める同志が一堂に会した。
元々は信教の自由による国際的連携を外交の主軸の一つに据えたトランプ前大統領によって、国務省で開催されていたが、今年は民間での開催となった。
登壇者は、アントニー・ブリンケン国務長官(ビデオ)、マイク・ポンペオ元国務長官、クリス・スミス下院議員(ニュージャージー選出)、ナンシー・ペロシ下院議長(ビデオ)、新疆ウイグル自治区の弾圧経験者らなど党派を超えた顔ぶれが参加。今年は、中東やアフリカの信教の自由の侵害問題などと共に、大きな焦点となったのは、中国共産党の新疆ウイグル自治区の「ジェノサイド(民族大量虐殺)」問題である。
本記事ではジェノサイドに絞って、登壇した2人のスピーチを紹介したい。1人目は、対中強硬派で知られるスミス下院議員、そして2人目は、ポンペオ元国務長官のスピーチである。
「北京オリンピックは、ジェノサイド・オリンピックだ」(クリス・スミス下院議員)
20年以上前に、フランク・ウルフ下院議員による、歴史的で包括的な、突破口となった法律「1998年国際的信教(宗教)の自由決議(The International Religious Freedom Act of 1998」が採択されました。その時から、中国は「信教の自由」の特に重大な違反者である特別に懸念されるべき国(Country of Particular Concern(CPC))と指定されてきました。
習近平国家主席と中国共産党は、キリスト教、イスラム教、チベット仏教、法輪功の信徒に対する迫害の度合いを飛躍的に高めています。
また中国共産党は、新疆ウイグル自治区でイスラム教徒の組織的な破壊を行っています。
リークされた文書を報じたニューヨークタイムズ紙によると、習近平氏は「慈悲を示すな (show no mercy)」と、臆面もなくジェノサイドを推進しています。
私は5月18日に、「北京政府のジェノサイド・オリンピック」についての下院公聴会の議長を務めましたが、オリンピックの開催国および開催都市を別の国の別の都市にするか、あるいはボイコットすべきであると議論しました。
中国共産党を、道徳的にも法的にも罰する方法が探究されなければなりません。
「信仰者への迫害問題よりも気候変動を優先するのは愚かである」 (ポンペオ元国務長官)
トランプ政権の最後に中国による新疆ウイグル自治区の人々に対する人権侵害を「ジェノサイド」と認定しました。
宣言を出すまでに時間がかかったのは、相当な議論があり、この認定が単に象徴的なものだけでなく、行動を起こす原因となるからです。現政権も、このジェノサイドを止めるために、行動を起こすことを希望しています。同じことは1930年代のドイツに起きました。
現政権は、中国との関係で最大の問題は気候変動だとし、信教の自由の問題を副次的問題として扱っていますが、このやり方は私から見ると愚かに見えます。信仰者への迫害問題よりも、気候変動で中国と手を組むことがあってはなりません。
政府がこの不可侵の権利について懸念を示していないのは、危惧すべきことです。
新疆ウイグル自治区で行われているのは、強制労働、強制不妊手術、堕胎などであり、自由が失われることについて心配する多くのアメリカ人が心を痛めています。
信教の自由が失われたところでは、すぐに政治的自由も失われ、ジェノサイドのようなことが起き、専制支配が世界を支配するようになります。信教の自由の確保がジェノサイドを防ぐ基礎になるのです。
トランプ政権はこの弾圧に立ち向かうために、世界と連携することを方針として据えていました。もしこれを正しく行えば、我々は勝利するでしょう。
主は、我々を見守っています。そしてジェノサイドを止めることは、絶対に必要であると同時に可能なのです。
ジェノサイドとはどのような時に認定されるのか
折しもIRFサミットは、前政権を受け継ぎ新疆ウイグル自治区の人権侵害を現バイデン政権がジェノサイドであると認定したのとほぼ同じタイミングで開催された。
ジェノサイドについては様々な定義があるが、最も厳格とされる国連のジェノサイド条約(集団殺害罪の防止および処罰に関する条約)ではこう定義されている。
第2条 民族、道徳、人種、宗教団体の全部または一部を破壊する意図をもって行われた以下の行為のいずれかであると規定する。
(a)グループのメンバーの殺害。
(b)グループのメンバーに深刻な身体的または精神的危害を加える。
(c)集団の全部あるいは一部の物理的破壊をもたらす生活条件を故意に強制する。
(d)グループ内の出生を防ぐための措置を強要する。
(e)グループの子供を強制的に別のグループに移す。
第3条では、(a)集団殺害(ジェノサイド)、(b)集団殺害を犯すための共同謀議、(c)集団殺害を犯すことの直接且つ公然の教唆、(d)集団殺害の未遂であっても、処罰の行為の対象となると規定する。
ホロコースト時代にこの用語をつくったポーランド人弁護士のラファエル・レムキンは「すべての犯罪のなかでもっとも凶悪なものとして扱わなければならない」としているので、中国にとっては、大変な汚名を着せられることになる。
この認定を行えば、制裁や軍事的介入(保護する責任等による)まで含めた具体的な行動をとるよう、議会はより一層の圧力を政府にかけられるようになる。
これまでの国務省によるジェノサイド認定は、アメリカとそれほど深い経済的つながりを持たないボスニア、ルワンダ、イラクなどの小さな国が対象だった。その意味で、バイデン政権が、トランプ政権最後のジェノサイド認定を継承したことは、中国との亀裂が入ることをも自覚した上だったはずで、その意味では勇気ある決断だったと言える。
ジェノサイド認定に日本が尻込みするのはなぜか?
日本はジェノサイド条約を批准していないし、民間団体が使うより厳格ではない意味での「ジェノサイド」であっても認定していない。
その背景を考えてみると、根本的に神から与えられた不可侵の権利である「人権」についての考えがもとより希薄であることにその原因の一つがあるように見える。それにより憲法が定める人間の生存権の解釈が空しくなり、ジェノサイド認定を阻んでいるように思えてならない。
人権とは、我々が神仏の子であり、神の似姿として創られていると自覚するときに生まれてくる概念であり、至高の存在を前提としなければ、それがどれほど尊い概念であるかが理解できない。
さらに信教の自由と共に政教分離について定めた憲法第20条の存在も手伝って、生存権と対の概念になっている信教の自由という積極的権利よりも、無神論という消極的権利が助長されたことからも、善悪の価値判断を不問にしたり、判断を先延ばしにしたりする現在の日本の傾向性がつられてきたように見える。
要するに、IRFサミットで多くの登壇者が述べたように、全ての「自由の礎」に信教の自由があるという自覚が欠如しているのである。
しかし人間の命のもとには、「始原の神の情熱」がある。
トマス・アクィナスは、そんな魂を守ることは善であるとして、これを擁護した。
従って、神の生かしたいという強い情熱からつくられた魂の「抹殺」を意図する国家は、人権を尊重する全ての民主主義国家の敵であり、決して放置すべきではない。
この意味で、日本政府が新疆ウイグル自治区の強制労働に加担する企業を放置していることは、恥ずべきことである。米上院が14日に可決したウイグル自治区産製品の禁輸法案を可決したため、今後ユニクロのようなケースが禁輸措置の対象となる。日本がまず襟を正さなければ、日本に対する信頼が揺らいでしまう。
信教の自由が民主主義を守る
大川隆法・幸福の科学総裁は、こう述べて民主主義の尊厳の根拠を述べている。
世界の多くの国々で「民主主義のほうがよい」と言われていますが、「人間は神の子、仏の子である」という事実があるからこそ、民主主義は素晴らしいもの、立派なものになります。人間が単なる"物"であり"機械"であるならば、人間は尊い存在ではありません。物が集まっているだけ、機械が集まっているだけであれば、民主主義もまったく尊くありません。「神の子、仏の子」であるからこそ尊いのです。実は、「信教の自由」と民主主義はつながっています。本当は、民主主義を守るために、「信教の自由」や「言論の自由」等があるのです。(『国家の気概』第2章)
本会議に参加した信教の自由の権威であるトーマス・ファー博士も、アメリカ独立宣言の趣旨について説明する中で、こう述べた。
「信教の自由という権利は、すべての人に宗教的真理を信じることを保障するものです。信仰を持たないという選択はありますが、この基本的人権の固有の目的ではありません」
「また信教の自由なくして、人は人として完全に生きることができません。だから不可侵の権利だと理解されなければなりません」
「これは政府からではなく神からの贈り物なのです。正統な政府の仕事は、この不可侵の権利を全ての国民に対して守ることです。もし不可侵でなければ、政府が権利とするものが権利となります。これは中国共産党を始めとした全体主義国家の論理です」
神様からの贈り物である信教の自由を政府が保障しなければ、民主主義の美しさや尊さが失われ、人間が完全に人間として生きることができない──。そんな当たり前の事実を自覚しなければ、日本がきっかけとなり、西側の結束が揺らいでいく。中国包囲網の完成に向けて、日本の"民主主義"の改革も急務である。
(長華子)
【関連書籍】
『国家の気概』
幸福の科学出版 大川隆法著
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2019年3月16日付本欄 米国務省の大使「中国は宗教との戦いに勝つことはできない」
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2021年7月14日付本欄 米国務省が報告書で中国政府の「ジェノサイド」を明記 日本政府は肚を括って価値判断を示すべき
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2021年1月号 インタビュー集 - なぜ中国は宗教を恐れるのか 中国に「信教の自由」を広げよ
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2020年12月20日付本欄 日本全体が"アイヒマン"!? : 神の愛の在り処を求める人々が新たな"第三帝国"の暴走を止める
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