オバマ、ロムニーどちらが勝っても借金に苦しむ。アメリカの凋落を止めるカギは日本にある。写真:ロイター/ アフロ

2012年12月号記事

編集長コラム

アメリカの凋落を止める方法

どちらが勝っても財政赤字で大変

11月6日の大統領選後、アメリカはどこに向かうか。

オバマ大統領の1期目ですでに、これから10年間かけて、国防費を1兆500億ドル(約83兆円)減らす一方、社会保障に9400億ドル(約75兆円)注ぎ込むことが固まっている。オバマ氏が再選されれば、国防費は戦後最低レベルに落ち込む。

ロムニー氏が勝てば米軍はほぼ現状維持。ただ、副大統領候補のライアン氏が筋金入りの緊縮財政論者なので、経済再建に急ブレーキがかかり、財政的にさらに苦しむ可能性が高い。

結局、 どちらが勝っても、巨額の財政赤字で首が回らない状態が続く。 その結果、アメリカは2013年からの4年間で、覇権国から「普通の国」になってしまうのか。

大戦後のイギリスのように覇権国から転落?

第二次大戦後のイギリスは、財政赤字のために覇権国から転落した。

19世紀後半、イギリスは世界の製造業の半分を占め、売買をポンドで行った。その基軸通貨圏を世界一の海軍が守ったが、第一次大戦、第二次大戦でGDP(国内総生産)の6割分を戦費に投入。アメリカから巨大な借金をした。そのため戦後、海軍を動かすお金がなくなり、空母の多くをフランスやオランダ、オーストラリアに売却、大艦隊を解体した。

ポンドの基軸通貨の地位は、アメリカに強引に奪われた。アメリカが1944年、国際通貨基金(IMF)の設立協定に、金との引き換えを保証する通貨をポンドからドルに変更する条文をねじ込んだためだ。

今のアメリカは、「莫大な借金で国防費が削られ、基軸通貨の信用を失いかけている」という意味では、第二次大戦後のイギリスに極めて近い。

軍事力が実は借金財政を成り立たせている

しかし明らかに違う点がある。当時のイギリス政府の借金は外貨建て(ドル建て)で、今のアメリカ政府の借金は自国通貨建て(ドル建て)ということだ。

イギリスは、コツコツ稼いでドルで借金を返さなければならなかった。アメリカの場合、基軸通貨としてのドルが世界中で受け取られるので、もっと大量に刷っても構わないし、政府の財政を手当てすることもできる。

ドルの威力を大統領が自覚していれば、米軍の維持・強化もできるし、思い切った景気のテコ入れも可能になる。

加えて、米軍が世界最強であり続けるならば、最後の最後に切羽詰まった時、どこかの金持ち国を占領し、財政赤字を埋め合わせることができる。つまり、 「米軍のパワーがドル札と米国債を世界中で通用させている」 というのが、現在のアメリカによる覇権の基本構造だ。

トップリーダーにその認識があれば、アメリカは覇権国としての寿命を延ばせるが、大統領選を見る限り、人材を得ているとは見えない。アメリカの復活はさらに4年後の大統領選まで待たなければならないようだ。

米退役空母4隻を日本は買うべし

アメリカが輝きを失うこの4年間、その隙間を埋めるのは日本しかいない。

米ヘリテージ財団は、経済情勢によっては2020年に米海軍のすべての空母、潜水艦が動かせなくなると予測。シンクタンクの新アメリカ安全保障センター(CNAS)は日本が複数の空母を持つよう提言している。

通常型空母なら、退役したキティホーク、ジョン・F・ケネディ、コンステレーションの3隻が現在、再稼動も視野に保管されている。加えて原子力空母エンタープライズも今年12月に退役する。 退役空母4隻を日本が買い取ったうえで、人員削減された米軍搭乗員を乗せて空母運用のノウハウを教われば、日米双方の利益は大きい。

また、今後何十年かかけてドルの価値がじわじわ下がり、世界の通貨の約6割を占めるドルの流通量が減るのは避けられない。その穴を埋めるのは、ユーロ危機が続く中では日本円しかない。中国の人民元も候補だが、自国製品を「半値」で世界中に売る「為替操作国」である以上、その資格はない。 日本が「強い円」で世界の商品を買い、アジアを中心に円を流通させると、円の準基軸通貨化が見えてくる。

つまり、軍事的、経済的な日米の連携が世界の安定を生み出す。 これがアメリカの凋落を差し当たり止めることのできる一つの方法だ。

(綾織次郎)