中国の李克強首相、全人代で習近平氏への"抵抗"見せる!? 【澁谷司──中国包囲網の現在地】
2020.06.03
《本記事のポイント》
- 李克強首相が共産党に不都合な数字を暴露
- 李発言の裏に、各派閥の習政権への不信感!?
- 身内からも……? 習政権は"四面楚歌"
中国の李克強首相は5月28日、全国人民代表大会(全人代)の記者会見で「2019年、中国人の平均年収は3万元(約45万円)だった」と公表した。注目すべきはそれに付け加えて「中国には月収1000元(約1万5000円)の人が6億人もいる」と明かしたことである。
月収1000元ということは、年収が1万2000元(約18万円)にしかならない。この月収では、1キロ30元(約450円)以上もする肉は食べられない。また、中小都市の1カ月分の家賃にもならないだろう。
李克強首相が発表したのは、共産党にとって明らかに"不都合な数字"だ。
というのも共産党政府は2016年3月、王岐山中央紀律委員会書記(当時)を中心に、第13次5ヶ年計画として、2020年までに「小康社会」を実現するという目標を掲げた。これは、「ややゆとりのある社会」ということだ。しかし実際、「新型コロナ」の蔓延によって習近平政権は、今年のGDP目標数値さえ打ち出すことができなかった。
この事実上の"敗北宣言"に輪をかけるように、「月収1000元の人々が6億人も存在する」という惨状が、わざわざ公表されたのだ。「小康社会」が、"絵に描いた餅"に終わる公算は、客観的に見てますます高まっている。
経済政策で出番なかった李克強
李克強首相の暴露は、習近平派への"反撃"だった可能性がある。
共産党政権の経済政策は元来、首相の"専権事項"だったはずだ。ところが前述の通り、首相でもない王岐山が、第13次5ヶ年計画で「小康社会」を実現するとぶち上げた。李首相からすれば、"越権行為"である。無論、それを許したのは、習近平主席だろう。
同時に習主席は、かねてより劉鶴副首相を重用してきた。李首相には、ほとんど出番がなかったのである。
こうしたことから李首相は、「習近平派が主導してきた経済政策は失敗している」ことを、暗に周知しようとしているのではないか。
李克強発言の裏に、各派閥の習政権への不信感!?
だとすれば当然、李首相には党内で確固たる「反習近平派」の支持があると見るべきだろう。そうでなければ、たとえ首相といえども、やすやすと中国の実態を暴露することはできなかったはずだ。
「反習派」の代表格は江沢民系である「上海閥」に間違いない。習主席と王岐山による「反腐敗運動」で、徹底的に叩きのめされた。習主席らに対する深い怨みは、想像に難くない。
李首相の出身母体である胡錦濤系「共青団」はどうか。彼らは以前、微妙な立ち位置だった。
2012年11月、当時の胡錦濤主席は辞任する際、「(これ以上)腐敗がはびこれば党が不安定となるリスクが増し、党の統治が崩壊する可能性がある」と党内で訴えた。したがって「共青団」は最初、習主席と王岐山の「反腐敗運動」を支援していたふしがある。
その時、胡主席は江沢民前主席ら古参幹部に対し、習近平新指導部へ干渉しないよう、涙ながらに訴えたと伝えられる。胡主席は任期時、江沢民元主席らから散々に干渉を受けたため、新指導部には自らが経験した苦労をさせたくなかったのだろう。ところが皮肉にも、それが習主席の"暴走"を招いた。
こうした反省や、現在の習政権の政治を見て、「共青団」も現時点では、「反習派」の一翼を担っているのではないだろうか。
さらに、習主席に近いはずの「紅2代」・「紅3代」(元党幹部の2世・3世)の中にも「反習派」は存在する。
そして各派閥の元老達も、習主席の政治手法─終身制導入や「第2文革」発動等に対し、眉をひそめている。
こうした政権基盤の揺らぎを、李首相の暴露は象徴している。
身内からも……? 習政権は"四面楚歌"
習主席は身内からも厳しい目で見られているという噂もある。
習近平夫人の彭麗媛と娘の習明沢氏が近頃、習主席と別居したと報じられている。彭夫人と明沢氏が、中国共産党による香港への武力弾圧に反発しているからだという。2人は、香港版「国家安全法」制定にも反対だと噂されている。もしそうだとすれば、ハーバード大学で心理学を専攻した明沢氏は、父親の強硬路線に疑問を抱いているのだろうか──。
いずれにせよ、目下「習近平派」は"四面楚歌"の状態にあると言っても過言ではない。だからこそ、習政権は、香港版「国家安全法」の制定や尖閣諸島や南シナ海等で強硬路線(「戦狼外交」とも言われる)に転じているのではないだろうか。
アジア太平洋交流学会会長
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
【関連書籍】
大川隆法著 幸福の科学出版
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「自由・民主・信仰」のために活躍する世界の識者への取材や、YouTube番組「未来編集」の配信を通じ、「自由の創設」のための報道を行っていきたいと考えています。
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