資産家が海外に移住する際、株式の含み益(※)などに所得税を課す「国外転出時課税制度」が導入された。

1日に始まった同制度は「出国税」とも呼ばれ、1億円以上の金融資産を持ち、直近10年のうち5年以上日本に居住していた人が対象だ。日本に住む資産家が、株式売却益に税金がかからない「タックス・ヘイブン(租税回避地)」に移住して株式などを売り、税逃れをすることを防ぐことが主な目的だ。

(※)持っている株式が上昇し、時価が買ったときの値段より高くなった場合の、時価と取得価格の差額のこと。

日本の高税率は富裕層にとって魅力がない

日本では、株式の売却益に対して、20%の所得税・住民税が課され、さらに復興特別所得税が課される。一方、シンガポール、香港、スイス、ニュージーランドなどでは、株式の売却益は非課税だ。合法的な節税として、日本を脱出して海外移住を考える資産家は少なくない。

今後は、出国税によって、株式などを保有する個人が、海外移住のために出国する際、実際には手元にある株式を出国時に売却したものとみなし、その利益部分に20%が課税される。OECDは多国籍企業の課税逃れを防ぐため、加盟国に含み益への課税を勧告し、ドイツやカナダではすでに導入済みだ。今回、日本も足並みをそろえたことになる。

富裕層が脱出する国ではなく移住してくる国を目指す

出国税の問題として、課税対象に、長期にわたる海外転勤なども含まれるということが挙げられる。5年(最大で10年)以内に日本に帰国すれば課税が免除される猶予期間もあるが、まるで税金を人質にして日本に戻って来させるような制度であり、経済活動の自由が制限される。

日本の中小企業やベンチャー企業は果敢に海外市場を攻めている。しかし、自社が保有する株式をもとに課税されれば、海外進出もしづらくなる。結果として、日本企業の海外展開の機会を国家が制限することにつながるのではないか。

今、世界のあちこちで、税金が安い国への富裕層の脱出劇が繰り広げられている。その問題の根底には、「成功者に高い税金をかけて再配分する」という社会主義的発想がある。豊かになった人から財産を取り上げる国ではなく、国内企業が成長し、海外の富裕層までも移住してきたくなる国を目指すべきではないか。高所得者への課税こそ、見直すべきである。(真)

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