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ペロシ米下院議長の訪台後、中国とロシアを同時に敵に回す「二正面作戦」を巡って、アメリカでますます議論が盛んになっています。

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ペロシ氏が訪台した同日、米上院議会でフィンランドとスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟が賛成多数で承認されましたが、ジョシュ・ホーリー議員(共和党)が一人、「対中国を優先すべきだ」と反対票を投じ、議会演説でこう語りかけました。

「我々の最大の敵国はヨーロッパではなくアジアにあります。そしてこの敵国に反撃するにあたって、我々は後れを取っているのです。(中略)中国政府はあらゆる機会を活用して、自らの勢力を拡大しようと試みており、これはアメリカへの支配をも含んでいます。中国政府が、アメリカや他の国々が中国に頭を垂れざるを得ない世界を望んでいることはミステリーでもなんでもなく、公言されている野望です」

「そして真実は、我々はもはや彼ら(中国政府)を止める立場にいないのです。これは厳しい真実ですが、それでもなお事実であり、アメリカ国民が聞くに値するものです。アジアにおける我々の軍事力は、本来あるべきようには展開していません。米インド太平洋軍司令官はこのことについて、何度も証言してきました。我々は同地域(インド太平洋地域)において必要とされる兵器も設備も有していません。(中略)

(一連の兵器・設備の不足に)加えて、我々はまだ、台湾侵略から始まり得る、中国による太平洋支配を止めるための、一貫した戦略を持っていないのです。そして我々は、そうした戦略を増強し、実行するために必要とされるだけの注意と資金を投入していないのです」

「米海軍作戦本部の長官がこのほど、統合軍は二つの異なる紛争を同時並行で対処するだけの規模を全く有していないと証言しました。(中略)我々は(中国の現実的な脅威に対して)何かしなくてはなりません。我々は(中国問題を)優先し、集中すべきなのです。これは、アメリカにとって最も差し迫った国家安全保障上の利益、つまりアジアにおける中国に関する問題を優先するために、我々はヨーロッパへの関与を減らさなければならないことを意味しています」

議会投票および上記の演説に先んじて、ホーリー氏は同様の内容の記事を、「なぜ私はスウェーデンとフィンランドのNATO加盟に賛成しないのか」と題して、保守系メディアのザ・ナショナル・インタレストに投稿しています(1日付)。

ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニストであるトーマス・フリードマン氏も1日の論説で、「二正面作戦」を避けるよう提言しました(本欄「ナンシー・ペロシ米下院議長が台湾を訪問 レガシーづくりを狙うも、ウクライナと台湾問題を同一視するのは根本のところで間違い」参照)。ただ、同氏がウクライナに集中するよう述べたことを踏まえると、「ヨーロッパから引き上げて対中戦略を優先すべき」としたホーリー氏の指摘とは対照的でしょう。

一連の、二正面作戦は非現実的であると指摘する声を受け、ワシントン・ポスト紙のコラムニストとCNNの政治アナリストを務めるジョシュ・ロギン氏は、「懐疑論者たちは間違っている。アメリカは中国とロシアの両方に対抗できる」と題した論考を同紙に掲載(4日付)。ホーリー氏およびフリードマン氏の主張を、それぞれ右派・左派の誤った考えを象徴するものとして批判しました。

しかしロギン氏による「中露への二正面作戦は可能だ」という主張に対し、トランプ前政権で国防次官補代理を務めたエルブリッジ・コルビー氏はこのように一蹴。

「違う宇宙では、あるいはできるかもしれない。しかし2022年の地球において、アメリカは同時並行で二つの大きな戦争を戦える軍を持っておらず、近々そうなる見込みもない。そして中国は台湾を巡る戦争に勝つかもしれない。これらはご存じのように事実だ。我々の戦略はこれら(事実)を考慮に入れるべきではないか?」(5日付ツイッター)

コルビー氏は、アメリカの外交・軍事・経済戦略を考案するシンクタンク「ザ・マラソン・イニシアチブ」の代表を務め、トランプ政権下では中国を「戦略的競合相手」だとした防衛戦略をまとめた人物です。

ペロシ氏の訪台をきっかけとして、中露を相手取った非現実的な「二正面作戦」を巡り、アメリカはどちらの戦いを優先させるべきかという議論が、より活発に行われています。

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