《本記事のポイント》

  • 南北会談が行われたが、アメリカでは、北朝鮮への先制攻撃を求める声もある
  • 米リベラルメディアも、過去数十年に渡る「対話戦略」の失敗を認識
  • 会談や五輪は、次の行動への「布石」だと見るべき

このほどの南北会談を受け、北朝鮮へのアプローチが今後どのように変化するか、日本でも議論が盛んになっている。

果たして、このまま「対話路線」へ移行するのだろうか。本欄では、アメリカの報道から北朝鮮戦略がどのように動くか考えたい。

「手遅れになる前に先制攻撃を」

アメリカの歴代政権の国防長官顧問などを務め、現在はワシントンの大手研究機関「戦略国際問題研究所」のシニア・アドバイザーとして活躍するエドワード・ルトワック氏は、南北会談に先立ち、「It's Time to Bomb North Korea(今こそ北朝鮮を空爆せよ)」と題した記事を発信した(8日付米誌フォーリンポリシー電子版)。

その中で、ルトワック氏は今回の南北会談について、このように述べた。

「結果は今までと同じことになるだろう。北朝鮮の無法なふるまいに対し、韓国が多額の援助で報いるのはほぼ確実だ。かくして、国連安保理がようやく合意した制裁強化は効力を失う。一方の北朝鮮は、核弾頭を搭載した移動発射式の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を複数配備するという目標に向けて着実に歩みを進めていくだろう」

ルトワック氏は、アメリカが北朝鮮を先制攻撃した場合、韓国が北朝鮮からの報復を受けるのではという論に対して、「ソウルの無防備さはアメリカが攻撃しない理由にはならない。ソウルが無防備なのは韓国の自業自得である面が大きい」とし、次のように結んだ。

「今のところ、北朝鮮に対する先制攻撃という選択肢を米軍幹部が排除しているのは明らかに見える。だが、北朝鮮が核兵器を搭載可能な長距離弾道ミサイルを実戦配備するまでに残された月日でアメリカが北朝鮮を空爆すれば、果てしない危険から世界を救える」「北朝鮮は異常だ。手遅れになる前に、アメリカの外交政策はその現実を自覚すべきだ」

「アメリカは北朝鮮を過小評価してきた」

リベラルメディアを代表する米ニューヨーク・タイムズ紙も、対話路線を全面肯定しているわけではない。

南北会談に先立った6日、「How U.S. Intelligence Agencies Underestimated North Korea(米情報機関はいかにして北朝鮮を過小評価してきたか)」というタイトルで、北朝鮮がアメリカの予想に反して急速に核・ミサイルを開発してきた過去を分析する記事が掲載された。特に、金正恩が、前代の金正日や前々代の金日成よりも、核・ミサイル開発を重要視したことに言及している。

また、南北会談が行われた9日付の記事では、北朝鮮との緊張緩和を求める韓国政府に一定の理解を示しつつも、韓国政府に対してこのように注意を喚起した。

「もし、北朝鮮の非核化を明確にしないまま、金正恩氏と文在寅氏が両国の外交関係を再構築しようとしているのであれば、彼らはトランプ氏による北朝鮮への軍事的な脅しを複雑にし、中国に対して北朝鮮への制裁を強化させようとしてきた国際的な努力を台無しにしてしまうだろう」

日韓を含め、国際社会は過去何度も北朝鮮との「対話」を行ってきた。しかし、北朝鮮が核・ミサイルの開発を止めることはなく、結局は問題を先送りにしたに過ぎなかった。これまでと同じような対話を繰り返すだけでは、北朝鮮の脅威を止めることはできない。アメリカ世論もこうした意識を持っているようだ。

「対話戦略」の失敗は繰り返さない

実際、北朝鮮が次なる核実験に向けて準備を行っているという分析も出ている。

北朝鮮に関する分析を専門とするウェブサイト「38ノース」は11日、これまで北朝鮮が行った6回の核実験のうち5回が実施された核実験場で、地下トンネルの掘削が活発化していると報じた。

北朝鮮による核・ミサイル開発は、刻一刻と進んでいる。

トランプ政権が、軍事攻撃という選択肢をとるかは分からないにしろ、少なくとも、過去の政権のように、いたずらに対話を繰り返し、問題を先送りすることはしないだろう。北朝鮮がアメリカ本土に届くミサイルを開発するまでには、けりをつけるはずだ。

南北会談や平昌(ピョンチャン)五輪は、「一時休戦」ではなく、次の行動への布石だと見るべきだろう。

(片岡眞有子)

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